地球温暖化のウソ? ホント?(3)温暖化が進むと、住めなくなる国や地域がある?

2024年1月28日(日)5時10分 ウェザーニュース

2024/01/28 05:12 ウェザーニュース

2015年にフランスのパリで開かれた国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択され、2016年に発効しました。
このパリ協定では「世界的な平均気温の上昇を、産業革命以前に比べて2℃よりも十分に低く保つともに、1.5℃より低く抑える努力をする」ことなどが長期の目標として掲げられました。
これは非常に重要な目標ですが、達成するのは簡単なことではありません。もし対策を何も講じなかった場合はどのようなことが起こるのでしょうか。
気候変動問題の専門家である江守正多さん(東京大学 未来ビジョン研究センター教授/国立環境研究所 上級主席研究員)に聞きました。

Q1/地球温暖化対策を各国が何もしなかった場合、世界の気温はどうなりますか?

◆A/何も対策をしないと、76年後の2100年には、世界の平均気温は4℃上昇する見通しです。
「気候モデル」といって、物理法則に基づいてコンピューターを使って行うシミュレーションで調べることができます。
これを使って、何も対策をしなかった場合と、世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑えることを目指した場合、それぞれの2つの世界の気温を見てみましょう。

各地点で、1900年頃と比べた気温の変化を色で表しています。
2040年代頃までは、違いはあまり見られませんが、1950年代から違いが出始めて、60年代には大きな差異が認められます。
対策をしなかった場合、2100年に世界の平均気温は今より約4℃上昇すると見込まれます。
場所によっては、気温はさらに大きく上昇する可能性があります。特に北極に近い、ユーラシア大陸の北部などでは8℃以上、上昇することもありえます。これは気温が高まると、北極の氷や雪が溶けて減ることが大きく関係しています。
一方、世界の平均気温の上昇を2℃未満に抑える対策を講じた場合は、2050年くらいの気温に踏みとどまることができると考えられています。

Q2/温暖化が進むと、住めなくなる国や地域があるというのは、本当ですか?

◆A/2100年までにモルディブの8割が水没するなどの予測があります。
温暖化が進むと、住めなくなる国や地域が出ることは十分に考えられます。発展途上国の人たちが、とりわけ大きな被害を受けるでしょう。
たとえば、アフリカの乾燥帯に住む農業従事者などは、温暖化が進むと、干ばつが増えて、農業を営めなくなり、深刻な食糧不足、水不足になり、収入もなくなる可能性があります。
バングラデシュやインド洋のモルディブ、太平洋のツバルやキリバスなどの海抜が低い場所で、高潮などによる浸水が頻発することも考えられます。
モルディブの例を少し詳しく見てみましょう。

モルディブはおよそ1200の島からなる海上国家です。
そのモルディブでは、すでに95%以上の島で浸食(流水・雨水・海水・氷河などが陸地などを削り取っていくこと)が始まっています。
浸食の主な原因は温暖化による海面の上昇です。
IPCC(気候変動に関する政府間パネル)では、温暖化への対策をしないと、2100年までに1m程度、海面が上昇すると指摘しています。
モルディブの島の約8割は海抜1m以下です。対策を何も講じないと、これらの島々は80年後には水没している可能性があります。
どうして海面上昇が起こるのか分かりますか?
グリーンランド、南極大陸などの氷の融解が進むと、海水の量が増えます。さらに、温暖化によって、海水温が上がり、海水は膨張していきます。
水温が高くなるほど、水は膨張するため、海水の体積が増えるのです。これらの結果、海面が上昇し、モルディブなどで大きな被害が出る可能性があります。
日本人にとっても、他人事(ひとごと)ではありません。
南極大陸などの氷の融解が進み、海面が仮に3m上昇した場合、首都圏などでは水没する地域がたくさんあります。

東京都の江東区、品川区、港区、江戸川区、葛飾区、足立区、千葉県の千葉市、習志野市、船橋市、市川市、浦安市、神奈川県の川崎市、さらに海(東京湾)から遠く離れた埼玉県の川口市、八潮市、草加市、三郷市、越谷市なども、全域ではありませんが、水没する可能性が高いです。
これらの地域が水中に沈むとしたら、都市機能や住む場所、生活のありようなどを大幅に変えなくてはいけなくなります。

Q3/現在、すでに住めなくなっている地域はありますか?

◆A/ 2022年にパキスタンは洪水で国土の約3割が浸水などの被災をしました。
近年、猛暑や豪雨が原因で甚大な災害が世界各地で起きていることは、多くの人がご存じでしょう。
一例として、2022年8月にパキスタンで起きた大洪水を挙げることができます。この大洪水によって、パキスタンの国土の約3割が浸水などの被災をしました。

この年の夏の大雨やその少し前に起きた熱波が水害に影響したと考えられています。熱波によって氷河が溶けて、河川の水位が上昇したところに大雨が降って、洪水を引き起こした可能性があります。
温暖化対策にしっかり取り組まないと、時代が進むほど、温暖化は進行していきます。ということは、未来の人たち、私たちの子孫に大きな悪影響が出ます。
発展途上国の人たちは二酸化炭素などの温室効果ガスをあまり排出していないし、当然ですが未来に生きる人たちは今、温室効果ガスをまったく排出していません。それなのに、将来、温暖化によって、大変な思いをする。これは私たちの責任なのです。
たとえば、外国の人たちのせいで100年後に日本の国土の3割が洪水で被災するとしたら、日本人はどう思うでしょうか。多くの人が怒り、嘆くのではないでしょうか。
地球温暖化を他人事ではなく、我がこととして捉えることが重要なのです。
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江守さんの解説から、温暖化についての実感が少しずつ湧いてきたでしょうか。ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、様々な情報をわかりやすく解説し、みなさんと一緒に地球の未来を考えていきたいと考えています。
監修/江守正多
東京大学 未来ビジョン研究センター 教授。国立環境研究所 地球システム領域 上級主席研究員

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