公的事業で「税金のムダ使い」防ぐ資金調達法の妙技

1月17日(金)6時0分 JBpress

琵琶湖の風景(*本文とは直越関係ありません)

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 前回は、滋賀県東近江市で「水と森」の保全に関わる山口美知子が立ち上げた〝薪割りプロジェクト〟を紹介した。今回はやはり山口がタッチするもう一つの取り組みを取り上げたい。

(前編はこちら)「よそ者公務員」だからできた里山再生の薪割り事業
https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/58933


琵琶湖を赤潮から守るせっけん運動

 補助金といえば、「縦割り」「無駄」「利権」といったマイナスのイメージがあるが、それとは全く異質の手法がある。

 それは、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)だ。行政の事業を民間事業者などに委ねる手法である。民間事業者はまずは投資家からお金を集める。成果が出たら、行政側が投資家にお金を出す。

 従来の補助金は、成果があるなしは関係なかったが、SIBは成果を問う。つまり、成果があった事業にだけ、お金が出る。税金の無駄遣いを排除できる仕組みだ。SIBはイギリスで広まり、世界で関心が高まっている。

 山口美知子は、東近江市で行っているSIBをぜひ紹介したいと述べ、私を建物に連れて行った。それが、「あいとうエコプラザ菜の花館」だ。そこは、廃食油を回収しリサイクルして使用する拠点だ。

 循環型の東近江市のシンボルのような存在となっている。その建物を運営しているのは、NPO法人「愛のまちエコ倶楽部」だ。事務局長の園田由未子は「ここで回収している使用済みのてんぷら油は三万リットルです。それをリサイクルし、粉せっけんやバイオディーゼル燃料を作っています」と説明した。

 粉せっけんを作ったのは、1981年からだった。きっかけとなったのは、77年に琵琶湖に大量発生した赤潮だった。赤潮の原因は合成洗剤に含まれるリンだった。そこで、滋賀県で合成洗剤の使用をやめる「せっけん運動」が広まった。

 その後、食器洗いや洗濯などに使う粉せっけん作りが始まった。てんぷら油などを回収して作るリサイクル粉せっけんだ。


ボランティアだけでは持続可能性に限界が

 園田は「お母さんたちは時給300円ほどでせっけんを作ってきました。ほとんどボランティアです。資源回収で集まったペットボトルなどに入れた素朴な商品。琵琶湖への愛があふれた活動ですが、それには限界があります。次世代につなげるためにもちゃんと賃金を払える仕事づくりが目標となりました。お金が回って、持続可能な仕組みが必要なのです」と説明した。

 そこで、新たなブランドを立ち上げることになった。それが新ブランド「BIWACCA」だ。学校や病院などに売り込む計画だ。

 しかし、パッケージ作りにも費用がかかる。その資金調達の際に採用したのが、前述したSIBだ。民間から集めたお金を元手に、事業を始めた。1口2万円で市民などから出資してもらった。せっけんの新ブランド立ち上げには、合計50万円集めた。成果が出たら、行政側が、出資者にお金を返す。

 山口は話す。「市民の間では、『そんな事業を民間がやるなら、僕らは応援するよ』と、次々に出資してくれた。自分たちの出したお金で実際に事業が行われる。行政に投げるのではなく、市民参加型となる」。

 事業をやる民間企業やNPO法人も自分たちで歩いて出資者を見つけなければならない。

「成果が出ないと、出資者にはお金が返ってきません。事業主体は、そうした事態は避けたい。そのため、事業に必死になります」


熱意ある公務員が地域を変える

 SIBの対象となるのは、市が採択した事業だ。事業主体は到達目標を設定し、期末に目標に達したかどうか判断される。

 結局、市がお金を払うことから、財政的な負担は変わらないように見えるが、山口は「市民が地域の課題に当事者意識をもつことが大事だ。こうした仕組みを利用することで、行政に依存する意識が薄らぐ。『できることは自分でやる』。この仕組みで、そんな意識がつくられている。長い目で見れば、財政負担の軽減にもつながる」との考えを示す。

 山口は専門家などと協議し、SIBなど地域のお金の流れをコーディネートする「東近江三方よし基金」の設立に動いた。現在はこの基金の常務理事という肩書も持つ。「地域活動で、いつも問題となったのは、資金です。NPO法人などは融資を受けるのは、簡単ではない。補助金という枠組み以外で何かないかと検討し、基金の設立にたどり着きました」。

 山口は強調する。「これまでは市がその事業を審査して、補助金を出す。それきりだった。しかし、この仕組みは市民が自分たちで地域づくりをするきっかけになる」。

 山口を取材して、私の公務員のイメージは変わった。縦割りや前例踏襲といった公務員ばかりではない。地域づくりは人づくり。火種をもった公務員が飛び込めば、地域が躍る。

筆者:出町 譲

JBpress

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