論文「なぜ発表された研究結果の大半が誤りなのか」…刺激的なタイトルが巻き起こした強烈な議論の顛末

2024年2月28日(水)6時0分 ダイヤモンドオンライン

論文「なぜ発表された研究結果の大半が誤りなのか」…刺激的なタイトルが巻き起こした強烈な議論の顛末

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「すべての科学研究は真実である」と考えるのは、あまりに無邪気だ——。科学の「再現性の危機」をご存じだろうか。心理学、医学、経済学など幅広いジャンルで、過去の研究の再現に失敗する事例が多数報告されているのだ。鉄壁の事実を報告したはずの「科学」が、一体なぜミスを犯すのか? そんな科学の不正・怠慢・バイアス・誇張が生じるしくみを多数の実例とともに解説しているのが、話題の新刊『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』だ。単なる科学批判ではなく、「科学の原則に沿って軌道修正する」ことを提唱する本書。今回は、本書のメインテーマである「再現性の危機」の実態に関する本書の記述の一部を、抜粋・編集して紹介する。

Photo: Adobe Stock

科学者も「再現性の危機」を感じずにはいられない

科学のさまざまな失敗や逆転現象を考えれば、多くの科学者が自分の分野の再現性に不安を感じるのも無理はない。

2016年に1500人以上の科学者を対象におこなわれた調査では、52%の人が再現性に「重大な危機」があると考えていた。ただし、彼らは『ネイチャー』のサイトでアンケートに答えただけで、厳密に代表的な調査対象ではない。また、38%の人が、少なくとも「わずかな危機」があると考えていた

ほかの研究者の結果を再現できなかった経験があると答えたのは、化学者が約90%、生物学者が約80%、物理学者、エンジニア、医学者がそれぞれ約70%。自分の研究の再現に問題があったと答えた科学者は、それよりやや少ない割合だった。

「なぜ発表された研究結果の大半が誤りなのか」

これは正式な調査方法ではなく、すでに再現性に不安を抱いていた科学者ほどアンケートに回答したと思われるため、多少は誇張された数字だろう。

しかし、私たち自身がおこなった研究も含めて、科学文献がどこまで信頼できるのかという懸念が広がっていることは確かだ。私たちはこの事態を予想していたはずだ。メタサイエンティストのジョン・イオアニディスが2005年に発表した論文のタイトルは、「なぜ発表された研究結果の大半が誤りなのか」

その数学的モデルは次のような結論に至った。

──科学研究がうまくいかない可能性を考えれば、科学論文に書かれているあらゆる主張は、真実であるより偽りである可能性のほうが高い

合理的な提言として「5年間で800回以上引用」

イオアニディスの論文は大いに注目を集め、議論を呼び、発表から5年間で800回以上引用された。しかし、科学者が研究の質を高めるために必要な変化を起こそうというきっかけにはならず、悲劇の予言として受け止められることもなかった。

2011年にベムの超心理学的な主張(過去記事)が発表され、スターペルの不正が明らかになり(過去記事)、同じ時期に心理学のプライミング研究の問題(過去記事)やガン研究の再現性の失敗(過去記事)があって、再現性の危機が次々に発覚してようやく、私たち科学者の問題が広く認識され、今日の科学のあり方の根幹に関わることが明確に理解されるようになった。

「なぜ発表された研究結果の大半が誤りなのか」という刺激的なタイトルを、私たちは不条理な誇張ではなく合理的な提言だと思えるようになったのだ。

(本稿は、『Science Fictions あなたが知らない科学の真実』の一部を抜粋・編集したものです)

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