JOC竹田氏、「IOCとの伝言役」に過ぎなかった

3月23日(土)6時14分 JBpress

日本オリンピック委員会の理事会に出席する竹田恒和会長(2019年3月19日撮影)。(c)CHARLY TRIBALLEAU / AFP〔AFPBB News〕

舛添要一:国際政治学者)

 3月19日、JOC(日本オリンピック委員会)理事会で、竹田恒和会長は6月の任期いっぱいで退任することを表明した。同時にIOC(国際オリンピック委員会)委員も退任する。2020東京五輪誘致に関して、贈賄容疑でフランス司法当局の捜査対象となったことが原因である。

 IOCは、東京大会のイメージ悪化を避けるために、竹田会長に退任を迫ったようである。IOCのトーマス・バッハ会長は、7月24日に東京で開かれる開催1年前イベントへの出席を断ったという。「竹田氏と隣り合わせに並ぶのを拒否」とフランスのルモンド紙(3月19日付け)は報じている。

 この竹田退任劇の背景には、JOCやIOCのあり方、そしてオリンピックそのものの意義、スポーツと政治の関係など、多くの論点がある。誘致には関わっていないが、私は都知事として、オリンピック・パラリンピック2020年東京大会の準備に奔走してきた。その経験も踏まえて、以下に率直に記してみたいと思う。


フランスの国会議員は予審判事の捜査対象になっただけで辞任

 私は、都知事時代には、IOCや国や組織委員会との調整、膨れ上がった経費の削減、新国立競技場建設プランの見直しなど、多数の関係者の合意を得るのに苦労したものである。

 それは都政全体の半分くらいの重みを持っており、利害関係者の政治的、経済的介入もあり、日々、厳しい対応に追われていた。大会には約3兆円の経費がかかり、経済効果は約30兆円と見積もられているが、国家的行事として国や都が成功を担保しているだけに、利権を追求する者たちにとっては絶好の機会でもあるのだ。

 2020五輪東京大会の招致委員会の会長は竹田氏だったが、同委員会は、シンガポールのコンサルタント会社「ブラック・タイディングズ(BT)」に計180万ユーロ(約2億3000万円)を支払っている。BT社の代表はタン・トンハン氏である。彼は、国際陸上競技連盟(IAAF)前会長でセネガル人のラミン・ディアク氏の息子、パパマッサタ・ディアク氏と関係が深く、そのためコンサル料は、ディアク親子への工作依頼のための賄賂だったのではないかと疑われている。

 ディアク前会長は2013年までIOCの委員も務めていたし、息子のパパマッサタ氏も五輪コンサルタントとして著名であり、アフリカ票の取り纏めなど、五輪招致には大きな影響力を発揮できる立場にあった。

 この贈賄容疑について、仏司法当局は、昨年12月に竹田氏に事情聴取を行ったが、捜査を進めているのは予審判事である。フランスで予審判事が動くというのは重大事件であり、贈賄罪で起訴される可能性が大きい。因みに、予審判事の捜査対象になっただけで、フランスの国会議員は辞職する。

 日本では贈収賄罪は公務員に絡んで適用されるが、フランス刑法では公務員でなくても贈収賄罪が適用可能なので、民間の団体(誘致委員会)が民間人(セネガル人親子)に賄賂を渡しても法が適用される。したがって、あまり甘くみないほうがよく、フランス当局はフランスの法律に従って行動するので、起訴、場合によっては身柄拘束という可能性は十分にある。

 ただ、日仏間には身柄引き渡し条約がないので、日本にいる限りはフランス当局の捜査権は及ばない。竹田会長が海外出張を控え、IOC委員としての職務に差し障りが出ているが、それは海外での逮捕を恐れてのことである。このこともIOCが「竹田退任」へと舵を切った理由の一つである。


JOC会長は「掌の上の孫悟空」であってはならない

 竹田会長は、去る1月15日に記者会見し、「コンサルタント契約に基づく正当な対価」という従来の主張を繰り返した。会見はわずか7分間で、「仏当局が調査中」として記者の質問には答えなかった。これが内外のマスコミの不興を買い、説明責任を放棄したとして厳しく批判されたことは記憶に新しい。この会見が、今回の辞任の伏線になったとも言われている。

 実は、この贈賄容疑については、3年前に話題になっており、日本の国会でも取り上げられている。JOCの調査チームは、2016年9月、日本の法律やフランスの刑法、IOCの倫理規定に違反しないと結論づけたが、あくまで内輪の調査である。果たしてどこまで真実に迫ることができていたのか。

 JOCには、竹田“長期政権”の問題もあった。在任は10期17年に及ぶ。どんな組織でも、長期政権になればなるほど、内部に澱みが生じ、不正が巣くう温床ができやすくなる。

 私は、2014年2月の就任から2016年6月に辞任するまで、都知事としてIOCと様々な交渉をしたが、竹田氏についてはIOC委員の定年(70歳)を東京五輪まで延長するという方針を知らされていた。実際、それは2017年9月のIOC総会で正式に決定された。

 10年を超えてJOC会長の座にとどまるというのは長すぎるし、弊害も多々あったであろう。それでも、その竹田氏の定年延長を、目前に迫った2020東京大会の順調な運営を優先させてIOCは決めたし、JOCも定年規定を見直し、「竹田続投」を決定すると思われていた。しかし、予審判事の動きを見て、慌てたのだろう。IOCは五輪イメージが悪化することを危惧し、いわば「トカゲの尻尾切り」に踏み切ったのである。

 会長の多選制限だけでなく、JOCのあり方にもメスを入れる必要がある。IOC会長は、各国の国家元首とも会談する重みのある役職であるが、JOCはIOCの「下請け機関」となっており、日本国内向けでもJOC会長の発信力は弱く、また政治に翻弄されてきた。竹田氏をはじめ、委員にはスポーツ選手出身者が多く、政治力が欠如しているのは当然であるが、それでは期待される役割は果たせない。

 2020東京大会については、開催都市の都知事、国の五輪担当大臣、組織委員会会長、JOC会長の四者会談で多くのことが決まったが、竹田JOC会長については、IOCのメッセンジャーとしての役割を果たしたことしか記憶にない。したがって、IOC会長などの幹部が来日すれば、彼らと話せば済むので、竹田JOC会長に諮る必要はなかったのである。十分なリーダーシップを発揮していたとは言い難いが、長期政権になればなるほど権限は肥大していく。利権を求めて竹田氏に近づこうとした人々はさぞかし多かったのではないだろうか。

 JOCは、日本の国益を守り、日本のスポーツの健全な発展に貢献する組織に生まれ変わらなければならない。JOC会長は政治家や経済界、ましてや広告代理店の掌の上で動く孫悟空であってはならないのである。


スポーツ界特有のエゴイズム

 私が掲げる次期JOC会長の条件は、第一に国民と対話できることである。竹田JOC会長と言っても、今でこそ話題人物なので皆知っているが、それまでは普通の国民には彼の名前も顔も知られていなかった。これでは駄目で、常に国民とコミュニケーションをとる必要がある。

次期JOC会長が有力視されている山下泰裕理事(2019年3月19日撮影)。(c)CHARLY TRIBALLEAU / AFP〔AFPBB News〕

 第二に、IOCの単なる下請け機関から脱して、日本の利益を守ることができなければならない。

 第三に、スポーツ、できれば五輪に出場した経験者であることである。多くのIOC委員と知り合ったが、往年の金メダリストなど錚々たるメンバーが多く、その経験は国際社会で高く評価される。

 第四は、英語が堪能であることである。IOCの第一公用語であるフランス語もできればなおよい。これは、学習すれば出来ることだ。

 第五は、国、東京都、組織委員会と公平・対等に仕事が出来ることである。三者ともトップは政治家である。その政治家と対等に向き合うのは容易ではないが、これも訓練次第である。

 JOC竹田会長は退任に追い込まれたが、竹田氏1人に責任を押しつけるのではなく、その背景にあるスポーツ界全体の闇にメスを入れる必要がある。

 スポーツ界にあるのは、スポーツのためなら何でも許されるというエゴイズムである。五輪を利用して、自らの団体(日本○○連盟といったNF[National Federation=国内競技団体])のための設備更新、選手強化などを求めて予算分捕り合戦が展開されている。五輪のためなら無制限に予算を使えるとでも考えているようだ。

 都知事のとき、多くのIOC委員と会ったが、彼らの金銭感覚も雰囲気も、私がそれまで経験したことのないものだった。また、過去の招致について様々な黒い噂も聞いた。

 最近は随分改善されたと思うが、五輪開催が錦の御旗になり政治目的化すると、批判や監視の目が届かなくなる。19世紀末にクーベルタンが提唱したオリンピズムの原点に戻るときが来ているようである。

筆者:舛添 要一

JBpress

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