杉山晋輔駐米大使、インタビュー詳報「非常に良好な日米同盟関係を維持していく」「中国に言うべきことは言う」

2月15日(木)22時33分 産経新聞

インタビューを受ける、3月から駐米大使として赴任する杉山晋輔氏=15日午前、東京都千代田区(佐藤徳昭撮影)

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 今年1月まで外務省の事務次官を務め、同月29日付で駐米大使に就任した杉山晋輔氏(64)が産経新聞のインタビューに応じ、就任にあたっての抱負を語った。杉山氏の一問一答は以下の通り。

 −−日米関係には現在、特段の問題はないという見方もあるが、どうか

 「中長期的に考えると、(先の大戦後)日米が同盟関係になり、日本外交の基軸は日米関係となった。その上で、近隣諸国との外交、あるいは国際社会との協調、あるいは国連といった国際組織の尊重というように、その時々によっていろんな言い方があるが、そういう日本外交をやってきた。その姿勢はきっと変わらないだろう」

 「ただ、時々によって米国の考え方もあるし、日本のやり方もある。若干の浮き沈みというか、関係の濃淡があったのは、きっと事実だ。その中で、過去にも首脳間で緊密な関係を築いた政治リーダーたち、それぞれが大変なご努力をなされたと思うが、特筆される関係を築いたリーダーたちがいた」

 「過去と比較してどうと言うのは適切ではないが、これだけ日米両首脳の信頼関係が築き上げられたのは、やっぱり安倍晋三首相の特筆すべき指導力だと思う。それからトランプ大統領(71)もそのことを極めて重視しているという意味で、今の日米関係は信頼関係に基づいた極めて強固な関係ということは間違いない」

 「ただ、今なぜ、過去の何十年間かを振り返ったかというと、これは日米関係だけではなくて、どんな同盟関係でもそうだと思うが、同盟関係の維持というのは、毎日毎日いろんなことに気を配り、いろんなことに意を用いて、これまで強くなったものを維持する、あるいはそれをさらに強化する必要がある」

 「一度できあがったら、それで同盟関係は毎日の努力をしなくても当然のようにあるということではない。首脳間の固い信頼関係ができあがったら、何もすることはなくて、これが当たり前で、そのままずっと続くと思うのは、決定的な間違いだ」

 −−日米関係に落とし穴があるとしたら、どこか

 「概念的にも同盟関係というのは、一度できあがったら、当然のようにそれが続くと思うのは間違いだ。だから、個別具体的な案件で、どこに落とし穴があるかというのは、そのときそのときにいろいろ考えなければならないことだ」

 「こういう盤石な日米同盟が首脳間の強固な信頼関係を基礎として、外交当局、あるいは外相レベルで、幅広い層の関係が強固に成り立っているということは、それは誇っていいと思う。だが、ある時点を取って、どれがどうだということではなくて、全体として維持していく努力はやらなければならないと思う」

 −−11月には米国で中間選挙がある。経済面でこれから日米関係がより厳しくなるという予測もあると思うが、その見通しとそれを防ぐ手立ては

 「質問に直接お答えする前に申し上げたいと思うのは、昨日(14日)も、1時間20分ぐらい、私も同席したが、電話会談を行った。普通の電話会談と比べれば、長い電話会談だ。それはやっぱり、両首脳間の意思疎通の深さ。何も意見対立をして長くなったわけではない。極めて深い、有意義な長い時間を使った意見交換が自然に行われた」

 「1年ぐらい前の話になるが、昨年の2月10日に日米首脳会談をやったときの共同声明は極めて重要な合意文書だった。あれは2ページから成るが、最初が外交安保で、2ページ目が経済、貿易、投資など。あの共同声明が、今の日米関係の全体のベースになっている」

 「現在、日米の二国間で考えれば、710億ドルの対米貿易黒字、米国からすれば対日貿易赤字がある。私は25年ぐらい前に、一等書記官としてワシントンの大使館の経済班にいた。そのときは、いわゆる日米貿易摩擦のまっただ中か、最後の方だったと思うが、当時は500億ドルというのがキャッチフレーズみたいに言われていた」

 「確かに当時は、対日赤字がずぬけて多いというわけではなかったが、一番多かった。日本の710億ドルが小さくて、米国にとって大きなものではないというつもりはないが、決定的にもっと大きな貿易赤字を持っている国もある」

 「貿易収支というのは、基本的には瞬間、瞬間の2国間の数字を取って考えるべきではなく、もっとグローバルに全体を見て考えるべきだ。ある瞬間の2国間の赤字とか黒字を問題にするのは、国際貿易を考える上ではあまり成り立たない議論だ。それは当時の500億ドルといわれていたときから同じだが、米国内で、政治的に耐えられない赤字であるし、特定の国との赤字が非常に大きい。日本は今、一番大きいわけではないが、私がいたときに比べれば、若干ではあるが増えていることは事実だ」

 「トランプ氏が言うことに、それを全部『是』として、こちらが710億ドルを減らすといっても、さっき申し上げたように、2国間の貿易のバランスはそのときの状況でなるだけで、グローバルにものを考えなければならない。そういったことは日本政府としても、ずっと変わっていない」

 「さはさりながら、政治的にこの問題に関して、できることをやっていくべきだと思う。ただその中で、500億ドルから710億ドルに増えているというのはあるが、貿易の構造、投資の構造はよく見ていく必要がある。例えば、日本車の米国での生産は圧倒的に大きくなっていて、主要な自動車メーカーは単に日本で作ったモノを米国に輸出するだけではなくて、現地で日本製のモノを作り、現地の雇用を促進している。しかも、できるだけ現地のいろいろな部品を調達し、日本の技術力や日本のノウハウで極めて質の高い自動車を作るということは、25年前とは決定的に違うと思う。ある数字だと、この1年間で日本企業は2万5千人の新規雇用を生んだ。これはトランプ氏自身が、この間の一般教書演説で言及していた」

 「今いったように、国際貿易の基本的な、理論的な分析からすると、それは明らかに変わっているが、それはそれとして、現地の政治的な要請には日本側も努力をしなければならない。また、米側も努力をする必要がある。日本側が4半世紀の中で努力をし、1年間で2万5千人の雇用を生んだというのは、象徴的な数字だと思うが、構造的に間違いなくシフトしており、米国の経済にも裨益(ひえき)するような形で、日本の経済界の方々や、政府も努力をしてきているということは間違いない」

 −−米国の中間選挙までにどのようなアプローチを取るか

 「自動車もそうだし、その他の産業もそうだが、インフラにかかわらず、日本で作ったモノを単に輸出するだけではなくて、米国に対する直接投資をし、雇用を生む。そして米経済、あるいは社会全体に対する貢献を日本としても行う。米政府としても努力をしていると思うし、また、それがこれからさらに強まっていくことは、大いに期待している」

 「その文脈の中で、特に日本は米国だけではなくて、質の高いインフラ輸出をやっている。日本経済のためにも、アベノミクスの重要な論点として挙げて、政府として力を入れて取り組んできている。それは何も東南アジア諸国連合(ASEAN)や中東、アフリカ、ラテンアメリカ、ヨーロッパだけではない。日米経済という文脈の中で、今のようなことに力を入れていきたい。ただ、具体的に何がどう起きるかというのは、企業が実際に投資をする。その企業が質の高いインフラ投資をするために、政府として、どういう誘因を与えられるか。あるいは手助けができるか。それは例えば、金融的な融資をするとか、米国の場合は政府開発援助(ODA)は考えられないと思うが、いろんな手段はあり得ると思う。それはやっぱり、一つ一つの投資、一つ一つの案件について、きめ細かく見ていって、日本政府として、できることをする」

 「それから産業界ともそういう話を十分にし、産業界自身が投資をすることが一番大きいと思う。政府が投資をして、今のようなことが行われるというよりも、やっぱり民間の皆さんが、そういうところに魅力を感じ、投資をするのを政府が後押しするなり、手伝ったり、あるいは誘因を与えていく方が、額にしたら圧倒的に多い。シェールガスの話もそうだし、いろんな分野で、そういうことを進めようとしているので、貿易のルールもそうだし、質の高いインフラ投資もそうだし、全体の金融政策の調整もそうだと思う。全体のそういうことを、麻生太郎副総理兼財務相とペンス米副大統領の枠組みでやろうとしている」

 「昨年の2月10日の文書では、麻生・ペンスというのは、文書の中には書いていないが、『二国間の対話』という言葉はあったと思う。正式には過去2回行われ、この間も麻生氏とペンス氏が個別に会っているし、これから、いつどこでやるかは決まっていないが、そんなに遠くない将来に、きっといろいろなことが起こってくると思う。その枠組みの中で、今の日米の経済、投資といった対話がさらに進展し、具体的に成果が出てくることが期待されている」

 −−北朝鮮の問題、中国の問題がある中で、日本の役割の拡大が求められている。武器の購入拡大などを抑止し、日本の役割を増大させるという2つの要求にどう応えるか。大使が果たす役割は

 「まだ赴任もしていないし、現地に行ってから最大限、微力ながら力を尽くしたい。その中で、非常に良好な日米同盟関係を維持していく。できれば、それをさらに強化していく努力が駐米大使としては一番重要な役割だ。日米関係は2国間の投資、貿易、または安保体制をいかにきちんと運用していくか、という2国間の文脈も大きいが、単なる地域の同盟だけではなくて、世界の中で重要な意味を持っている。そう考えると、対中関係をどうするか、あるいは国際関係の中で同盟をどう運用していくかが非常に重要だ」

 「もはや、日米の同盟関係は、2国間の問題だけではない。世界2位の経済大国になり、発展している中国を、どのようにわれわれと一緒に、われわれと同じように、国際的に確立されたルールにのっとって、国際社会のために、地域の安全保障のために、関係を築いていくか。日中関係、米中関係という2国間関係は別途、重要な関係としてあるが、日米同盟にとっても、どうやっていくのか。ただ、よく誤解されるので、これはあえて申し上げておくが、日本と米国が協力し、中国に対峙(たいじ)するとか、対立するとか、そういう意味では全くない」

 「それぞれが、米中だって貿易は多いし、日中だって経済的にお互いがいなくてよいという関係ではない。もちろん米中関係、日中関係、地政学的にも歴史的にも、社会文化的にもいろいろ違いはあるけれど、似た関係になっているところもある。「その中で、日米でよく意思疎通を図りながら、中国をよりよく国際社会の中に、エンゲージ、日本語に訳すと『関与』だが、関与はいかにも上から目線的であまりいい感じがしないが、一緒になって、よりよい国際社会の発展、繁栄に協力していきたい。そういう意味だ」

 「ただ、それを申し上げた上で、中国の発展は、われわれにとって大きなチャンス、機会ではあるが、中国の軍事費は過去29年間で約49倍の伸びを示している。2017年の中国の国防予算は、日本の防衛関係予算の約3.6倍。それも必ずしも透明ではない形でこれだけ大きな伸びを示している」

 「東シナ海、南シナ海の問題などが全部解決されているとは、到底言えない状況であるのも事実で、そういうことを念頭に置いて、中国に対しては日本として言うべきことを言わないといけない。また、米国も違った観点かもしれないが、基本的には日本と考え方は非常に近いと思う。そういう形で、ワシントンに行って、米国との意思疎通をする役目を負っていると自覚している」

 −−米国にも慰安婦像が建っている。エスタブリッシュメントの歴史認識は偏っているとも言えるが、この問題にはどう対応するか

 「現実問題として、いろんなところに碑が建ったり、決議ができたりしていることは事実だ。そういうことが起こっていることを、われわれは決して良いことだと思っていない。大変遺憾なことだと思っている。赴任した上は、米国に駐在する大使として、もちろん管轄する総領事、総領事館が一層の努力をする立場にあるのはその通りだが、米国に対して、日本を代表する立場に立つ者として、私自身ができるだけいろんなところ、地方に足を伸ばしたり、それを管轄する総領事と肩を並べて、これまで以上に努力をし、誤解を解いていきたい」

 「やや、手前みそかもしれないが、私自身、政府の上層部にいわれて、当時は外務審議官だったが、国連女子差別撤廃委員会で、(慰安婦問題に関する)日本の考え方を直接、説明したことを鮮明に記憶している。私は日本政府の立場は、自分で説明したから言いづらいが、あれに尽きていると思う。外務省、大使の心構えとして、ああいう日本の明確な、確固たる立場があるので、これをもっと皆さんにわかってもらう努力をするのが、大使の重要な役目の一つだと確信している」

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