前科者は、どうやって社会復帰すればいいのか?薬物から立ち直る36歳男性の葛藤と決意

2024年4月15日(月)21時50分 All About

ひとたび罪を犯すと社会復帰が難しく、再犯につながることが社会問題の一つとなっています。刑務所出所者の社会復帰をサポートする自立準備ホームを卒業し、社会復帰を果たした山田誠さん(仮名・36歳)に、新たな人生を歩む上での困難と決意を聞きました。

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ひとたび罪を犯すと社会復帰が難しく、再犯につながることが社会問題の一つとなっています。法務省が公表した犯罪白書によると、2022年検挙された刑法犯の再犯率は47.9%。高い再犯率の背景には、犯罪歴のある人たちが社会で生きにくい状況に置かれていることが指摘されています。
そんななか、刑務所出所者の社会復帰をサポートする自立準備ホームを卒業し、社会復帰を果たした山田誠さん(仮名・36歳)に、新たな人生を歩む上での困難と決意を聞きました。

出所後、「もう一度、東京で自立したい」

覚醒剤使用の罪で2度逮捕され、約1年半を刑務所で過ごした山田さんは、2019年8月に仮釈放されました。出所した時、「解放感と不安が入り混じっていた」と話します。
「刑務所の中は世間と隔離されているので、外に出られるのは嬉しい半面、社会の変化に追いついていけるか心配でした。1年半の後れを取り戻さないとというプレッシャーはありましたね」
仮釈放後、東京に出てきた山田さん。地方の実家に帰るという選択肢もありましたが、山田さんは持病のため運転免許が取りにくく、地方で生活するには不便でした。車がなくても生活しやすい東京で自立したいという思いがあり、東京の更生保護施設に入ります。
「更生保護施設に入居している間は住居費がかからず、朝食と夕食も提供されるので食費もほとんどかかりません。ただ、明確な入居期間が決まっていないので、居られるうちにお金を稼いで一人暮らしできるように自立しなければなりません。
私の場合、刑務所を出所して翌月からアルバイトを始めたものの、十分なお金が貯まる前に退居を言い渡されてしまいました。『うちではもう面倒みれないから』と。それで、(自立するために)もうちょっとお金を貯めたいと相談したところ、紹介してもらったのが自立準備ホームです」

更生保護施設を出た後、自立準備ホームで再起を決意

自立準備ホームとは、刑務所などを出所した後、帰る家のない人が一時的に住むことのできる施設です。法務大臣から認可を受けている更生保護施設と異なり、主にNPO法人や社会福祉法人などが運営・指導を行っています。
山田さんが入居したのは「株式会社生き直し」の自立準備ホーム。山田さんが入居してから2カ月後には、自分で貯めたお金で賃貸の部屋を借りることができ、自立に向けた一歩を踏み出しました。自立準備ホームで過ごした期間は短かったものの、施設を運営する千葉龍一さんとの出会いが、その後の人生において大きな支えになっていると語ります。
「千葉さんは何でも相談できるお兄さんのような存在です。今も時々、千葉さんと私と同じく自立準備ホームを卒業された方と一緒に、飲み会をやっています。その時間がとても楽しいんです。私はスポーツが好きでスポーツのことを発信するSNSアカウントを持っているんですが、そこでも千葉さんとつながっています。
特に千葉さんからのアクションを求めているわけではないんですが、つながっていることによって(再犯しないよう)自制心が働いている気がします」
【株式会社生き直し】
社会生活が困難になった若者や矯正施設出所者、刑務所出所者等に社会参加や復帰の機会を拡大することを目的として、刑務所出所者等に対する更生支援・就労支援や自立準備ホームの運営、企業研修などを行なっている。

前科者は、どうやって社会復帰すればいいのか?

自立準備ホームを卒業した後、社会復帰を果たした山田さん。刑務所出所者専用の求人で見つけた仕事に就くことができましたが、現在ある悩みを抱えていると話します。
「今の就業先は、面接の時に罪状について説明したので、会社も私の前科を知った上で雇ってもらっています。ただ、最近、会社の経営状況がよくないようで……転職を考えているのですが、刑務所に入っていたブランクの期間をどう説明したらいいのか悩んでいます。きちんと履歴書に記載しないと虚偽になりますし。
出所直後は刑務所出所者専用の求人に応募できるのですが、今はもうそれらに応募することができません。自分が罪を犯したことが悪いのですが、前科がずっと付きまとうので、これから転職を余儀なくされたら、どのように転職活動したらいいのか深刻に悩んでいます」

薬物はもう絶対にしない、大切な人とのつながりは再犯の予防線

山田さんは、薬物の恐ろしさと更生の決意について次のように話してくれました。
「薬物って、全てを壊すんですね。私の場合、職も失い、家族との関係に亀裂ができたし、生活が壊れました。薬物をやっても誰にも迷惑をかけない(自分以外に被害を及ぼすわけではない)と言う人もいますが、私は違うと思います。実際、私自身が薬物を使用したことでたくさんの人に迷惑をかけました。
一番迷惑をかけたのは、両親ですね。刑務所に入っている間、私を支えるために面会や差し入れを持ってきてくれました。本当に心配や迷惑をかけたなと思っています。
これで再犯したら、親だけでなく社会復帰を支援してくれた人たちにも心配をかけることになります。だから、もう2度と同じことを繰り返してはいけないなと。大事な人たちを裏切ってはいけないという気持ちが、再び罪を犯さないための予防線になっていると思います」
もう2度と薬物には手を出さないと決めた山田さん。しかし、山田さんのように再犯しないと決意し努力していても社会の目は厳しく、違法薬物を使用した罪(前科)が消えることはありません。
自分は薬物なんてしないから大丈夫と思っていても、SNSで知り合った人が違法薬物を使用しているケースや、「お小遣い稼ぎ」「指定されたものを運ぶだけ」など気軽な言葉で薬物の売買に誘われるケースもあるかもしれません。
違法薬物に一度手を出すことで、どれほど人生を破壊するか想像し、SNSなどを介した手軽な誘いにも絶対に手を出さないよう注意しましょう。
取材・文/秋山 志緒
外資系金融機関で広報業務に従事した後に、フリーのライター・編集者として独立。マネー分野を得意としながらも、ライフやエンタメなど幅広く執筆中。ファイナンシャルプランナー(AFP)。X(旧Twitter):@COstyle
(文:秋山 志緒)

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