超小型衛星時代に加速が求められる小型ロケット投資

3月29日(金)6時0分 JBpress

インターステラテクノロジズ社が2023年に打ち上げを目指す衛星軌道投入ロケットZEROのイメージ図。(提供:インターステラテクノロジズ)

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 人工流れ星放出衛星や宇宙ゴミ回収衛星、さらには月着陸船など、宇宙での多彩な活動の夢は大きく広がる。だが、どんなに画期的な衛星や探査機も、まずロケットで打ち上げ、宇宙に到達しなければ仕事が始まらない。

 ところが、どんどん増える超小型衛星に対して、ロケット供給が追い付いていない現状はあまり知られてない。その状況を打破しようと、世界で約100社のロケットベンチャーがしのぎを削る。

 早くからこの状況を予測し、2013年から北海道大樹町に本社を構え、既にロケット2機の打ち上げ実験を行っているのが、インターステラテクノロジズ(IST)だ。実業家の堀江貴文氏が出資していることでも知られる。

 同社がまず取り組んだのが、高度100kmに達する観測ロケット「MOMO」。3号機は年内に打ち上げ予定だ。だが、彼らの「本丸」は衛星打ち上げ用のロケットである。3月19日、同社は宇宙輸送サービスに関する事業戦略発表会を開き、100kgまでの超小型衛星打ち上げ用ロケットZEROの開発を、JAXAなどの協力を得て本格的にスタートすることを発表した。打ち上げ目標は2023年だ。

 ISTのウェブサイトには「メディアの方々にお願いがあります」として「もう、ホリエモンロケットと呼ばないでください。ISTのロケットは、今日から、みんなのロケットになります」と、みんなのロケットパートナーズ発起人(山崎直子宇宙飛行士、岡田武史元サッカー日本代表監督ら)によって宣言されている。いったい、どんな背景があるのだろう。


観測ロケットMOMO3号機は年内打ち上げ予定

 まずは、ISTが現在取り組んでいる観測ロケットMOMOについておさらいを。日本初の民間ロケットMOMOは2015年頃から開発を進め、2017年7月30日に初号機打ち上げ実験を実施。だが打ち上げ66秒後に、ロケットからの通信が届かなくなった。空気の力を一番受ける「マックスQ」と呼ばれるタイミングで、機体が壊れたとみられる。

 原因究明と対策を施して2018年6月30日にMOMO2号機打ち上げ実験を行った。しかし発射4秒後にエンジンが止まり機体は落下、炎上。「不幸中の幸いだが、事故原因となった部分が残っていて、配管が溶けていたことを確認できた」(IST、稲川貴大社長)。調査の結果、新しく開発した姿勢制御用エンジンが設定範囲外で動作。高温のガスにより配管が溶け、機体の中に火が回り安全装置が働いて主エンジンが停止したことが分かった。

 これまで社員約15名で開発を進めてきた同社は、2号機の失敗を受けて体制を変えた。JAXAや三菱重工業などで日本のロケット開発を担ってきた外部有識者4人による外部原因対策委員会を、初めて立ち上げたのだ。宇宙業界で「ロケット野郎」と呼ばれるそうそうたるメンバーに現地で現物や設計情報を見てもらい、事故原因だけでなく潜在的な不具合がないか、今後の対策についてもアドバイスをもらった。

「議事録が山のようになり、大変勉強になった。日本の液体ロケット開発初期には同じような失敗をさんざん経験し、エンジンを破裂爆発させたこともあるというお話を聞いて、とても心強かった」(稲川社長)

 同委員会のアドバイスを受けてISTが初めて行ったのが、エンジン燃焼実験CFTだ。ロケットの実機を飛翔できる状態で地上に固定して、打ち上げ時と同じ2分間の燃焼実験を2回実施。実験は成功し、安全性を確認した。実は、これまで同社はロケット打ち上げを「実験」ととらえて、地上で出しきれない課題について地上実験を繰り返すより、実際に打ち上げることで洗い出そうという考え方をとってきた。CFTのような試験は打ち上げと同じくらいお金がかかるし、打ち上げた方が早く課題抽出できるというのがその理由だ。

 稲川社長は「進め方を変えました。エンジン開発試験をきちんと固めようと思います。コストがかかっても試験を実施して、見られることは全部地上で確認した上で本番に挑もうと」と語る。3号機に『宇宙品質にシフト』と名前がつけられた背景には、こんな変化があったようだ。

 年内に予定される打ち上げは、今度こそ成功? と聞くと「100%とは言えないが、これまでになくいいものに仕上がっている自信はある」と笑顔。成功すれば商業化を始めるという。


超小型衛星打ち上げロケットZERO開発——小型ロケット100社が切磋琢磨する現状

 MOMOは高度約100kmの宇宙空間に達するものの、地球の周りを周回することはできない。だから人工衛星を打ち上げるロケットには使えない。ISTが狙うのは、超小型衛星を低コストで打ち上げるロケット「ZERO」だ。

 ISTは、MOMO3号機の開発のめどが立ったことで、ZEROの開発にアクセルを踏むことを決断。だが、ZEROはMOMOの20〜30倍弱のエネルギー量が必要であり、その開発は桁外れに難易度が高い。一社での開発は困難なことから、多くの法人の知見を得て一緒に開発を進めたいと「みんなのロケットパートナーズ」を始動させた。立ち上げにはJAXAや丸紅、ユーグレナなど8つの企業・団体が参加した。

 堀江貴文氏が出資していることから「ホリエモンロケット」とメディアで報じられることが多いが、「みんなのロケットに」とウェブで宣言したのは、ロケット開発に必要な設計、製造、運用、営業など各領域に知見を持ち、ミッションの重要性を共有する多くの企業や団体の力や資金を必要としているからに他ならない。その点、エンジン面でのJAXAの協力は心強いはずだ。

 その詳細を説明する前に、小型衛星打ち上げロケットの現状を紹介しておこう。

 電子部品などの技術の発達によって、人工衛星は小型・軽量化し、コストが安くなり、大量に製造されるようになった。超小型衛星大量時代の幕開けだ。アメリカの調査会社のリサーチによると、2018年に打ち上がった超小型衛星(50kg以下)は世界で約250機。今後5年間で打ち上げを待つ超小型衛星の数は2000〜2800機と推察されている。

 その一方で、超小型衛星を打ち上げられるロケットは年間30本程度。圧倒的にロケットが不足している。また、ロケットへの衛星搭載にも課題がある。中・大型ロケットに衛星を、他の衛星と一緒に相乗りさせる場合、他の衛星の開発が遅れると打ち上げ時期が遅れたり、自分が到達したい目的地(軌道)に到達できなかったりする。

 実例は、今年1月に打ち上げられたALE(エール)の人工流れ星放出衛星だ。JAXAイプシロンロケットで7つの衛星の1つとして打ち上げられたが、7つとも高度約480kmの軌道に運ばれた。そのため、自力で1年以上かけて、目的とする高度400km以下に降ろしてこなければならず、現在もまだ降下中だ。

 つまり、宇宙活動をより多彩に活発化するには、超小型衛星を安く、早く、目的地に運ぶ「超小型衛星用の小型ロケット」が切実に求められているのだ。現在、世界中で小型ロケット開発を進めるスタートアップは約100社と言われるが、打ち上げに成功しているのは米国のRocket Lab(ロケットラボ)1社のみ。中国の零壱空間(ワンスペース)は3月27日、衛星軌道投入ロケット打ち上げに失敗した。

 稲川社長は「ロケットベンチャー100社の中で、実現可能と思われるのは数社。開発競争の中で、我々は観測ロケットMOMO打ち上げ実験やZEROの基礎研究を既に進め、要素技術を持っている。大きく遅れておらず、きちんと開発できれば世界に負けないロケットを作ることができる」と自負する。


ZEROにJAXAはどう協力するのか?

 人工衛星を打ち上げ用ロケットZEROは2段式の液体燃料ロケットだ。全長22m、直径1.8m。重量35トン。1回あたりの打ち上げコストは約6億円以下を目指す。新規開発で最も難しいのは、ロケット燃料をタンクからエンジンに送るターボポンプ。このターボポンプなどについて、JAXAの協力を得ることとなった。

 具体的には、JAXAと民間企業が一緒に新事業を創出する「宇宙イノベーションパートナーシップ」(J-SPARC)の枠組みで活動を行う。JAXAのロケットエンジン研究開発拠点である角田宇宙センターを拠点に、ターボポンプ、噴射機、燃焼室の3本を柱に、構造や打ち上げ時の保安など幅広く共同研究を行う。角田宇宙センターはISTのエンジニアを受け入れる。

 JAXA角田宇宙センター所長である吉田誠氏は「ISTが壁に当たりながら果敢に取り組む姿に共感し、応援している。低コストロケットエンジンに関する研究でそれぞれ試験モデルを製作、試験を行って、結果を共有しフィードバックする。技術で貢献したい」と語った。

 ロケット心臓部のエンジンについて、半世紀以上の経験と技術を持ち、現在、JAXAの次世代主力ロケットH3のエンジン試験を実施中である同センターの協力を得られることは、ISTにとって強力な援軍であると同時に、JAXAにとっても低コストロケットエンジンは新しい研究分野。両者にとって貴重な機会になるはずだ。

 ユニークなパートナーには、ユーグレナが挙げられるだろう。出雲充社長は「国産のバイオジェット燃料が目前に来ているが、世界初のクリーンなミドリムシロケット燃料を必ず完成させます。飛行機だけでなくロケットも飛ばして、国連のSDGs(持続可能な開発目標)にかなった全く新しい燃料を、海外からではなく、日本から発信していきたい」と宣言した。稲川社長によると、まずは基礎研究を始め、ロケットエンジンに適用できるか試験をしていく予定とのこと。

 今や世界でもっとも注目される宇宙企業である米国スペースXも、2002年の創業後は数多くの失敗を繰り返した。だが、2006年にNASAと国際宇宙ステーション(ISS)への補給船サービスを契約。米政府が民間による商業打ち上げをサービス購入の形で支援したことで、同社は大きな成長を遂げた。「NASAから多くのことを学んだ」とイーロン・マスクCEOは、NASAや米政府への感謝を公言する。

 日本は、宇宙産業の市場規模を2017年の1.2兆円から2030年に倍増することを目指し、5年間で1000億円のリスクマネーを投入すると表明している。人工衛星や月着陸機だけでなく、宇宙活動の拡大に欠かせないロケットへの投資は、もっと加速してもいいはずだ。

 小型ロケットといえば、小型衛星打ち上げ用固体燃料ロケット事業を進めるスペースワン(IHIエアロスペースやキャノン電子などが設立)が、和歌山県に小型ロケット射場を建設することが3月末に発表された。近い将来、北海道から、和歌山から、民間による小型ロケットが次々と打ち上がり、今は想像もできないような宇宙の利用が始まることを期待したい。

筆者:林 公代

JBpress

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