ふるさと納税は「金持ち用カタログショッピング」か

2月16日(土)6時0分 JBpress

「ふるさと納税」利用者の感覚はまさに「カタログ通販」

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舛添要一:国際政治学者)

「ふるさと納税」全国トップの大阪府泉佐野市が、2月5日、100億円分のAmazonギフト券を還元するキャンペーンを始めると発表した。返礼率が5割を超えるという異常な状態であり、石田真敏総務大臣も苦言を呈した。

 それは、過度の返礼品競争が展開されるようになったため、総務大臣通知で、返礼品は①寄付額の3割以内にすること、②地場産品とすることの二点を徹底するように、2年前から繰り返し全国の自治体に要請してきた経緯があるからである。総務省が2018年9月11日に公表したデータによれば、返礼率が3割を超えている自治体が246(全国の自治体1788の13.8%)もあった。また、190団体が地場産品以外を利用していた。


大臣要請に従った広野町では寄付額が20分の1に

 泉佐野市は、総務大臣要請を拒否した典型例であるが、逆に要請を受け入れた例として福島県広野町がある。町は地元で栽培する特別米を用意したが、返礼率が5割を超えたため人気殺到であった。しかし、総務省要請を受け、返礼率を3割以下に抑えたら、ふるさと納税申し込みがなんと20分の1に激減してしまったという。

 これが実態であり、ふるさと納税制度は本来の趣旨を外れ、今や「金持ちのためのカタログショッピング」と堕してしまっている。制度そのものを廃止して、中央集権の歪みを正し、「この国のかたち」を考え直す本格的な検討を始めたほうがよい。

 この制度が始まったのは2008年であるが、前年の2007年5月に菅義偉総務大臣が創設を表明し、それが地方税法の寄付金税額控除の項目を改正する形で実現したものである。当時私は参議院自民党政策審議会長の任にあり、菅総務大臣とは緊密に連絡をとっていたので、その本来の趣旨はよく理解していた。

 中央集権国家である日本では、中央と地方の格差が拡大し、地方が疲弊しているという状況が続いている。これは同じ中央集権のフランスでも同じであり、毎週末繰り返される「黄色いベスト」の反政府デモの背景には、生活条件が悪化する地方の不満がある。パリのような大都市と違って、公共交通機関が発達していない地方では、車しか移動手段がなく、ガソリン代の値上げが生活を直撃したのである。パリのデモには地方から上京した参加者が多い。

 これに対して、連邦制をとるドイツやアメリカでは、各地域の独立性と自己完結性が高いので、日本やフランスのような不満を国民が抱くことはない。フランスでは、州(région)の創設など地方分権を進める施策も実行されてきたが、日本では都道府県・市町村制に抜本的な手は加えられていない。


ゆかりある市町村への寄付が本来の趣旨なのに・・・

 国と地方の仕事(支出)の比率は2:3であるが、収入(税収)の比率は逆に3:2である。このギャップを埋めるものが、地方交付税交付金である。東京のように税収が潤沢で豊かな自治体は、交付税の必要がない。近年は国が都から税収を召し上げて地方に配分するという格差是正策が採られているが、東京都と同様に豊かな自治体は神奈川県、愛知県、大阪府のみであり、知事会でも圧倒的多数でこの国の措置が支持されている。

 東京がますます栄え、地方が衰退していくという状況に歯止めをかけるために、様々な工夫がなされてきた。たとえば、バブルの時代の1988〜1989年には、竹下首相が「ふるさと創生事業」を打ち上げ、全国の自治体に一律に1億円をばらまいた。ある自治体は1億円金塊の展示を行い、話題をさらったが、30年後の今、この事業で地方が蘇ったという話はきかない。

 それから20年経った2008年に始まったのがふるさと納税制度である。これは、東京と地方の格差論争にも関係がある。都知事の立場からは、東京都民が稼いだカネが、東京のためにではなく、地方のために使われるのは許せないという主張となる。これに対して、地方の知事さんたちは、「東京で今活躍している人々は、地方の出身者が多い。彼らを育て上げたのは地方である。地方には、その投資を回収する権利がある」と反論するのである。

 そのような議論を背に、納入すべき税金の一部を生まれ育った故郷に回したら良いのではないかというのが、ふるさと納税制度発想の原点なのである。その制度の仕組みは、個人が「ゆかりのある市町村等」に寄付した場合、住民税の1割相当額を限度に所得税と住民税から税額控除をするというものである。

 これは、税制上の寄付の一つであるが、条例で使い途を特定する自治体も多く、その場合には自治体を選択することによって、納税者が使途に関与できるというメリットも出てくる。税金の使い途に不満を抱く納税者は多いので、これはその問題を解決するアイデアである。

 また、寄付であるので、一定以上の金額以上の寄付者に特産品などを贈呈することが可能であり、これが今や返礼品競争の原因となっているのである。

 この返礼品騒ぎ以外にも、ふるさと納税制度は様々な問題を抱えている。根幹の問題は、受益者負担という税の大原則に反することである。納税は行政サービスを受ける対価であり、税の公平の原則にも反する。


高所得者の「節税対策」に利用されている実態も

 また、ふるさと納税で潤う自治体がある反面、東京の自治体のように減収で困るところも出てくる。そのような自治体では、行政サービスの質が低下する。
さらには、この制度が金持ち優遇になっているのも問題である。

 控除の限度額は、収入や家族構成によって変わってくるが、ざっくりした金額で言えば、たとえば「給与収入500万円・単身」だと6万1000円ほど、「給与収入1500万円・共働き夫婦・子ども2人(大学生と高校生)」だと36万円前後、「給与収入3000万円」だと家族構成に関係なく100万円を超えてくる。これは累進課税と全く逆で、金持ちにとっては恰好の節税対策である。だから、私はこの制度を「金持ちのためのカタログショッピング」と呼ぶのである。

 ふるさと納税制度は、30年前のふるさと創生事業と同様に、地方の活性化にはあまり貢献していない。実際の納税額を見てみると、2008年には81億円だったものが、2017年には、3653億円にまで増えている。急速に増加したのは2016年であるが、それは前年の2015年4月に「ふるさと納税ワンストップ特例制度」が創設されたからである。

 それまでは、ふるさと納税には確定申告が必要であったが、この特例制度によって、確定申告不要な給与所得者(年収2000万円以下のサラリーマンなど)が5自治体以内にふるさと納税した場合には、確定申告なしに税額控除を受けられるようになったのである。具体的には、各自治体に申請書を出すだけで済む。この特例制度で一気に利用者が増え、自治体のほうも寄付金獲得競争に勝ち抜くために、返礼品競争を始めたというわけである。

 泉佐野市がその典型例であるが、ふるさと納税制度は、自治体間の格差をどのようにして埋めるかという根本的な問題、つまり「この国のかたち」をどうするかという問題への取組を忘れさせる結果となっている。

 交通機関や情報機器の発達で生活圏が拡大している現在、都道府県・市町村という行政制度は国民のニーズに適応していない。また、中央集権の弊害も甚だしい。ドイツやアメリカの様な連邦制を導入することを検討すべきである。

 日本を6〜10の州に分割する道州制の議論も最近ではほとんど行われることがなくなっている。ふるさと納税制度を廃止して、こちらの議論を再開し、抜本的に日本国の再生への道を模索すべきである。

 一度定着したふるさと納税制度を一気に廃止するのが難しいなら、まずは制度本来の趣旨に戻るべきである。政府は、そのための法改正を今国会で行う予定で、先の大臣通知のように返礼率を3割以内とするなどが骨子である。地場産品については、県内産まで枠を拡大する意見もあるが、北海道のような広域の場合もあり、結論は容易には出ないであろう。

 6月以降は、この基準を満たさない自治体はふるさと納税の対象から外すことになる。泉佐野市の「反乱」は、それに異を唱える意図から出たものであろう。

 しかし、それでも「金持ちのためのカタログショッピング」の弊害はなくならない。そこで、もう一歩踏み込んで、返礼品を禁止したらどうか。もともと制度を設計したときには返礼品のことは想定しておらず、インセンティヴは税額控除であった。これだけでも納税者にはメリットがあるので、十分なはずだ。

 いずれにしても、ふるさと納税制度は本来の趣旨に立ち戻り、抜本的に見直すべき時期に来ていると思う。

筆者:舛添 要一

JBpress

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