日本の大発明を生んだ物質が再び大活躍か

2月13日(水)6時14分 JBpress

窒化ガリウム(GaN)が用いられる青色発光ダイオード 日本発の青色LEDの登場により、白色LEDが作れるようになり照明の世界に革命をもたらした。(出所:名古屋大学ウエブサイト)

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 青色発光ダイオード(青色LED)は日本発の発明として名高い。青色LEDのおかげで、LEDで光の三原色すべてを作れるようになり、白色のLEDが実現した。

 白色LEDはこれまでの蛍光管に代わり、省エネで長寿命の照明として普及し、照明の世界を一変させた。

 青色LEDには窒化ガリウム(GaN)という半導体物質が用いられている。

 GaNは半導体物質として、シリコンよりも優秀であり、GaNで半導体素子を製造すればシリコン以上のパフォーマンスが期待できる。

 GaNを用いた素子は高速で動作可能であることが買われ、電波用の半導体素子として、携帯電話の基地局や人工衛星に用いられてきた。また、軍用のレーダーにも用いられている。

 このGaNをパワー半導体として用いることで、電力制御の省エネが実現可能であると言われてきた。しかし、価格が高かったので、携帯の基地局のような用途では使用できても、一般に普及させることはハードルが高かった。

 ところが、2018年12月にアマゾン・ドット・コムでGaNを用いた超軽量充電器が販売され始めた。

 電力制御では、前回の記事で紹介したとおり炭化ケイ素(SiC)のパワー半導体の普及が始まり、鉄道車両などでシリコンとは別次元の省エネの実績を上げつつある。

 GaNの携帯充電器の販売開始は、SiCが開きつつあった新たな段階の省エネにGaNが加わり、SiCを超えるパフォーマンスで更なる革命的効率化をもたらす兆候かもしれない。


GaNとは

 GaNと略されることが多い窒化ガリウムは、その名のとおり窒素とガリウムの化合物である。化合物半導体と呼ばれる物質の一つである。

 高い電圧に耐えることなど、SiCと同じくシリコンよりも半導体としての物性が優秀である。

 パワー半導体は、高速でON・OFFのスイッチングを繰り返すことで電力を制御する。GaNでは、HEMTというスイッチングが特に速いトランジスタを作ることができる。

 「GaN HEMT」は高速動作ではSiCよりも優秀で、電圧により最大のスイッチング回数は異なるが最大でSiCの10倍程度に達するようだ。

 HEMTは高電子移動度トランジスタの略で、1979年に富士通で発明された。

 HEMTは半導体物質を層のように積み重ねた構造だが、層の界面で高密度の電子が電気を運ぶ役割を果たす。

 この高密度の電子の動きが速いため、高速でスイッチングが可能である。

 かつては砒化ガリウムで作られていたが、GaNを用いるとより高い性能のものができる。

 GaNのHEMTは高電圧に耐えるため出力を大きくでき、高速であるためより効率よく電波と電力の変換を行う。

 現在は、通信の高速化・大容量化が要求されている携帯の基地局や、小型で省電力であることも求められる人工衛星などでGaNのHEMTが活躍する。

 GaNは白色発光ダイオードを可能にし、照明を明るく低消費電力にした。そのうえ、電波用の半導体として目立たないところで、携帯社会を支えていたのだ。

 しかし、GaNは電波用の素子としてだけでなく、パワー半導体としての可能性も大きいといわれてきた。

 高速でスイッチングでき、ある程度の高電圧に耐えられることはパワー半導体に向くからだ。


GaNがもたらす省エネと小型化

 パワー半導体としてのGaN HEMTは高速でスイッチングできることにより、大きな省エネや小型化をもたらす。

 現在では家電からEVまで、モーターを制御する機器としてインバーターが普及している。

 インバーターは交流を出力するが、交流の波形がなめらかであればあるほどロスが減る。高速でのスイッチングは、よりなめらかな出力を可能にする。

 省エネだけでなく、小型化の可能性も大きい。パワーエレクトロニクスの機器には、コンデンサー、コイル、トランスといった部品が含まれている。だいたい数センチ大のものが多い。

 これらの部品は電気を一時的に貯めたり、放出したりすることにより、電圧の変化を滑らかにする役割を果たす。直流では電圧を一定にし、交流では電圧が変化する波形をきれいにする。

 また、トランスは交流によって発生する磁力の変化を利用して電圧を変換する。

 容量は貯めなければならない電気の量に比例するが、貯める必要があるのはONの時間とOFFの時間の長さによる。高速でON・OFFをすればどちらの時間も短くなり必要な容量が減るので、小型化できる。

 また、交流の電気の場合、極性がひっくり返るサイクル(周波数)を短くすればするほど貯めなければならない電気や磁場が減る。

 例えば、ACアダプターでは昔は湯呑みのようなサイズがあり、どっしり重かった。鉄と銅の塊である大型のトランスや大きいコンデンサーが入っていた。

 それが、パワートランジスタの高速なスイッチングにより、商用周波数よりも周波数を上げた交流を作ることで、トランスのサイズを減らすことができた。

 その結果、トランスは「サイコロキャラメル」くらいになり、コンデンサーも小さくなり、ACアダプターは小型化できた。

 それでも、ノートパソコン用のACアダプターは、150〜200グラムあり、今でもパソコンの軽さを損なっている。

 GaNのHEMTを使用すると、シリコンのトランジスタを使用する現在よりもさらに小型化できる。ノートパソコン用のものはノートパソコン本体に入ってしまうほどにできるそうだ。

 GaNのHEMTが電力制御に普及すれば、すべての身の回りの家電、デジタル機器は、省エネできる上、そうした大幅な小型化の恩恵を受けることができる。

 これまで、携帯基地局や人工衛星など、特殊な用途に使われていたGaNであったが、先に述べたようにアマゾンでGaNを利用した充電器が売られ始めた。

 これは、家電やデジタル機器が画期的な省エネ、小型の手段を手にする最初の一歩ではないかと感じさせる。今はまだ目立たないが、非常に期待させる出来事ではないかと思う。


GaN半導体のさらなる可能性

 GaNのHEMTは家電やデジタル機器程度の電力では活躍できるが、GaNでは鉄道車両やハイブリッド車を動かすほどの大電力に耐えるものは、残念なことに作りにくい。

 よって、将来は、大電力が必要な分野ではSiCのパワー半導体が使われ、家電やデジタル機器などではGaNが使われるという住み分けをするのではというのが通説のようだ。

 しかし、青色ダイオードでGaNを扱ってきた豊田合成は、電車やハイブリッド車を動かす大容量の半導体をGaNで製造する研究を行い、昨年、試作品を発表している。

 現在、電車やハイブリッド車を動かすパワー半導体には、SiCを使用する開発が進んでいる。しかし、豊田合成のような開発が成功すれば、こうした分野にもGaNが進出することになる。

 仮に、SiCよりも半導体としての物性が優れるGaNの大容量パワー半導体が実用化すれば、SiCの半導体をしのぐ性能を実現できる可能性がある。

 かつて、照明の世界に日本発の革命をもたらしたGaNは、もう1回大きな革命を起こすかもしれない。

筆者:渡邊 光太郎

JBpress

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