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想田和弘監督が安倍政権を斬る!「安倍さんは民主主義をやめようとしている」「アベノミクスはただの筋肉増強剤」

LITERA2月14日(日)8時0分
画像:新作『牡蠣工場』、2月20日の公開を控え来日した映画作家・想田和弘氏
新作『牡蠣工場』、2月20日の公開を控え来日した映画作家・想田和弘氏

 多くの国民の反対を押し切り強行された安保法制成立など、安倍政権はいま"暴走"とも言える状況にある。しかし、昨年あれだけ盛り上がった反対運動とは裏腹に、いまだに安倍政権は高支持率を維持。この空気のなかで、意気消沈した言論人や表現者の多くが、政治的発言を再び封印し始めた。


 そんななか、変わらず、メディアやSNSなどで果敢にメッセージを発信し、運動へ関わり続ける映画監督がいる。


「安倍さんが民主主義をやめようとしていることは明らかなんです」


 そう語るのは、ニューヨーク在住の作家・想田和弘。ナレーションやテロップに頼らない「観察映画」の手法で、『選挙』『精神』などのドキュメンタリー作品を発表してきた。今年2月20からは、最新作『牡蠣工場』(かきこうば)が劇場公開(公式サイト=http://www.kaki-kouba.com/)される。いまの日本社会を覆っている問題をどう見るか。来日中の想田監督に話をきいた。


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■安倍首相とその支持者のほうこそファンタジーに浸っている
 
──先日、安倍政権の経済政策を担ってきた甘利明氏に収賄疑惑があがって大臣を辞任しました。ところが各社世論調査では、安倍政権の支持率は下落どころか上昇。安保法制成立後も同じ傾向がありましたが、どう思いますか。


想田 僕は、安倍さんが支持され、権力を保持しているのは、やはり僕たちの社会の多数派の価値観が、安倍さんの価値観に非常に共振しているからだと思う。典型的なのはアベノミクスでしょう。みんな、まだまだ高度経済成長期の幻想を追いかけているんですよ。実際には、現在の日本社会を人間のライフステージで喩えると、中年を過ぎて「老年期」にさしかかっているところ。ですが、安倍さんの国家像は「青年期」のそれですよね。


──たしかに「異次元金融緩和」や「一億想活躍社会」、あるいはTPPにしても、イケイケドンドンみたいなイメージがあります。


想田 しかし、それこそアベノミクスというのは筋肉増強剤みたいなもの。これを注射することで、見せかけの筋肉をつけた。そうすると、「あ!筋肉つくじゃん!」「20代の自分に戻ったぞ!」という幻想を抱かせてくれる。ライザップのCMに憧れるみたいなものですよ(笑)。中年太りをして、心肺機能が低下している自分を受け入れられない。だから安倍さんの価値観とは違う成熟した自己像に多数派の人たちが移行していくのは、日本ではもう少し時間がかかるんだろうと思います。


──ですが、右派やネット右翼など安倍首相の応援団はリアリストを自称していますよね。経済財政政策もそうだし、防衛や外交、日米関係についても「現実を見ろ」と言うでしょう。そのうえで反対派を「理想主義のお花畑」とか「ファンタジー」と攻撃している。


想田 いや、はっきり言って、安倍さんのほうがファンタジーです。だって、普通に考えてありえないじゃないですか。たとえば「お札を刷れば経済が良くなる」とか。そんなに単純だったらどの国でも刷りまくりますよ(笑)。本当は、そんなに筋肉増強剤を使いまくってどうすんの? いつまでも使うわけにはいかないでしょ? というのが"大人の議論"であって、それが現実を見据えた考え方だと思う。どちらが「ファンタジー」なんだと。TPPによって競争力を高めるとか言うけど、それも僕にはファンタジーとしか思えないわけですよ。農林水産省だってTPP交渉に入る前には、すべての関税が撤廃されれば日本の農林水産物の4割が壊滅するという試算を出していました。しかし、2013年3月に安倍さんがTPP交渉参加を表明した直後の世論調査(読売新聞)でも、60%の人がそれを評価した。これも幻想を追いかけている証拠だと言えるでしょう。



■誰が「搾取」しているか?という問題は、実はすごく根深い


──グローバリズムの問題でいえば、新作『牡蠣工場』では過疎化が進む岡山県の漁村・牛窓の工場を描いていますね。人手が足らずに中国からの出稼ぎ労働者を受け入れる。言葉にすればシンプルなあらすじですが、内容的には複雑な映画だと感じました。TPPに異議を唱えるつもりでこれを題材に?


想田 いや、それはないですね。僕は観察映画を撮るとき、事前のリサーチも、打ち合わせもしないし、台本も書きません。いきあたりばったりでカメラを回す。それがポリシーです。テレビドキュメンタリーでは散々台本やナレーション案を事前に用意するものをやってきましたが、そうするとどうしても、結論先にありきの「はめ絵」みたいになってしまうので。だから『牡蠣工場』の撮影も、牡蠣を剥く現場を興味深いなと思って撮っていたときに、ふとこう、カレンダーの横を見ると一枚の紙がありました。そこには「11月9日(土) 中国来る」と。中国くるってなんぞや?って思いまして。その後、どうも二人の中国人実習生がやってくるらしいと気がついて、ひとつの物語が立ち上がっていったという感じですね。


──最初『牡蠣工場』というタイトルを聞いたとき、なんとなく語呂から小林多喜二の『蟹工船』を思い浮かべたんですが、単純に「搾取される中国人労働者」という映画ではないですね。


想田 ちまたでは中国人実習生というと、ある意味「搾取の構造がそこにある」という文脈で語られることが多いわけですけれども、少なくとも、この『牡蠣工場』でお邪魔したところに限っていえば、雇い主、受け入れる側も、中国人の人たちがなるべく快適に過ごせるよう、いろんな工夫や努力もされているわけですよ。だから、一般的にレッテル貼りされがちな"鬼の経営者"や"搾取する側の人間"では、実はなかった。むしろ、僕のなかでそういうイメージが裏切られるというか、崩れていきましたね。


──映画のなかでは、後継者不足のなか、東日本大震災のせいで宮城から移住してきた牡蠣漁師の方が、牛窓で牡蠣工場を継ぐことが判明しますよね。これも、現場で撮りはじめてから知ったことなんですか?


想田 そうですよ。実はそのときに、僕自身も編集中に衝撃的なことに気がついた部分がある。映画のなかで、普段サラリーマンをされている牡蠣工場の親方の息子さんが出てこられて、僕がカジュアルに「この工場を継ごうと考えたことはなかったんですか?」って聞きますよね。そのときに「いや、ないです」っておっしゃる。そう言われたときに、僕は一瞬「なんで継がないの?」って思っちゃった。でも、後ですごく反省して。なぜかというと、僕自身もそうだったな、ということに気づいちゃったからです。実は、僕の親父は栃木県でスカーフとかマフラーを製造する小さな会社をやってる。僕は三人きょうだいの長男ですが、親父の会社を、僕もきょうだいも当然のように継がない。だから、このままだと親父が引退すれば会社は終わり。


──ご家族や親戚から工場を継げとは言われなかったんですか? 家業なら間接的にでもそういう雰囲気はあったでしょう。


想田 それがね、親父も周囲も、そんなこと一言も言わないんですよ。それはなんでだろう?と考えたとき、気がついたんです。もしかすると、僕らって、幼いころからずっとひとつのメッセージを受け取り続けてきたんじゃないか。それは「勉強しなさい。いい学校に行きなさい。ホワイトカラーになりなさい」という社会からのメッセージだったんじゃないか。逆にいえば、「第一次産業、第二次産業にいくと辛いですよ」ということでもある。僕は子どものころから、農業や漁業を目指しなさいとか、縫製の工場で働きなさいとか、そういうことをほとんど言われてきていない。それは多分、僕の家庭だけの話じゃなくて、社会に蔓延する歪んだ価値観なんだと思います。もしかして、親父が僕に継げと言わなかったのは、そういう価値観を親父も内面化しているからなんじゃないか。自分で縫製業をやりながらね。


──どうしてでしょうか?


想田 たぶん、これは文明の病なんですよ。アメリカでもそうだし、あるいは発展途上国なんかはもっと露骨になる。「貧困から抜け出すためには農業をがんばりなさい」って聞かないでしょ? むしろ「貧困から抜け出すためには学校へ行きなさい」というメッセージになる。「第一次産業や第二次産業はお金が儲からず、したがって社会的ステータスも低いので、そこから抜け出しなさい」というメッセージ。だからこそ、牡蠣工場にも親父の会社にも後継者がいないし、人手不足なわけです。たとえば「冬季に牡蠣を剥けば年間一千万円を保証します」と募集すれば人手だって集まると思うんです。でも、そんなに人件費をかけてしまったら、スーパーでは確実に牡蠣の値段があがる。すると消費者は買わない。それで、値段を抑えておくために安く働いてくれる人を外国から呼び寄せないといけなくなるし、同時に日本人の人たちの給料も上がらない。だからこそ人が集まらなくなるという悪循環。ということは、「誰が搾取しているのか?」という問題を究極的に考えると、実はそれは、私たち消費者なんじゃないか。僕たちが少しでも安いものを買いたいと思うことで、広く薄く、少しずつ括弧つきの「搾取」をしていることになる。これは根深い。安いものを買おうとするのは、僕は当然のことだと思うし、非難すべきことでもないから。しかし、結果的にそのしわ寄せが働く人にいっている。しかも、なぜ安いものを買おうとするかというと、きっとその人たちも安い賃金で働かされているからでしょう。下手をすると、ノーチョイス。この世に生まれるだけで、そういう構造に絡め取られれてしまうというカラクリに、僕はこの映画を作ったことで気づかされてしまったんですね。



■民主主義は瀕死だが、その旗を最後まで下ろしてはいけない


──消費者が労働者であることを忘れるというマインドは、政治に関してもあるように思えます。強そうに見える権力者に投票することで、実は有権者が自分の首を絞めているという構図。しかし、これを批判すると「左翼はいつもそうだよ」と呆れられるか、「反日だ!」攻撃されますよね。


想田 ははは、僕は左翼じゃないよ(笑)。だって僕は革命が良いなんて思ってないし、世の中をひっくり返そうとも思ってないもの。支持政党もないし。僕が政治的な運動や声明に参加するのは、個別の主張に賛同できるかどうかが基準。それに、社会の変化はゆっくりのほうがいいと思う。TPP反対もむしろ国内産業を守れという保守的な思想ですから。だから、むしろ僕は保守ですよ。だって、地域社会が大事とか、自然を守れとか、商店街大好き、とかね。ほら、保守じゃん(笑)。安倍晋三のほうがよっぽど革命家ですよ。


──あの安倍首相が、ですか。


想田 そう。安保法制ひとつみても、もうあれは革命と言っていいでしょう。戦後の法秩序をひっくり返しちゃったんだから。東大の憲法学者である石川健治氏に言わせれば「クーデター」です。しかも、第二次安倍政権誕生からまだたったの3年。その間にどれだけ安倍さんが変えましたか。秘密保護法、TPP、安保、あとはNHKの人事もそう。NHKの体制も、メディアの萎縮の仕方も、3年前とは全然ちがう。あの人はたった3年間でこの国をものすごく変えた。急進改革派ですよ。いや、はっきり言って急進的過激派です。僕は過激主義にはくみしない。


──しかも、安倍首相は反対意見にまったく耳を貸さない。レッテル貼りだとかなんとか言って。


想田 それはもう、なんていうか、最低ですよ。民主主義を守るつもりなんてまったくない、安倍さんには。それは改めて言うまでもないんです。自民党の憲法改定案を見ればわかるじゃないですか。僕は12年の4月からずっと申し上げている。彼らの憲法改定案を見れば、いまの自民党が民主主義をやめようとしていることは明らかなんですよ。だから、いまごろになって、それは民主的な進め方じゃないじゃないですか?って彼らに問うのは、すごく間抜けな話。


──昨年、想田監督はツイッター上で、菅官房長官がよく言う「その指摘は全くあたらない」「粛々と進めていく」などの"菅官房長官語"でレスポンスを行うという実験を行ってましたね。非常に痛快だったのですが、一方で、安倍政権の支持率が下がらないところを見ると、「民主主義を守れ!」というようなリベラル側の言葉もマスに届いていないのではないか、と思うことがあるんです。


想田 うーん......それはある意味、すぐにはどうにもならないのではいかと僕は思う。ハンス・ケルゼンというオーストリアの法学者が、ナチスが政権をとりそうなときに、"もう民主主義は重病人であって、死ぬことはわかっている。だから、私たち民主主義者は重病人を診療する医師のようなものだ"というようなことを言っていた。「民主主義者は身を忌むべき矛盾に身を委ね、民主制救済のために独裁を求めるべきではない。船が沈没してもなおその旗への忠実を守るべきである」と。ようは、たとえ民主主義が瀕死の状態であっても、しかし、自分は民主主義の旗を降ろすことはない。そうすることによって、あとでもう一度、民主主義が浮上する可能性が保たれるんだ、という趣旨です。僕はいま、その心境ですけどね。


──しかしそれだと、"負けはわかっているけれども、やってることに意味がある"みたいな、一種の敗北主義に陥らないですか。


想田 それはちがう。現実を見ているだけです。負けていいとは思わない。負けないためのあらゆる方策は講じるし、最後の最後までやれることはやる。しかし、たとえそれがうまくいかなったとして、そのときに何ができるか。それが、自分だけは民主主義の旗を下ろさないってことなんです。だから逆なんですよ。敗北主義じゃなくて、最後まで自分は負けないということ。人間、いつか死ぬとわかっていても、よりよく生きようとするでしょう。それと非常に似通っています。いま、この日本の民主主義というものは、どんどん悪くなっている。もしかすると、中国とか北朝鮮みたいになるかもしれない。だけど、自分が信じているものは変わらないし、旗は下ろさない。いまその覚悟が、各人に問われているんじゃないか。そう僕は思います。


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 インタビュー中、想田監督は、ただの一度も言葉を濁すことなく、安倍政権に対する的確な指摘を繰り返した。そして"何をしても無駄ではないのか"という沈鬱なムードに対して、「それでも民主主義の旗をおろさないことが重要」と力強く言い続けた。他方、自身の政治的発言と映画制作とは一線をひいているという。それは、『牡蠣工場』が放つ詩的な印象からも頷ける。


『牡蠣工場』は、瀬戸内海に面した小さな町を舞台にした、静かな物語である。決して悲壮感を喚起させようと仕掛ける映画ではない。しかし鑑賞後には、何かじりじりと追い詰められていくような、そんな感覚が、しこりみたいに残る。テレビやマスコミが流すものからこぼれ落ちているもの。想田監督は丹念に「観察」することで、それをあぶり出していく。


「安倍さんが『牡蠣工場』を見に来たら? そうだな、シンプルにこう聞きたい。『どう思いましたか?』って」


 言葉と映像の両側から時代を切り取る想田監督の活躍に、本サイトはこれからも期待したい。


(インタビュー・構成 梶田陽介)


■『牡蠣工場』 監督・想田和弘
 2月20日(土)より東京/渋谷 シアター・イメージフォーラムにてロードショー、ほか全国順次公開。詳しくは公式ホームページ(http://www.kaki-kouba.com)にて。
 また、1月に刊行された『観察する男 映画を一本撮るときに、監督が考えること』(ミシマ社)には、『牡蠣工場』を製作中の想田監督の思考が刻まれている。こちらも合わせて鑑賞すると、本作をより楽しめる。


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