フランス人は「家で靴を脱がない」は本当なのか。スリッパをすすめたら「大丈夫」と断られた理由

2025年3月19日(水)21時25分 All About

家の中で靴を脱がないとされる欧米の人々。実際にどこまで土足なのか、フランス在住の筆者がその暮らしの実態をお伝えします。

海外の映画では、主人公が靴を履いたままベッドに突っ伏したり、ソファでくつろいだりするシーンをよく見かけます。筆者はそうした場面を見るたびに、昔から大きな違和感を抱いていました。
ところが実際にフランスへ渡ってみると、現地の人々が本当に靴を履いたまま家に入っているのを見て驚くことになります。ソファでもやっぱり靴を脱ぎません。この習慣に慣れるまで、日本人である筆者はかなりの時間を要しました。
しかし、フランス生活が長くなり、人々の暮らしをじっくり観察してみると、靴の扱いに関しては意外と個人差があることに気づきました。

玄関に靴を脱ぐための「土間」がないフランス

フランスの玄関には、靴を脱ぐための「土間」が基本的にありません。つまり、日本では当たり前にある“靴を脱ぐためのあのスペース”が、フランスの家やアパルトマンにはないのです。
玄関を開けると、靴のまますぐにリビング、キッチン、ダイニングといった生活スペースにアクセスできる構造になっています。ここからも、フランスの家が「靴を脱ぐ前提では設計されていない」ということが分かります。
ただ、靴を脱がない習慣が根付いているフランスでも、家に入ったらすぐに室内履きに履き替える人が増えつつあるように思います。その理由は、主に衛生面。2020年から始まったコロナ禍以降は、室内履きを使うフランス人が格段に増えたという報道もありました。
実際のところ、フランスでは「靴を脱ぐ派」「脱がない派」「どちらでも良い派」の3タイプに分かれています。1番多いのは「どちらでもOK派」というフランス人なのですが、今回はそれぞれの特徴や主張を細かくまとめてみました。

靴を「脱ぐ」人

新型コロナウイルスのまん延は、フランス人の衛生観念を根本から覆したといえるかもしれません。例えば、フランスではあいさつとして「ビズ」(頬と頬を軽くくっつける習慣)がありましたが、コロナ禍以降はその機会も激減してしまいました。そんな伝統的な習慣さえ変えてしまうほどのパンデミックは、「靴を脱がずに家の中を歩く」というフランス人の行動にも影響を与えたようです。
屋内を外靴のまま歩くなんて、汚い……。そう感じ始めたフランス人は、筆者の周りでも結構います。特に、フランスでは道路に犬のふんが落ちていることが日本よりも圧倒的に多く、うっかり踏んでしまった靴のままで家に上がる、なんてケースが後を絶ちません。近年では、そうした状況を嫌がるフランス人が増えてきた印象です。
写真のような玄関マット(外靴用)はフランスのほとんどの家にありますが、靴を脱ぐ派の人たちは、帰宅時にここでしっかり汚れを落とし、靴を脱いでからすぐにスリッパに履き替えます。彼らの主張としては、「その方がリラックスできるし、床も汚れなくていい」のだそう。
また、この“靴を脱ぐ派”は20〜40代に多い印象です。これは日本や韓国のアニメ・エンタメ文化の影響が大きいようで、最近ではパリのショップでもおしゃれなルームシューズがたくさん置かれるようになりました。

靴を「脱がない」人

一方、靴を脱がない派も依然として多いフランス。というのも、フランスの家の多くは床がタイル張りです。玄関を上がるとすぐに畳やフローリングが広がる日本とは違い、フランスでは広範囲にわたってタイル張りが採用されています。一軒家では、これが1階のリビング・ダイニング、キッチン、トイレのすべてに及んでいることも。やはり靴を脱がないことを前提に設計されているのでしょう。
また、フランスでは家に招いた人々を手厚くもてなす習慣があります。その際は、足元もファッションの一部と考える人が多く、おしゃれをして訪ねてきてくれたゲストに「靴を脱いで」とお願いするのは、むしろ失礼にあたるのだそう。靴を脱いだら靴下に穴が開いているかもしれないし、足の臭いを気にさせてしまうかもしれない……。そんな理由で、ゲストに気を配っているという人も!
もちろん、フランスの「床に座らない文化」も関係しています。日本をはじめとするアジア諸国では、床に直接座る習慣があるため、靴を脱ぎ、床を清潔に保ちます。しかし、フランスを含む欧米諸国では基本的にソファや椅子に座るため、靴を履いたままでも気にならないのです。
こうした「靴を脱がない派」のフランス人は、ゲストが外靴のままトイレを使用するのもOK。寝室やバスルームまではさすがに人によりますが、ゲストを招く場合は、かなり寛容な人が多いイメージです。

脱いでも脱がなくても「どちらでも良い」人々

さて、最も多いのが「自分は靴を脱いでいるけれど、ケースバイケースで靴のままでもOK」というフランス人です。
彼らが土足でも構わないとするのは、目上の人や工事関係者、引っ越し業者などが訪れたとき。例えば、フランスの年配の人は昔から靴を脱ぐ習慣がないため、ホームパーティーのゲストと同じく、「靴を脱いでください」とお願いするのは少し失礼にあたります。
業者の人にスリッパに履き替えてもらうことも、フランスの硬い床では足元が安定しない(滑ってしまう)可能性があり、あまり一般的ではありません。
筆者としても目上のフランス人が自宅に遊びに来た際に、スリッパを用意して「良かったらどうぞ」とやんわり伝えたことがあるのですが、「(靴が)汚れていないから大丈夫」と断られてしまった経験があります。
100%玄関で靴を脱ぐのが当たり前の日本とは違い、フランスでは状況に応じた柔軟な対応や、相手に対するリスペクトが必要なのだと感じた瞬間でした。このリスペクトは日本の靴を脱いで示すリスペクトとは逆になってしまいますが……。

土足NGが増えつつあるフランス

しかし、冒頭でも述べたように、靴を脱ぐ文化はパリを中心に少しずつ広まっています。最近では、パリで初となる畳のカフェも登場しました。靴を脱いでそろえるところまでは根付いていないようですが、こうしたアジア由来の文化がSNSを通じてかなり浸透してきたなと感じます。
一方で玄関に靴を脱ぐスペースがないことは、日本人にとってちょっと不快かもしれません。掃除をしていても玄関周りが1番汚れていますし、雨の日には周囲がびしょ濡れになってしまいます。
そんな場所をスリッパも履かずに裸足でトコトコ歩くフランス人もかなり多いので、土足NGとはいえ文化の違いを感じています。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)

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