「七崎くんは女になりたいの?」が不思議と苦痛じゃなかった理由

2月21日(木)17時0分 文春オンライン


連載「僕が夫に出会うまで」



2016年10月10日に、僕、七崎良輔は夫と結婚式を挙げた。幼少期のイジメ、中学時代の初恋、高校時代の失恋と上京……僕が夫に出会うまで、何を考え、何を感じて生きてきたのか綴るエッセイ。毎週連載。



(#1「 とある夫夫(ふうふ)が日本で婚姻届を出したときの話 」を読む)


( 幼少期編 ( #2「大人たちの恐ろしい善意」 ・ #3「セーラームーンが好き」 )を読む)



 僕は中学生になった。中学生活が始まると何もかもが男女でキッチリ分けられるようになり、男子も女子もお互いを「異性」として意識するようになっていた。


 小学時代に女友達しかいなかった僕にとって、なんだか居心地が悪かったが、僕なりに男子と馴染もうと努力もした。ただ、男子と会話をしていると、どこか少し、緊張してしまう自分にも気が付いた。


 今まで男子と関わってこなかったのが原因なのかもしれないが、もしかするとみんなが言うように、やっぱり僕はどこか変なのかもしれないと、自分でも感じるようになっていた。それが原因かはわからないが、クラスに友達と呼べる人ができず、廊下やトイレでいきなり殴られたり、顔にツバを掛けられたりすることもあった。





 そのまま1年が過ぎ、2年生になると、生徒会会計長に立候補をした。せっかく学校に来ているのだから、何か自分にできる事をやろうと考えたのだ。それが僕にとって救いになり、そして生徒会室での初恋が始まる事になる。


チャラケている友人が2人きりのときに見せたギャップ


 生徒会は僕に居場所を与えてくれた。放課後、生徒会室へ行けば安全で、男女関係なく、同じ目的を持つメンバーが集まる。なんの面白みも無く、むしろ苦痛でしかなかった中学生活も、居場所が1つできたことによって、楽しみを見出せるようになっていった。


 そんな2年生のある日、副会長に連れられて、生徒会室へやって来たのが司(つかさ)だった。司は副会長と同じクラスに転校してきたばかりの噂の男子で、どうやら副会長と仲良くなったようだ。見た目は、背は低いがテニス部だったせいか色黒で、まつ毛が長く、目はパッチリしているが眼光が鋭い。性格はヒョウキンなやつで、よく喋る、楽しい人のように思った。



 司は放課後、よく生徒会室に顔を出してくれるようになっていた。誰でもウェルカムな生徒会室は、特に仕事があるわけでもなく、司を交えて学校の閉門時間ギリギリまでお喋りをしたり、先生から隠れてお菓子を食べたりして遊んでいた。


 閉門後、帰り道は、司と2人きりになる事が多かった。気が付いたのだが、みんなでいる時の司と、2人きりになった時の司にはギャップがあった。学校ではチャラケている司が、僕と2人きりになると、急にまじめな顔を見せたりするのだ。



 僕にしか見せない顔が嬉しくて、僕も司には何でも話せるようになっていった。クラスに友達がいない事や、それがどうでもいい事も司には話すことが出来た。


 司も、転校してきたばかりで、みんなに嫌われないようにチャラケたりしてきたけれど、本当は少し疲れている事などを話してくれた。初めて信頼のできる、心を開ける男友達ができたと思えて、嬉しかった。


「七崎は女の人になりたいの?」


 ある日の帰り道、まじめな顔つきで司が言った。


「どうしてみんなにオカマって言われてるの? 七崎は女の人になりたいの?」



 僕が「オカマ」と呼ばれてしまっていることを、転校生の司にはまだ知られたくなかったし、「オカマ」という言葉に一瞬、ギョっとしたものの、僕をまっすぐ見つめる司の瞳は、他の生徒のように僕をからかうものではなく、大人たちのように僕を哀れむものでもなかった。ただ、僕の中の隠しておきたい部分まで、覗(のぞ)()き込まれてしまっているような、司のまっすぐな眼差しがとても痛かった。


「違うよ。女の人になりたくないよ。男で良かったって、思ってる」


「それじゃあ、七崎は、俺とおなじ、普通の男ってことだよね?」


「うん……そうだと思うんだけど、オカマって言われちゃうんだよね……」


「喋り方じゃないかな。だって七崎、すぐ『きゃーー』とか言うじゃん? そういうので『オカマ』って言われちゃうのかもしれないね」


 司は僕を気にかけてこんな話をしてくれたのだと思った。司の優しさが嬉しかった。


「男で良かったって思っている」というのも嘘ではなかった。少し前までは「女に生まれていれば、友達もできたし、そのほうが良かったのに」と思っていたが、「僕が男だから、こうして司と仲良くなれたんだ」と、このとき感じていたからだ。


(#5「 脇毛の恋 」は2月28日(木)更新予定)

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写真=平松市聖/文藝春秋



(七崎 良輔)

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