「儲からない」ドキュメンタリー作品で食っていく法

2月2日(土)6時0分 JBpress

『ドキュメンタリー映画は、配給宣伝費も入れれば制作に1000万円はかかりますが、劇場に1万人のお客さんが来てくれても半分程度しか回収できません』(大島)。「映画は作るのも大変だけど、出来上がってからも大変ですよね」(田原)

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「カネはかかるが儲からない」とされるドキュメンタリーの世界で、テレビ番組だけではなく、映画制作にも乗り出している大島新氏。現在公開中の『ぼけますから、よろしくお願いします。』は異例のヒット作となっている。ドキュメンタリーでいかにして食っていくか。前回に引き続き、その秘訣を聞いてみた。(構成:阿部 崇、撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)

(前編はこちら)

田原総一朗氏(以下、田原) 大島さんはテレビ番組の制作だけじゃなく、ドキュメンタリー映画も撮られていますね。どういう作品を撮ってきたんですか。

大島新氏(以下、大島) これまでに5本のドキュメンタリー映画を作りました。監督をしたのが2本、プロデュースしたのが3本です。

 監督したのは、2007年に唐十郎さんの1年を撮った作品(『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』)、それから2016年の映画監督・園子温さんのドキュメンタリー(『園子温という生きもの』)です。

 プロデューサーとして制作した映画の最新作が『ぼけますから、よろしくお願いします。』という作品です。認知症になった妻を介護する夫の姿を、実の娘が撮ったものなんですが、お陰様で現在公開中のこの作品が、ドキュメンタリー映画としては異例のヒットとなっています。


娘だから撮れた両親の老老介護のリアル

田原 その作品、どういうところがウケているんですか?

大島 セルフドキュメントの一種になると思いますが、家族が撮っている作品なので、他人の前ではなかなか見せないような人間の生々しい姿が映像に収められているんですね。

 監督・撮影をしているのはテレビ業界の名物女性ディレクターで、劇場公開映画を作るのは初めてという人なんですが、彼女はなかなか業の深い性格で、泣きながらカメラを回しているわけですけど、どこかで「おいしいシーンが撮れた」と喜んでいる彼女もいるわけです。

 それが作品のある種の凄みを加えているんですね。

田原 作品では、老老介護の壮絶な姿も描かれているんでしょうけど、どういうところが大変なんですか。

大島 老老介護の当事者である老夫婦は広島の呉で生活しているんです。そして、撮影している娘は一人娘で、東京で働いている。そういう状況ですから、娘は娘で、「両親の世話をするために、東京の仕事を辞めて、呉で仕事を見つけなきゃいけないかも」という葛藤も描かれています。

 一方、父親は父親で、東京で仕事面でも周囲から評価されるようになっている娘には、自分の仕事を全うしてほしいという思いもある。そういった、介護に直面した人が抱えることになる、介護そのものの苦労だけでなく、それに付随する様々な葛藤や苦悩を捉えているところが観る人の共感を呼んでいるんじゃないでしょうかね。

田原 どれくらいヒットしているんですか。

大島 ドキュメンタリー映画というのは、観客動員で1万人を超えるのがけっこう難しいんですけど、この作品は公開12週間で5万人を超えました。

田原 それはすごい! そういったドキュメンタリー映画って、制作費はどれくらいかかるものなんですか。

大島 ものにもよりますが、安いものだと500万円くらいでしょうか。「ちょっとお金かけちゃったな」という作品だと1200万円くらい。さらにそこに配給宣伝費がかかりますので、最低でも1000万円くらいはかかる計算です。

田原 その1000万円を回収するには何人ぐらい入ればペイするんですか。

大島 ドキュメンタリー作品のお客さんはシニアが多いので、だいたい1人当たりの入場料を1300円として計算するんですが、そのうち劇場が半分持っていきますので、お客さん1人の単価が650円。さらにその2割を配給会社が持っていきますので、残りの520円がわれわれの取り分となります。

田原 じゃあ1000万円を回収するためには、だいたい2万人のお客さんに観てもらう必要があるわけだ。

 でもさっき、ドキュメンタリーは1万人はいればまずまずっておっしゃっていたけど、そうするとほとんどのドキュメンタリー映画は赤字っていうこと?

大島 実はそうなんです。劇場にお客さんが1万人来てくれても、だいたい520万円にしかなりません。ただ、ドキュメンタリー映画って、劇場以外で開かれる「上映会」っていうのもあるんですね。そういうところでかけてもらえれば、また収入になります。

 あとはDVD化したりテレビ放映やネット配信で売り上げを立てる。そうやってなんとかトントンに持っていくというのがドキュメンタリー映画の現実ですね。

田原 映画って作るのも大変だけど、作ってからもどう製作費を回収するかで大変なんですよね。

大島 本当にそうですね。基本的にはドキュメンタリー映画は儲かりません。もう好きだからやっているとしか言えないですね(笑)。


テレビで求められる「一瞬も視聴者の気を逸らさない」編集

田原 大島さんはテレビと映画、両方を手掛けているわけですけど、やっぱり将来的には映画をメインでやっていくつもりなんですか。

大島 ドキュメンタリー映画は続けていきたいですが、自分が育ったのはテレビの世界なので、テレビ番組は作り続けていきたいです。

田原 テレビと映画、作る上で違いってありますか。

大島 一番違うのは、映画は一度スクリーンの前に座ったら、よほどのことがない限り最後まで観てもらえる、という点でしょうね。

田原 入場料を払ってはいるからね。

大島 ええ。その点、テレビは「いつ消されるか、いつチャンネルを変えられるか分からない」という心配が常にある。そこは大きな違いです。その違いによって、ソフトの質が違ってくるなというのは身に染みています。

田原 どう違ってます?

大島 テレビはスイッチを切られたりチャンネルを変えられないために、煽って見せていく必要が出てきますよね。これはもう、観ている人の注意を一瞬でも逸らしちゃいけない、という編集になってきます。同じ素材を扱っていても、映画にするんだったら、その時には意味が分からない映像があっても、後になって分かってもらえればいい、という構成も可能です。

田原 なるほど、そうか。テレビでは、まともな構成よりも、煽って視聴者を惹きつけるような編集が優先されるんだ。

大島 そうですね。だから、作り手としては、そういった制約から離れられるNHKのBS放送の視聴率が1%とか2%でも許されるような番組が、やっていて一番楽しい。逆に視聴率10%以上を求められるような番組をやると、自分の作品じゃなくなってしまう感覚があるんです。

田原 大島さんの会社にはスタッフは何人いるんですか。

大島 現在は14人です。


「事務所の広さだけはパパに勝っているわね」

田原 そのメンバーで、テレビや映画を作り、そして作った後の営業までやっているわけだ。

大島 ええ。スタッフを抱えているのである程度は稼がないといけません。ですから、テレビ番組の制作である程度利益を出し、時々映画も作るという感じです。とはいえ映画作りを「社長の道楽」にしちゃいけないので、こちらでもちゃんと黒字が出るようにしないといけないと思っています。

田原 映画はもちろんテレビでも、かつてに比べてドキュメンタリーを作る人材がどんどんいなくなっていると思うけど、大島さんみたいな人がなんとか支えているというわけなんだね。

大島 そう言ってもらえるとありがたいですが、地方のテレビ局などにも非常に刺激的なドキュメンタリー番組を作っているディレクターがいます。まだまだ面白い世界だと思います。

田原 それにしても、経営的には楽じゃない中で、14人もの社員を支えて、よくやっていますね。

大島 なんとなくやってこられただけですが、うちの母には「あなたは仕事の面でパパに全然及ばないけれど、事務所の広さだけは勝っている」と言われます。

田原 そうか。大島渚さんの事務所ってスタッフは多くなかったもんね。

大島 そうですね。父の事務所も僕の会社と同じ赤坂にありましたが、雑居ビルの中の狭い一室でしたね。

田原 ドキュメンタリー映画は海外に出したりはしないんですが。

大島 1本出したことがあります。『ラーメンヘッズ』という最初から海外を狙って作った作品ですが、日本のクレイジーなまでのラーメン文化をドキュメンタリーにしたものです。ミニシアターですが、アメリカ30都市で公開されました。それまでに日本のドキュメンタリーでそんなに上映された作品はありませんでした。

田原 成功だったわけですね。

大島 そうですね。ちょっとお金がかかりすぎた面はありましたが、高く評価してもらいました。

田原 じゃあこれからも海外は狙っていく?

大島 そうですね、作品にもよりますけど。まあ焦らずに、1つずつ丁寧に作っていきたいなと思っています。

田原 頑張ってください。

筆者:阿部崇

JBpress

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