フランスに“キラキラネーム”は存在する?フランス人になじみ深い日本人の名前が「アキラ」である理由

2025年4月5日(土)21時25分 All About

国ごとに異なる名前の文化。名前や名字には、その国ならではの文化的背景が映し出されています。筆者が暮らすフランスではどんな名前が多いのか、近年のトレンドも併せて紹介します。

生まれてから人生を終えるまで、一生の付き合いになる「名前」ですが、その特徴は国によって大きく異なっています。
筆者が暮らすフランスでも、名前は文化の「写し鏡」のようなもの。有名ブランドで耳にする「ピエール」や「セリーヌ」といった名前に、フランスらしさを感じる人も多いのではないでしょうか。
実際に筆者もこちらで暮らしていて、「これはフランスっぽい名前だな」と思うことがよくあります。さらにフランス人にその由来や意味を尋ねてみると、日本の名前文化とはやや異なる特徴があることが分かってきました。

人と被る率が高いフランス人のファーストネーム

日本でも、漢字は違えど、同じ名前の人に出会うことが珍しくありません。これはフランスでも同様で、その頻度は日本よりも高い印象があります。理由としては、まず名前のバリエーションが日本に比べて少ないこと。さらにアルファベット表記のため、個々の違いが生まれにくいことが挙げられます。
そのためか、ほかの人と名前が完全に被るケースがとても多いフランス。例えば、二コラ(Nicolas)君という男の子が学校のクラスにいたとしましょう。この名前は1980年代生まれによく見られ、フランス人に話を聞くと「同じクラスに何人もいた」という声をよく耳にします。
「二コラ!」と呼べば、何人ものニコラが振り向く……。フランスではそんな状況も多いので、名前の重複を避けるために「ニコ」や「ニッキー」といったニックネームで呼び合う文化が根付いているのです。

フランス人に最も多い名前とは

ではフランスで最も多いファーストネームをご紹介しましょう。ファースト社が発表した2024年の統計(『L'Officiel des prénoms 2024』)によると、男性名で1位がジャン、2位ミシェル、3位フィリップ、4位アラン、5位ピエール、6位二コラ、7位クリストフ、8位パトリック、9位クリスチアン、10位ダヴィッドとなっています。
女性名では、1位がマリー、2位ナタリー、3位イザベル、4位シルヴィー、5位カトリーヌ、6位フランソワーズ、7位マルティーヌ、8位モニク、9位クリスティーヌ、10位ヴァレリーです。
クラシックで古風なイメージがありますが、これは人口の多い現在の50〜60代に多いファーストネームであるためです。特に女性名の「マリー」は、聖母マリアに由来するもので、キリスト教圏ではとてもポピュラーな名前。かつては「マリー=クレール」や「ジャン=ピエール」など、2つのファーストネームが使われることも一般的でした。

キラキラネームは存在しないが、「人気の名前」は時代とともに変わる

フランスのファーストネームは聖書や聖人に由来するものが非常に多く、親たちもそんな伝統と呼びやすさ、そして名字との総合的なバランスを見て決めているそうです。ただ、宗教色が薄れつつある現代では、聖書にまったく関係のない名前も増えています。
例えば、1990年代生まれはハリウッド映画の影響で「ケヴィン」や「マックス」といったアメリカ風の名前が流行。一方、2010年代以降は「エマ」や「ルイ」「レオ」など、短くて世界中のどこでも通じる名前が人気です。漢字を使わないフランスでは日本のようなキラキラネームは存在しませんが、こうして名前からも時代の変化を感じ取ることができます。

名字の種類は世界で一番多い

名前の選択肢が限られるフランスですが、名字のバリエーションはなんと世界一。フランスには現在、約150万種類もの異なる姓が存在すると言われています。
INSEE(フランス国立統計経済研究所)のデータによると、フランスで一番多い名字は「マルタン(Martin)」。次いで多い順に「ベルナール(Bernard)」「トマ(Thomass)」「プティ(Petit)」「ロベール(Robert)」となっています。
フランスで名字が使われるようになったのは10世紀。当時の人口増加に伴い、村人たちを区別するために導入されました。名字の由来を見てみると、32%が父方の祖先のファーストネーム、30%が地名、そして18%が職業に関連しています。ユニークな例としては、先祖の背が低かったことを意味する「プティ(Petit)」さん。「デュボワ(Dubois)」という名字も多いのですが、これは森の近くに住んでいた先祖に由来しているそうです。
1900年には52万種類だった名字も、戦後の移民の流入によってさらに多様化し、現在では約150万種類まで増加しています。そのためファーストネームは典型的なフランス名でも、名字に祖国のルーツが刻まれている人を非常に多く見かけます。

フランス人にとって、日本人と言えば「この名前」

「ピエール」や「セリーヌ」がフランスらしい名前だとするならば、日本人の名前にはどんなイメージがあるのでしょうか。
筆者がフランス人と話していて感じるのは、「日本人クリエイター」の名前がダントツでポピュラーであること。特に圧倒的な知名度を誇るのが、『ドラゴンボール』の作者である鳥山明さん、『ベルセルク』の作者である三浦健太郎さん、そしてジブリ映画監督の宮崎駿さんです。いずれの作品もフランスで大ヒットを記録したため、本当に多くの人に知られる存在となりました。
その影響もあり、フランス人にとって「日本人の名前」といえば、「アキラ」や「ミヤザキ」が真っ先に思い浮かぶそうです。これは発音しやすく、フランス人にも覚えやすい言葉であることが関係しています。
さらに、カンヌ映画祭の常連・是枝裕和監督や、フランス語に翻訳された作品の多い村上春樹さん、フランスを何度も訪れた故・安倍晋三首相の名前もよく知られています。やはりフランスと縁の深い人物ほど、その名前が広く認識されているようですね。

伝統的な名字と時代を映し出す名前

名前や名字は、その国の文化を物語っていると感じます。かつて宗教色が強かったフランスも、現代では国際的な感覚を意識したものや、他国の文化に影響を受けたファーストネームが増えてきました。
日本にも「らしい」名前がたくさんありますが、時代とともに変化している点はフランスと共通しているかもしれません。一方で、名字がどこの国でも変わらずに受け継がれているのが面白いところ。その意味や由来を調べていると、土地の歴史や文化が浮かび上がってくるようで、つい引き込まれてしまいます。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)

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