ソレイマニ暗殺の米国ドローン「超ハイテク攻撃」の衝撃 21世紀の戦争はこう変わる

1月22日(水)6時0分 文春オンライン

 アメリカ軍によるイランのソレイマニ将軍暗殺で一気に高まった米イラン緊張。ソレイマニ将軍にトドメを刺したのは、アメリカ軍のドローン兵器だった。最新のドローン兵器は、一体どんな性能なのか。東京大学先端科学技術研究センター特任助教で、軍事アナリストの小泉悠氏がレポートする。


◆◆◆


ソレイマニにトドメを刺した「リーパー」



ソレイマニ将軍を殺害したドローンと同型のMQ-9リーパー無人機 ©getty


 2020年は、米軍によるイランのソレイマニ将軍暗殺という衝撃で幕を開けた。同人はイスラム革命防衛隊の対外介入工作部隊「クッズ」を率い、中東全域で秘密工作を指揮してきたとされる人物。イランからすれば国民の英雄、米国から見れば目の上のたんこぶといったところであろう。



 そのソレイマニ将軍を殺害したのは、米空軍のMQ-9リーパー無人機であった。ヘルファイア対戦車ミサイル(射程約10km)などの武器を最大で1.7トン搭載して14時間は飛び続けられる性能を持ち、偵察・監視から攻撃まで幅広い任務をこなせることから、今やあらゆる軍事作戦に投入されている無人機だ。


 CIA(中央情報局)の指揮下で重要人物の暗殺に使われることも多く、おそらく今回のソレイマニ暗殺作戦も同様であろう。イスラム過激派組織ISの処刑人「ジハーディ・ジョン」を2015年に殺害したのも、やはりリーパーのミサイル攻撃だった。


 米国が無人機を重宝するのは、人間の乗る在来型航空機にはないメリットゆえだ。燃料が切れるまで空中に長時間滞空して監視や警戒任務を行えること、そして敵の攻撃や事故で墜落した場合でも人的被害が出る恐れがないことは、その最たるものである。


 冷戦後、世界中の地域紛争に介入するようになった米軍としては、これは極めてありがたい特性であった。超大国間の激烈な大戦争が想定されていた冷戦期から一転、1990年代以降の米軍が向き合うことになったのは無数の地域紛争。そこで求められたのは、味方の被害を極限におさえつつ、いつ果てるとも知れない小規模戦闘を乗り切ることだったのである。



中国製無人機「彩虹5」の実力は?


 こうした無人兵器の活躍は、今後さらに広がりを見せることになろう。米軍は海上監視から空中給油に至る幅広い任務で無人機の実用化に踏み出しており、2030年代以降には有人の戦闘機が無人戦闘機と連携して戦う「ロイヤル・ウイングマン(忠実な僚機)」構想を実現させる計画である。


 欧州、ロシア、中国といった世界の主要国も、無人兵器開発に本腰を入れつつある。特に中国はリーパーと同クラスの「彩虹5(CH-5)」無人機(各種のセンサーや武器を搭載し、48から60時間の滞空が可能とされるが、正確な性能は明らかにされていない)等を実用化して輸出までしている。


 また、将来を見据えて「スウォーム」技術の開発でも米国としのぎを削っている。ごく小型の無人機を数百機連携させて群(スウォーム)のように振る舞わせ、敵の防空システムを無効化してしまうという技術であり、実用化すれば新しい無人機戦闘の形態が出現することになろう。



 無人の新兵器開発はドローン以外でも進んでいる。陸軍国であるロシアは地上で戦う無人戦闘車両の開発に熱心で、その一部(小型戦車のようなキャタピラ式の戦闘ロボット「ウラン-9」等)はすでにシリアでの実戦にも投入された。さらに米中露は水中を長時間航行できる無人潜航艇計画を進めており、今後、無人兵器はありとあらゆる戦場に姿を現すことになりそうだ。


 ただ、その運用は意外と難しい。無人兵器といっても、現在は人間が遠くから操作する遠隔操縦(リモコン)兵器であり、相応の数のオペレーターや強力な通信回線、整備要員など多種多様のインフラを必要とする。そして遠隔操縦である以上、一旦電波が途切れると無人兵器は全く役に立たない。また、各国が人工衛星に対する攻撃・妨害技術の開発を進めていることを考えると、無人兵器のコントロールに使われる衛星通信回線やGPSも有事にはアテにならない可能性が高い。


 実際、前述したロシア軍の戦闘ロボットは、弾詰まりが起きても直せない、市街地では操縦電波が途切れて行動不能になる、など、シリアの戦場で多くの困難に直面した。ロボット兵器が人間と完全に置き換わるには、まだもう少し時間がかかると見るのが現実的であろう。



兵士の脳にチップを埋め込み意思疎通


 とはいえ、戦略家たちは今後の技術的ブレークスルーを見据えて将来のビジョンを描き始めている。


 中でも最大の注目株は、人工知能(AI)だ。米軍はすでに情報の選別や判定など指揮官の意思決定を補佐するためにAIを導入し始めており、ロシア軍でも戦闘機にAIを積んで咄嗟の判断を補助させる試みが始まった。さらに今後は、AIがその場で状況を判断し、攻撃を行う自律型致死兵器システム(LAWS)が登場することになろう。これまでのような遠隔操縦兵器ではない、本当の無人兵器である。


 戦場の将来を変えると目される技術はこれにとどまらない。兵士と兵器、あるいは兵士同士の脳にチップを埋め込み、それぞれを接続して高速で意思疎通を行えるようにするブレイン・インターフェース技術や、兵士の肉体的能力を著しく高める身体改造技術、敵の兵器やその燃料を腐食させる非致死性の化学兵器。レーザーやビームなどの指向性エネルギー兵器や、マッハ5以上の速度で飛行してミサイル防衛システムを回避する極超音速滑空兵器。さらには従来型コンピュータをはるかに凌ぐ計算速度を誇る量子コンピュータなど、様々な新技術が戦場の光景を大きく変えると予想されている。


 そうした新技術が導入された未来の戦場を考えてみよう。仮に主人公を兵士Aとする。Aの脳にはチップが埋め込まれ、一緒に戦う戦友やはるか前方の戦闘ロボットと思考を直接リンクさせて戦う。Aは、戦友の目やロボットのセンサーに映ったものを、まるで自分の目に映るもののように「見る」ことができる。また、Aの目に映った光景は衛星通信回線を介してすぐに、本土の上級司令部に転送されていくだろう。



 一方、敵側の量子コンピュータに搭載されたAIは、戦場全体におけるわずかな電磁波環境の変化を感知してAの部隊を発見し、スウォーム化した数百機のマイクロ無人機を差し向けて襲撃させる。Aたちはこれに対してレーザー迎撃システムで秒間数百発にも及ぶ光の矢を浴びせかけるが、一部の無人機は突破し、顔認証技術でAのいる部隊の兵士たちを狙い撃ちにしていく……。


 以上はあくまでも筆者の予想する将来戦の一例である。まるでSFのように思われるかも知れない。だが、将来の戦闘が従来イメージされているようなものから大きく様変わりすることはほぼ確実であろう。



21世紀の戦争はどうなる?


 では、これから21世紀におこる戦争とは、どのようなものだろうか。ここで指摘しておきたいのは、「戦闘」と「戦争」を区別する必要性である。技術によって戦闘の様相が変化する一方で、戦争のあり方は社会的要因により強く影響を受ける。


 先進国はもはや多数の死者を出す大規模国家間戦争を望まないし、耐えられもしないだろう。他方、テロリストは民間人の大量死をものともせず、むしろそれを目的にテロを起こす。世界的に都市化が進む一方で貧富の格差はますます拡大し、不満をため込んだ人々はフェイクニュースに容易に飛びつく。


 21世紀の新しい戦争は、こうした社会的状況を強く反映したものとなるだろう。それは単純にかつての兵士をロボットに置き換えたようなものではないはずである。戦争の目的や遂行方法自体が大きく変わるということだ。


 新しい時代の戦争は宣戦布告なしで始まるかもしれず、降伏宣言のようなはっきりした終わりがないかもしれない。旅客機を自爆兵器に変えたアルカイダ、インターネットを介入の道具にしたロシアなどのように、使われる武器も思いも寄らないものである可能性もある。



 また、新しい戦争は勝利を目的としないかもしれない。たとえば、1990年代のユーゴスラヴィア紛争では戦争による国家の崩壊につけ込んで軍閥やマフィアが台頭し、支配者として振る舞った。2014年にロシアから軍事介入を受けたウクライナは国土を紛争地域化され、NATOやEUに加盟する見通しを当面絶たれている。


 どちらのケースでも軍事力を行使する側は敵を打倒することには関心がなく、紛争が続くことそのものに利益を見出しているのである。「戦争のための戦争」と言い換えてもよい。


 一方で、我が国が直面する東アジア正面においては、古典的な国家間関係が現在も比較的よく機能している。こうした状況では、例えば南シナ海をめぐって米中が現実に衝突する場合、古典的な戦争が新しい兵器を使って展開される、ハイテク版ミッドウェー海戦のような事態が生起するかもしれない。


 ただ、東アジアにおいてさえ戦争は20世紀以前のアナロジーで捉え切れるものではなくなりつつあり、今後その傾向はさらに加速することになろう。


 無人兵器が将来戦でどのような役割を果たすかは、こうした文脈の上で考えて初めて意味を持つ。テクノロジーにとどまらず、戦争の将来像を幅広く考察することこそが2020年代以降の安全保障を構想する上での鍵を握るはずである。



(小泉 悠/週刊文春デジタル)

文春オンライン

「ソレイマニ」をもっと詳しく

「ソレイマニ」のニュース

トピックス

BIGLOBE
トップへ