「非常食」が変わった! アルファ米、フリーズドライの驚くべき進化 #あれから私は

2021年3月11日(木)5時0分 ウェザーニュース

2021/03/11 04:54 ウェザーニュース

2011年3月11日に発生した東日本大震災から10年。その後も日本列島は熊本地震や豪雨災害などに見舞われ、避難所などで「非常食」が提供されてきました。
震災以降も大きな自然災害が続いたことで個々人の防災意識が次第に高まり、ウェザーニュースが震災前から実施していた「非常食、何日分備えてますか?」というアンケート調査では、自宅での非常食の平均備蓄日数が増える傾向が表れています。

10年前と比べて備蓄意識高まる

震災前の2010年から直後の2012年にかけての伸び率は特に顕著です。2019年以降も大きく伸びています。大きな自然災害がほぼ毎年のように起きていること、新型コロナウイルス感染症の拡大により自宅で過ごす時間が増えたことなども、家庭や企業での備蓄意識が高まっている要因の一つといえそうです。
これまでの「非常食」は、長く保存でき、いざというとき口にできる乾パンや缶詰などが主でした。しかし、被災者の要望を受け、“日ごろの食事にひけをとらない”レベルの「非常食」の開発が進んでいました。そんな「非常食」の現状について、まとめました。

5年間保存できる「おにぎり」まで登場

尾西食品の「アルファ米おにぎりシリーズ」

非常時の主食としてイメージできるのが「アルファ米」です。炊いた米を乾燥して保存し、お湯や水を加えればそのまま食べられ、保存期間も5年と長いことから、全国の自治体でメインの保存食糧として備蓄されています。
アルファ米は旧帝国陸海軍の依頼を受けた尾西(おにし)食品(東京都港区)が1944年、いまの大阪大学の二国二郎博士とともに開発したものです。
「アルファ米は、炊きあがったごはんから、ごはんの旨味を保ちつつ水分だけが抜けている状態のもの。そのため、水分を足すだけで、元通りのごはんに戻るのです。素材の構造を崩すことなく乾燥させることで、水分やお湯で戻したとき、ごはんのもっちりした食感と噛みごたえが楽しめます。
乾燥させているので雑菌の繁殖を防ぐことができ、腐敗することがありません。パッケージには酸素を通しにくい素材を採用。脱酸素剤も封入し、酸素による影響を防ぎながら、お米の味わいを守っています」(尾西食品)

アルファ米は戦後、乳幼児や病人のための栄養源として、さらに登山家の愛用食としても親しまれるようになりました。災害の多発による需要が増すなかで、尾西食品では「アルファ米の元祖」として商品の種類や味の充実を図っているといいます。
「最初は白飯と、うるち米・もち米の赤飯の各1種類でしたが、次第にバリエーションを増やし、現在では五目・わかめ・たけのこごはんやドライカレー、えびピラフなど『ごはんシリーズ』として計12種類。『エスニックシリーズ』や『おにぎりシリーズ』などもそろえています」(尾西食品)

「アルファ米五目ごはん」。お湯か水を注いで待つだけでごはんが出来上がる

食べ方は、袋を広げてスプーンと脱酸素剤を取り出し、具材をかき混ぜて熱湯を注ぎ15分(赤飯は20分)、水なら60分閉じて待ちます。再度かき混ぜてでき上がり。普段と変わらない味わいが楽しめます。
保存期限は5年間で、調理時間も以前より短縮されたそうです。イスラム教徒向けに豚肉を使わない「ハラール認証」の品も用意されています。

フリーズドライやレトルト食品も豊富な品ぞろえに

永谷園の「業務用災害備蓄用フリーズドライごはん/カレー味」(左)と石井食品の「potayu/トマト味」

フリーズドライ製法によるごはんも、種類を増やしています。フリーズドライごはんのメリットについて、永谷園(東京都港区)に伺いました。
「当社では『業務用災害備蓄用フリーズドライごはん』として、白米のほかカレー味、わかめ味、梅しそ味、ピラフ味など計5種類を用意しています。2021年2月からはヤフーのインターネット特設サイト『#おくる防災』内での販売も開始しました。
フリーズドライのメリットはお湯で3分、水でも5分と短い時間ででき上がり、時間が経っても硬くなりにくいことです。水なしでもそのまま“ぽりぽり”食べられます。賞味期限も2020年3月以降、72カ月(6年)から96ヵ月(8年)に延びています」(永谷園)
また、ふだんから広く食べられているレトルト食品も、非常食として重要な位置を占めるようになっています。
石井食品(千葉県船橋市)は、熊本地震体験者の聞き取りなどを基に、2018年から食品添加物を使わない「ふだんも非常時も食べたい新しい食事『potayu(ぽたーゆ)』」という玄米のおかゆを販売しています。
「東日本大震災で被災された方のご意見から「非常食セット」を開発し、自治体や企業などで販売しています。さらに2016年の熊本地震発生後、現地へ足を運び、被災者の声を聞き、“被災地”のリアルを学びました。
避難生活のなかで『野菜を食べることができない/配られた食事が多すぎて食べきれない/ふだん食べなれているものを食べたい』などのご意見をいただき、食品メーカーとしてできることはまだまだあるのではないかと強く感じました。
無添加調理の技術を生かし、非常時の食事としてだけではなく“日常の食事”として楽しむことができ、平時も災害時もおいしく食べられる商品を提案しようと考えたのです」(石井食品)
コーン、パンプキン、トマト味の3種類で、温めてもそのままでもおいしく食べられるといいます。賞味期限は製造日を含めて360日(約1年)で、「ローリングストックとしてもおすすめ」とのことです。

缶入りのしっとりパンや調乳不要の液体ミルクも

青空製パンの「つなぐパン」(中・左)と明治の「明治ほほえみ らくらくミルク」

被災地では、お湯も水も簡単には手に入らない状況に陥ってしまうケースもあります。そんなとき、パン類は貴重な存在になります。
乾いていてのどに詰まりやすかった乾パンやクラッカーなどのパン類も、柔らかくておいしいものへと大きな進化を遂げています。その一例が青空製パン(静岡県牧之原市)の「つなぐパン」です。
「オーブンで焼いた後、無菌室で冷ましてから『密封』と『品質保持剤』によって70日の賞味期限をもつ『ロングライフパン』を製造してきました。そこで長年培ったノウハウを最大限生かし、缶詰入りパンを市場に投入しました。
『つなぐパン』は、長期保存用とは思えないしっとりふっくらしたパンで、防災の備えにはもちろん、登山、レジャー、常備食としても最適です」(青空製パン)
ミルク、チョコ、ブルーベリー、メープル味の4種類があり、賞味期限は5年間とのことです。
避難所生活では、乳児用のミルクもなくてはならない存在です。最近までは乳児用液体ミルクの国内での製造、販売が認められていませんでした。しかし、2018年に法改正されたことで、国内メーカーにおいても液体ミルクの製造・販売が可能に。明治(東京都中央区)は粉ミルクの「明治ほほえみ」を液体タイプにした「明治ほほえみ らくらくミルク」を開発し、2019年に発売を開始しました。
「哺乳ビンに注いで、そのまま母乳の代わりとしてお使いいただけます。調乳の手間や温める必要がなく、常温のまま使用できます。また、専用のアタッチメントを使用すれば哺乳ビンも使用せずそのまま授乳することが可能です。
容器はスチール缶を採用し、高い密封性と遮光性がある上、外部からの衝撃に耐えうる耐久性にも優れています。常温で14ヵ月(1年2ヵ月)の保存が可能です」(明治)
いまや、「非常食」はこれまでの避難所備蓄用のレベルではなく、日常的に食べることができる食品として、味や品質が進化しています。どの商品も簡単に購入できるので、“消費しながら備蓄する”「ローリングストック法」を取り入れ、いつ起こるかわからない災害に備えましょう。

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