酒盛りか?野生のチンパンジーたちが発酵した果実のお酒で飲み会をしていた件

2025年4月25日(金)12時0分 カラパイア


 お酒を嗜むのは人間の特権。そう思ってはいないだろうか。だがしかし、野生の動物たちもまた、微量のアルコールを含む発酵した果実を楽しむことがあるんだそうだ。


 アフリカのギニアビサウにあるカンタニェス国立公園で、チンパンジーたちが「酒盛り」をする様子が研究チームにより撮影され、「人間と酒の関係が解き明かされるかも?」と話題になっている。 


この研究は『Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00281-7]』誌(2025年4月21日付)に発表されたものだ。


仲間たちと飲酒を楽しむチンパンジー


 2025年4月21日、イギリスのエクセター大学が率いる研究チームは、アメリカの科学誌「Current Biology[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00281-7]」に、興味深い報告を掲載した。


 ギニアビサウのカンタニェス国立公園に生息する野生のチンパンジーが、自然に発酵したアフリカパンノキの果実を摂取し、仲間と分け合う様子を初めて記録したと発表した。​



発酵果物を分け合うチンパンジー image credit:Bowland et al.


 この行動は、「非人類の大型類人猿におけるアルコール含有食品の共有の初の証拠」であり、チンパンジーが仲間同士の絆を深めるために、発酵果実を利用している可能性を示唆している。


 今回観察されたチンパンジーたちは、「アフリカパンノキ」の果実を好んで食べていた。これはドリアンにも似た巨大な果実で、枝から落ちた後、地面でゆっくりと発酵が進んでいく。


 調査では、果実のアルコール濃度は最大で0.61%に達していたという。これはビールの1/10程度だが、チンパンジーの食事の60〜85%は果物なので、低濃度のアルコールでも、すぐに蓄積されてしまう可能性がある。



image credit: Facebook @Urban Tree Revival Initiative[https://www.facebook.com/share/p/1EJfhoCAaP/]


 とはいえ、研究者たちはチンパンジーが「酔っぱらう」まで飲むことはないだろうと見ている。野生の環境で酔っ払ってしまえば、生き残るのが難しくなるからだ。


 研究チームは2021年から2023年にかけて、自動カメラによる長期観察を実施。17頭のチンパンジーが、10回にわたって果実を摂取する様子を記録した。


 注目すべきはその「共有」行動で、90%の個体が他の個体と果実を共有しており、そのうち半数以上はアルコールを含んだ発酵果実だったという。


 チンパンジーは、基本的には食物を独占する傾向が強い動物である。それにもかかわらず、今回のように自発的に発酵果実を仲間と分け合う行動が見られたことは非常に興味深い。


 研究者たちは、この共有行動が単なる偶然ではなく、「アルコールによるリラックス効果が社会的絆を深める助けになっているのではないか」と分析している。



2匹の大人のオスが発酵したアフリカパンノキを食べている様子 image credit:Bowland et al.


「酔っ払いの猿の仮説」とアルコールの進化的意義


 人間が酒を通じて社交を行うように、チンパンジーにも「飲みニケーション」のような文化があるのかもしれない。このような視点は、人類のアルコール文化の起源を理解するうえでも示唆に富む。


 今回の研究成果は、「酔っ払いの猿の仮説(Drunken Monkey Hypothesis)」とも関連していると言えるかもしれない。


 この仮説は、果実を主食とする霊長類が、自然発酵した果実に含まれるアルコールを進んで摂取してきたとするものである。


 特に果実が熟す過程で生じる揮発性のアルコールは、ニオイで認識できるため、「熟した果実を見つける手がかり」として利用されていた可能性がある。


 別に酔っぱらうことで進化するという意味ではなく、発酵した果実はカロリーが高くなるため、これを好んで摂取した猿は生存する確率が高かったのではないか、ということなのだ。



チンパンジーの大人のメスが残された発酵アフリカパンノキを食べている様子 image credit:Bowland et al.


 つまり、霊長類はアルコールを「避けるもの」ではなく、「進んで摂取するもの」として利用してきたのかもしれない。そしてそれは、現代人のアルコール耐性や、酒を用いた社交文化の土台となった可能性すらあるのだ。


 だがはたして、チンパンジーをはじめとする現代の霊長類たちにも、この仮説は当てはまるのだろうか。


 実は2015年にも、ギニアのボッソウ地域で、チンパンジーが葉を使って発酵したヤシの樹液を飲む様子が記録されている。



 この時のアルコール濃度は最大6.9%に達しており、明らかに酔うレベルだったと言う。今回の観察はそれよりもアルコール濃度は低いが、チンパンジーたちが「意図的に発酵果実を選んでいる可能性」がある点に注目が集まっている。


自然界における“ほろ酔い”の効能


 研究チームは「チンパンジーが発酵果実の摂取により、社会的ストレスを軽減し、群れ内の関係性を緩やかに調整しているのではないか」と考察している。


 人類はこれまで数千年にわたり、アルコールを摂取してきたが、なぜ意図的にアルコールを求めるのかはいまだに解明されていない。


人間の場合、アルコールを飲むとドーパミンとエンドルフィンが放出され、幸福感とリラックス感が得られることは知られています。
また、宴会などの伝統的な行事を通してアルコールを共有することは、社会的な絆を形成し、強化するのに役立つこともわかっています。
野生のチンパンジーがエタノールを含む果物を食べ、共有していることがわかった今、問題は、彼らも(人間と)同様の恩恵を得ている可能性があるかどうかです


 エクセター大学の保全生物学・生態学者で、研究共著者のアンナ・ボウランド氏は、このように語っている。


 今後この研究が進めば、「人間はなぜ酒を飲むのか」が明らかにされる日が来るかもしれない。


 人類の進化の歴史にとって、酒を嗜むことはお互いのコミュニケーションを円滑にし、親族と非親族間のつながりを強化し、ひいては社会資本の構築にいたる重要な要素であったのかもしれないのだ。


それを調べるためには、良好な関係を築いた個体を長期にわたって観察し、摂食行動や社会行動の変化をモニタリングするとともに、食品中のエタノール濃度を測定する必要があります


 霊長類たちが当たり前のようにアルコールを摂取するとなれば、我々人類と酒の切っても切れない関係も納得するしかないわけだ。


 種としてのヒトが現生人類に進化するまでの間に、もしかしたらアルコールは非常に重要な役割を担っていたのかもしれない。だからって見境なく泥酔して良いわけではないけどな。



References: Wild chimpanzees share fermented fruits[https://www.cell.com/current-biology/fulltext/S0960-9822(25)00281-7] / Wild chimps filmed sharing ‘boozy’ fruit[https://www.eurekalert.org/news-releases/1080834]

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