テレビを見ない若者がスマホの動画には食いつく理由

3月29日(金)6時0分 JBpress

「えっ、動画は気楽に見るものじゃないの?」(田原氏)、「じゃないっスね」(明石氏)

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 若者を中心に「テレビ離れ」が進んでいる。では、若者はどんなメディアに夢中になっているのか。答えは、SNSの動画だ。そこで今回はテレビの世界を知り尽くす田原総一朗氏が、日本の動画界のトップランナーであるONE MEDIA 代表の明石ガクト氏に、なぜ動画がテレビを凌駕し始めたのかについて直撃してもらった。(構成:阿部 崇、撮影:NOJYO<高木俊幸写真事務所>)

田原総一朗氏(以下、田原) 僕はYouTubeをはじめとするネット動画の世界ってよく知らないので、今日はいろいろ教えてください。まず明石さんは、なぜ動画の世界に入ろうと思ったんですか。

明石ガクト氏(以下、明石) 僕は学生時代、映像を作ってみんなに見せる活動をずっとしていたんです。例えばビルの屋上で真っ裸の男たちがトマトを投げ合うとか、渋谷のスクランブル交差点でパンダとウサギとイヌの着ぐるみを着た人が戦うとか、そういう映像を作ったんですね。で、それをDVDに焼いて人に配ったりしてた。当時、アマチュアが映像を配るには、そういうダイレクトな方法しかなかったんです。

 そうしたら2005年、僕が就職活動を始める頃にYouTubeが出てきて、自分でインターネット上にアップロードすれば、地球上のどこにいてもその映像が見られるっていう世界がいきなり現れたんスね。

田原 明石さんもYouTubeに夢中になった。

明石 はい。「これ、面白いじゃん」ってことで僕らもやり始めたんです。


テレビ業界に就職しなかった理由

田原 それなのに、テレビ局や制作プロダクションとかに就職しようとは思わなかったの?

明石 当時、テレビって最も斜陽産業って言われていたんです。実際、どんどん収益も落ちてるし、「あんまり未来がないよね」って思われてました。で、僕はYouTubeにビデオをアップしていたので、そこでインターネット業界に目が向いたんですね。まずはそっちの世界に一回行ってみようって。

田原 インターネット業界ってどういう会社に入ったの?

明石 「エキサイト」っていうポータルサイトの会社です。当時、Yahoo!とかエキサイトといったポータルサイトがものすごく注目されていたというか、インターネットにおいて、ちゃんとメディアビジネスをやれてんのはポータルサイトしかなかったんです。

 エキサイトに新卒で入社したのが2006年の4月なんですが、実は直前の2005年の年末にライブドアショックがあったんです。つまり僕がネットメディアでのキャリアをスタートさせたのは、ちょうどインターネットメディアの社会的信頼が地に堕ちたときだった。そこから、エキサイトでいろいろやらせてもらって、ビジネスを作っていく力学なんかも覚えていったんですけど、頭のどこかに映像に対する未練がずっとあったんですね。

田原 もう一回、映像制作をやってみたいと?

明石 そうなんです。

田原 映像のどこに魅力を感じたんですか?

明石 映像は、人の気持ちを短時間で変えられるじゃないですか。活字みたいにいちいち説明しなくてもいいし、逆に言えば、映像表現には絶対に言語化できないものがある。そういう「動画的価値」とか「映像的価値」と呼ぶべきものに魅かれます。

 だけどこの何十年間、そういう力ってずっとテレビが独占していたんです。僕が自分でYouTubeにビデオを上げて実感したのは、テレビによる映像の独占を、民主化していくようなことが世界で起きてんだなっていうことなんです。

田原 自分で映像のメディアが作れるようになったと。

明石 そうなんですよ。活字のメディアではすでにそれが可能になっていましたけど、映像を使うとそれがものすごいパワーを持つようになるんです。昔、アンディ・ウォーホルが、テレビの時代に直面して「誰でも15分間は世界的な有名人になれる、そんな時代が来るだろう」と語りましたけど、その「誰もが」のレベルがあまねく世界中の人になり、かつそのチャンスがメチャクチャ開かれた状態になった。「こりゃあ絶対にメディアの形、変わるよな」って思ったのを覚えてます。


「最初の1秒」から面白くするのが動画制作の作法

田原 YouTubeが2006年に登場して、十数年が経ちました。映像のパワーってその当時と比べてやっぱり大きくなったんですか。

明石 なったと思います。なにしろ個人で映像発信をする人にちゃんと富が集まるようになりました。

田原 それは広告収入っていうこと?

明石 そうです。ネットの世界に「ブログ」が登場したときに、「個人で文章を世界に向けて発信できる、これはすごいことだ」って言われて、次々と「ブロガー」が登場しました。でも、いまブロガーの活動だけで食べている人っているのかっていうと、ほとんどいないと思います。

 でも映像は違います。YouTubeを通してYouTuberになり、メチャクチャ稼いでいる人たちがいる。あるいは僕らのように、動画の会社を立ち上げ、テレビの仕事をせず、ネットで配信するだけで会社が成り立っている。こういう状況って、10年前だったら絶対に考えられないことでした。

田原 明石さんがネットで流すために作っている動画とテレビで流れている映像、具体的に言えばこの2つの違いってどこですか。

明石 僕らが作っている動画は、YouTubeではなくて、主にFacebookとかインスタグラム、TwitterといったSNS向けの、スマートフォンで見るための動画です。で、テレビとの最大の違いはコンテンツの作り方です。

田原 どういうこと?

明石 テレビって、作り手の立場からすれば、視聴者の目の前に置いてあるリモコンの中のチャンネルを取り合いなんですよ。首都圏の地上波なら、NHKとEテレ、5つのキー局と地元のローカル局。その中から、自分が作った番組が流れているチャンネルをどうやって選んでもらうか。その争いなんです。

 動画は違います。例えばスマートフォンを出して、そこから何をするかっていう選択肢はテレビよりもはるかに多いんです。その人は電話をかけるかもしれないし、地図を見るかもしれない。あるいはFacebookを見るかもしれないし、誰かからLINEが来るかもしれない。選択肢はもう無限にあるわけです。

 そういう中で僕らは自分たちが作った動画を見てもらわなくてはならない。見ている人の視聴態度が、ソファでリラックスして座りながらワイドショーを眺めている人とは全く違うんすよね。

田原 そうなの?

明石 そうなんです。つまりスマホで見る動画って、見る側が主体的に情報を取りにいっているメディアだから、テレビでよくやっている「CMをまたいで同じ映像を繰り返す」みたいなことをやっちゃうと、見ている人が離れて行っちゃうんです。

 ましてやスマホで動画を見るのって、電車の乗り換えの間の1分間とか、トイレに座ってる2分間っていう時間じゃないですか。例えばその「1分の中の5秒」をみんな無駄にしたくないんです。だから余計な編集や演出が入ると、みんなすぐ違うことを始めちゃって、動画を見てくれなくなるんです。

 なので、「情報の凝縮」をして、最初の1秒目から、その人にとって「面白い、見たい」っていうものにしなといけない。そこはものすごく気を配っています。

田原 その「情報の凝縮」っていうのは、明石さんが書いた『動画2.0』でも何度も触れてますね。それほど動画の世界では、情報の凝縮が大切な概念なんですね。


動画は気楽に見るものじゃない

明石 そうですね。動画を作る時には、一定の時間内にどれだけ情報量を詰め込めるかがポイントになってきています。だから編集では、情報量が薄くなるような要素は排除して、いっぱい詰めてく。そういう指標が必要だなと思って、僕は時間当たりの情報量、「インフォメーション・パー・タイム」という尺度を提唱させてもらっています。

田原 でも、めいっぱい詰まっていたら、見るほうは苦しいじゃない? ある程度、薄いから気楽に見られるんじゃないの?

明石 テレビだったら、そうやって気楽に見られるコンテンツがハマります。でも、スマホで見る動画って気楽に見るものではないんですよ。

田原 えっ、動画は気楽に見るものじゃないの?

明石 じゃないっスね。

 テレビとスマホ用の動画が大きく違う点は、デバイスと見る人との距離なんです。テレビだと3メートルぐらい離れたところに座ったり寝転がったりして、そこから画面に流れているものを見るっていう感じじゃないですか。それが、スマホだと30センチという極めてパーソナルな距離感になるわけです。

 動画っていうのは、みんな忙しい時間の合間、ほんのわずかな時間で見ています。だからテレビみたいに、黒い画面からだんだんフェードインして、タイトルがインして・・・みたいな演出・編集はフィットしない。「そんなことをするぐらいだったら早く見せてくれよ」ってなります。テレビには当たり前のオープニングとかエンディングも、YouTubeや僕らが作っている動画にはまずありません。

田原 そういうものは無駄なんだ。

明石 短時間に集中して見てくれているからこそ、その態度、そのときの気分を害さないことがすごい大事なんですね。

 だから、YouTubeのコンテンツやネット動画に馴染んでいるイマドキの小学生は、テレビを見て「なんでこんなに会話のペースがゆっくりなんだ」って感じるらしいです。

田原 テレビってゆっくりかな?

明石 テレビって、編集をしても、基本的に人が話すテンポは変えないじゃないですか。

 それが、僕らの動画コンテンツの世界では、会話と会話の間にある間(ま)とか、「えーと」なんていう言葉をカットして、どんどんペースが速くなるように編集するんです。それが「速い」と言われた時代もあったんですけど、今は人間の情報処理速度が上がってきたのか、それが普通です。それも「情報の凝縮」の1つの手法です。

 そういう編集が可能なのは、やっぱりスマホを見る時の30センチという距離感のお陰です。その距離で見てるから、字も読みやすいし、速いテンポの話も理解できる。テレビみたいに3メートル離れたところで速いテンポで話されたら、見ている方が疲れちゃうし、情報の見落としもあるかも知れない。近い距離で見れるスマホだから、早いテンポの動画にもついていけるんです。

田原 僕はYouTubeもスマホの動画もほとんど見ないんだけど、ともかくそこですごい変革が起きているっていうことは何となく分かってきました。

(次回に続く)

筆者:阿部 崇

JBpress

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