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実験失敗と報じられた「こうのとり」6号機の真実

JBpress2月20日(月)6時14分
画像:国際宇宙ステーションにドッキングしている「こうのとり」6号機。おなかの部分にバッテリーを搭載。(JAXA/NASA)
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国際宇宙ステーションにドッキングしている「こうのとり」6号機。おなかの部分にバッテリーを搭載。(JAXA/NASA)
画像:2016年12月9日、「こうのとり」6号機はH-ⅡBロケットで種子島宇宙センターから打ち上げられた。(JAXA)
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2016年12月9日、「こうのとり」6号機はH-ⅡBロケットで種子島宇宙センターから打ち上げられた。(JAXA)
画像:2016年12月13日、ISSのロボットアームでキャプチャされた「こうのとり」6号機(JAXA/NASA)
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2016年12月13日、ISSのロボットアームでキャプチャされた「こうのとり」6号機(JAXA/NASA)
画像:「こうのとり」が届けた玉ねぎを使って作られた「スペースハンバーガー」(JAXA/ESA/NASA)
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「こうのとり」が届けた玉ねぎを使って作られた「スペースハンバーガー」(JAXA/ESA/NASA)
画像:「KITE」実験のイメージ図(JAXA)。導電性テザーを700m伸展させ、電子源から電子を放出して電流を流し、発生電流を制御できるかを実証する計画だった。(JAXA)
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「KITE」実験のイメージ図(JAXA)。導電性テザーを700m伸展させ、電子源から電子を放出して電流を流し、発生電流を制御できるかを実証する計画だった。(JAXA)

 宇宙空間を15年以上飛び続ける人類の「宇宙の棲み処」、国際宇宙ステーション(International Space Station、略してISS)。そのISSが今や、日本の宇宙船なしには存続しえなくなっている事実をご存知だろうか?

 その名は「こうのとり(HTV)」。無人の貨物船であり、ISSに住む宇宙飛行士たちに食料、水などを届ける「宇宙生活の命綱」だ。ISSへの物資輸送は米国2機、ロシア1機、そして「こうのとり」の4機が担っている。日本以外の貨物船は最近、たびたび失敗しており100%成功しているのは、日本だけ。

 さらに「こうのとり」しか運べない荷物がある。それが「バッテリー」。ISSで使われてきた旧型バッテリーが老朽化し、バッテリーの交換はISSを今後も使い続けるための最重要課題だった。その大役が、100%の成功率と世界最大の輸送能力を誇る「こうのとり」に任された。

 2016年12月に打ち上げられた「こうのとり」6号機は新型バッテリーを6台搭載。しかも、日本はただ宇宙に運ぶだけでなく、宇宙飛行士たちが交換作業を効率的に行えるように運搬台も改良、開発した。ISSで今年初めに行われたバッテリー交換は大成功!この日本の功績に対して、NASA幹部は「素晴らしい!」と大絶賛した。

 ところが。大役を果たした「こうのとり」6号機の帰り道、エクストラミッションとして行われた、「宇宙ゴミ除去実験」の半分(すべてではない)がうまくいかなかった。それが「宇宙ゴミ除去実験失敗」と大きく報道された。

 往々にして成功より失敗のほうが大きく伝えられる。今回も最後の「失敗」だけが独り歩きし、重要任務を果たしたにも関わらず、「こうのとり」ミッションすべてが失敗した印象を与えかねない報道も見られた。

 私は30年近く宇宙関係の取材を続けてきて、米ロの宇宙大国を必死に追いかけてきた日本が、今や対等となり頼られる立場になったことを誇らしく思う。それだけに、日本の方たちに「こうのとり」の大成功と、最後に行われた「宇宙ゴミ除去実験」のどこが失敗で、どんな点で成果が得られたかについて、正しく理解してほしいと願う。


100%の成功は日本の貨物船「こうのとり」だけ

 まず、「こうのとり」について。2009年に初号機が打ち上げられ、ほぼ1年に1回のペースで打ち上げられている。「こうのとり」の特徴は、約6トンの荷物をISSに届けることができる世界最大の補給能力。これは他国の貨物船の補給能力の約2倍だ。

 次に高い打ち上げ成功率。これまで失敗なく100%成功を収めている。一方、他国の貨物船は失敗が続いた。特に2014年秋〜2015年初夏は米国のシグナス貨物船、ドラゴン貨物船、ロシアのプログレス貨物船が続けて失敗するという異常な事態となった。

 ISSの物資は次第に底を突き、失敗できないプレッシャーの中、「こうのとり」5号機はISSに確実に物資を運び、世界中の関係者が胸をなでおろした。

 こんな事態を「こうのとり」の開発が始まった1990年代、誰が想像しただろうか。ISSは人間が住む施設だけに、ドッキングする宇宙船すべてに、有人宇宙船と同等の高い安全性が要求された。

 経験の少ない日本に実現できるのか。NASAからは「『こうのとり』がISSに来ないことが一番安全」と屈辱的な言葉も出たと聞く。審査会のたびに1000枚を超える指摘事項がNASAから届き、日本チームはその1つ1つと格闘、乗り越えて今がある。

 5号機までの成功実績が評価され、6号機はISSの新型バッテリーを運ぶ大役を担った。ISSは巨大な太陽電池パネルで発電しているが、地球を一周する90分の約半分は日陰に入る。その際、バッテリーに蓄電しておいた電気で賄うのだ。

 なお、新型バッテリーには初めて日本のGSユアサが開発したリチウムイオン電池が使われている。全部で24個のバッテリーを、「こうのとり」6号機から9号機まで4回に分けて運ぶ計画だ。

 バッテリーを運搬するために、「こうのとり」は大幅な改良も行った。バッテリー6台を乗せる荷台(曝露パレット)や、それを支える構造などを見直し、荷台が実際に使えるかどうか、NASAの巨大なプールで宇宙飛行士による検証実験も行った。

 こうした地道な苦労が功を奏して、宇宙でのバッテリーの交換作業は見事な成功をおさめた。2015年末、ISSは2024年まで延長して使うことが日米間で合意されたが、運用延長は新型バッテリーがあってこそ実現できる。

「こうのとり」6号機は、バッテリーだけでなく宇宙生活に欠かせない水(種子島の水を運んでいる)、二酸化炭素除去装置、また実験装置や大学・企業が作った超小型衛星7基などをISSに運んだ。宇宙飛行士が喜んだのは新鮮なフルーツや玉ねぎ。さっそく、フレッシュな玉ねぎを使った「スペースハンバーガー」がISS内に漂った。


宇宙ゴミ除去実験「KITE」—世界初を目指して

 ISSに物資を運び、帰路はISS内の不要物を詰め込んで大気圏で燃やすのが、ISS参加15カ国間で決められた「こうのとり」の役割だ。

 日本はこの主要任務を終えた後、エクストラの実験を行っている。宇宙飛行の機会は貴重だ。地上でいくら実験を行っても、宇宙でやってみなければ分からないことがある。そこでJAXAは「こうのとり」飛行機会を用いて、未来の宇宙開発のための実験を行おうと、6号機では「こうのとり」構造体に穴を開けて小さな実験スペースを作った。

 そこで行われた実験の1つが、宇宙ゴミ除去のための実験「KITE」だ。スペースデブリ(宇宙ゴミ)は増え続け、宇宙の環境問題となっている。「デブリ除去は喫緊の課題であり世界が取り組んでいて、競争のさなかにあるが、いまだどこも実用化にこぎつけていない」とKITE実験チーム長であるJAXA井上浩一氏は語る。

 日本のデブリ除去システムは「小さく、軽く、安く」が売り。具体的には「導電性テザー」と呼ばれる金属製のひもをデブリに取り付け、電流を流す。すると地球の磁場との相互作用で力が発生、デブリの速度を落として徐々に高度を下げ、大気圏に突入させることができる。燃料を使わずに済むため、ランニングコストが低コストですむ。

 実現のために必須となる2つの「キー技術」を宇宙で実証するのが「KITE」の目的だった。その1つがテザーの伸展。700m伸ばす予定が、伸展できなかった。原因究明中だが、4つあったボルトの1つが分離されなかった可能性が高い。

 もう1つが電子源からの電子放出。8台の電子放出素子すべてが正常に動作し、長時間にわたり安定して電流の流れを作ることに成功した。テザー伸展が注目されがちだが、電流を流すことができなければデブリ除去はできない。この電子放出実験は、追加実験も急きょ実施できたため、井上氏の「KITE」の評価は100点満点中50点で「一部成功」。だが「宇宙ゴミ実験失敗」と括った報道も見られた。

「こうのとり」6号機の主要任務の大成功、そして「KITE」の一部成功を認めた上で、テザー進展ができなかったのは残念だ。なぜならテザーには日本の漁網の技術が使われ、巻き方にも工夫があったからだ。

 これまでも、科学目的でのテザー実験が宇宙で実施されたことはあった。だが、宇宙ゴミ除去目的で電子源と組み合わせたテザー伸展は「世界初」となり、宇宙ゴミ除去技術で日本が一歩先んじる可能性が大きかったのだ。

 しかし「KITE」はあくまで「こうのとり」が荷物を運ぶ役割だけでなく、未来の宇宙開発に向けて行われたエキストラの「実証実験」であることを再認識してほしい。「こうのとり」の主要任務になんら影響を及ぼすものではない。


「当たり前のことを当たり前に続ける」むずかしさ

 JAXA・HTV技術センター長、植松洋彦さんは、「こうのとり」6号機ミッション全体を振り返って「昼夜を問わず戦い抜いた非常に厳しい2カ月だった」と振り返った。

「初号機では、荷物を運ぶこと自体が大きな成果だった。しかし6号機では運搬は『当たり前』。当たり前のことを当たり前に成功させることがどんなに難しいか」。KITE実験トラブル時も、トラブルシュートしつつ実験成果が最大限に得られるよう、24時間体制の運用を続けた。

 実は、「こうのとり」6号機は打ち上げが約2カ月遅れた。燃料配管で微量の漏れが見つかったからだ。そのため、大西卓哉宇宙飛行士がISS滞在中に「こうのとり」6号機が到着し、大西飛行士が船外活動でバッテリー交換作業を行うことが期待されていたが、実現しなかった。

「こうのとり」が天候以外の理由でこれほど大幅に延期されたのは初めて。その背景には「開発当時から携わったエンジニアが引退し世代交代したこと」を植松センター長は挙げる。技術は人に宿ると言われる。人が変わっても同じように成功を続けることが「当たり前を当たり前にこなす」難しさにつながっている。

 もしKITE実験を実施せず、予定の仕事だけをこなせば「こうのとり」6号機ミッションは大成功に終わったのかもしれない。しかし未来を見据えて、難易度の高い実験に挑戦した。

 井上氏は「宇宙で確実に機器を動作させるのは難しい。各国が宇宙ゴミ対策に取り組みながら前に進まないのは、こういうことかと実感した。しかし100%できることだけをやるのでは進歩がない。挑戦して高みを目指すことが、研究開発のあるべき姿」と語った。原因究明して、次につなげてほしい。

 宇宙は過酷だ。昼と夜の100℃以上の温度変化によって生じる材料の微小な歪みが、命取りになることもある。当たり前のことを当たり前のように続けていく厳しさ、さらに高みを目指す厳しさ。失敗を恐れず挑戦することが許容されにくい今の社会で、宇宙を舞台に日本が挑戦している事実をぜひ知ってほしい。

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筆者:林 公代

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