「復興以上に大事なのが……」で桜田元五輪大臣更迭 なぜ政治家は震災で失言をしてしまうのか

4月18日(木)6時0分 文春オンライン

 安倍内閣が大揺れだ。これまで数々の失言を繰り返してきた桜田義孝五輪相が、過去最大級の失言で更迭されてしまったのだ。「復興五輪」とされる東京五輪まで、あとわずか1年3カ月という段階でなぜこのような発言が出てしまうのか? これまでの震災関連の失言などを含めて考えてみたい。



辞表を提出後、取材に応じる桜田義孝五輪担当相(中央)=4月10日夜、首相官邸 ©時事通信社


桜田義孝 五輪相

「復興以上に大事なのが高橋議員だ」


NHK政治マガジン 4月10日


 10日、桜田義孝五輪相は岩手県出身で自民党の高橋比奈子衆院議員のパーティーで、「復興以上に大事なのが高橋議員だ」と発言。桜田氏は「被災者の気持ちを傷つけた責任を取りたい」として、安倍晋三首相に辞表を提出し、受理された。事実上の更迭である。


 全文はこうだ。


「東京オリンピックは来年で、世界中の人が日本に来る。東日本大震災ということで、岩手県にも世界中の人が行くと思うので、おもてなしの心を持って復興に協力していただければありがたい。そして、復興以上に大事なのが高橋さんなので、よろしくどうぞお願いします」


 前半はまともだ。なぜその一言を付け加えてしまったのか。


問題となった「がっかり」発言をギャグに


 桜田氏は今年2月、競泳の池江璃花子選手が白血病を公表した際、「がっかりしている」と発言して批判を浴びたが、このパーティーでは聴衆に向かって、「(乾杯前のあいさつが続き)がっかりしているんじゃないのか。『がっかり』という言葉は禁句なんですけど」と冗談めかして語っていたという(朝日新聞デジタル 4月12日)。


 反省がないというか、そもそも何について批判されていたのか理解していなかったのだろうか。パーティー後、記者に発言を問われた際は、「そんなこと言っていない」ととぼけていたという(日刊スポーツ 4月11日)。


 読売新聞は社説で「1強の緩みが蔓延している」と批判(4月12日)。産経新聞は社説で「人を見る目はないのかと批判されても仕方あるまい」とまで言った(4月12日)。また、「政府の五輪軽視としか映らない」と指摘しているが、「五輪軽視」というより「被災地軽視」ではないだろうか。自民党岩手県連の岩崎友一幹事長は「総理以下、各大臣にとって復興は最重要課題のはず。被災地を愚弄しており非常に遺憾で論外だ」と痛烈に批判した(朝日新聞デジタル 4月11日)。


 安倍首相はこれまで失言を繰り返してきた桜田氏を「適任」とかばい続けてきたが、今回は「任命責任は、もとより総理大臣の私にある」と責任を認めた。しかし、14日に被災地の福島県を訪れた安倍首相は、東京電力福島第1原発や東京五輪の聖火リレーのスタート地点となる「Jヴィレッジ」などを視察したが、桜田氏の問題には触れることはなく、謝罪も行わなかった(日刊スポーツ 4月14日)。



桜田義孝 五輪相

「いしまきし」


読売新聞オンライン 4月10日


 桜田氏は「復興以上に大事なのが高橋議員だ」と発言した前日の9日に開かれた参院内閣委員会で、復興五輪イベントが3月に開かれた宮城県石巻市について「いしまきし」と言い間違えて謝罪した。1分15秒ほどの答弁の間に3回間違えたのだから、本当に読み方を知らなかったのだろう。東日本大震災による石巻市の死者・行方不明者は計3972人で、被災自治体では最多となる。


 桜田氏に質問した自由党の木戸口英司氏は「政府は都合のいい時に『復興五輪』と言うだけで中身がスカスカなのが分かった」とコメント(河北新報オンライン 4月10日)。秋田県の詩人・エッセイストのあゆかわのぼる氏は「被災地を知らず、知ろうともしていなかったことを物語っている」と指摘している(河北新報オンライン 4月12日)。


桜田義孝 五輪相

「まだ国道とか交通、東北自動車道も健全に動いていたから良かったが、もし首都直下型地震が来たら交通渋滞で人や物資の移動が妨げられる」


共同通信 3月24日



 桜田氏は今年3月にも震災関連で失言をしている。地元である千葉県柏市の集会で、東日本大震災の津波被害について事実誤認の発言を行っていた。


続く失言は、関心の欠如のあらわれか


 実際は震災直後、沿岸部を通る国道は通行不能で、東北自動車道も緊急車両を除いて通行止めになっていた。桜田氏は翌日の参院予算委員会で謝罪。安倍首相は「発言の正確さには十分に留意して取り組んで欲しい」と擁護していた(朝日新聞デジタル 3月26日)。「いしまきし」と並んで、桜田氏がまったく被災地に関心を持っていなかったことがよくわかる発言だった。


 なお、桜田氏が出席していたのは憲法改正をテーマにした集会で、自民党改憲4項目に盛り込まれた緊急事態条項を念頭に「改憲しなくても日常生活は困らないと言う人がいるが、大きな間違いだ」と主張。震災に触れた上で「やはり非常事態(の条文化)はやるべきだ。いざというときに国民生活を守るための法律を制定しておかなければならない」と語っていた(共同通信 3月24日)。


 緊急事態条項とは、大震災などの非常時に内閣だけで法律をつくったり、改正したりできるようにするものだが、桜田氏のように事実誤認だらけの上、被災地に関心のない大臣にそんな権力を持たせても……という気がしてならない。



「まだ東北だったからよかった」


今村雅弘 元復興相

「まだ東北で、あっちの方だったから良かった。首都圏に近かったりすると、莫大な、甚大な被害になった」


産経新聞 2017年4月25日


 桜田氏の「まだ良かった」発言で思い出されたのが、今村雅弘元復興相のこの発言だ。発言当初は強気で辞任を否定していたが、翌日、辞表を提出した。よりによって復興相がこんな発言をしていたのだから、あらためて驚く。


 なお、今村氏が失言したのは自民党二階派のパーティーの壇上。同月、今村氏は福島県などからの自主避難者に対して「自己責任」「裁判でも何でもやればいい」と発言して批判を浴びていたが、パーティーでは笑いながら「お騒がせしております」と挨拶してツカミにしていた。桜田氏の失言のケースとよく似ている。


石原慎太郎 元東京都知事

「復興五輪なんてネーミングの問題だ。最初に五輪があって、災害がその後、起きた。ちょっと気の利いた人間なら、だれでも考えることだ」


朝日新聞デジタル 2019年3月13日


 2020年の東京五輪招致を提唱した元東京都知事の石原慎太郎氏。石原氏が4選に向けて東京都知事選に立候補したのは2011年3月11日のこと。立候補の表明を終えた直後、東日本大震災が発生したのだ。翌月、石原氏は4選を果たした。



 五輪招致は既定路線だったが、所信表明演説の作成は難航した。原案の作成にかかわった都の幹部たちは「五輪どころではない」という批判を避けるため、「復興五輪」というキーワードを打ち出した。元知事の側近は「当時は批判を受けず、機運を高めることが必要だった。必ずしも理想だけを語った言葉ではなかった」と明かしている。石原氏自身も「復興五輪なんてネーミングの問題だ」とドライに振り返った。


 桜田氏の辞任の際、東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長は「五輪の源流は災害復興に始まっている。すべての行事やシステムにおいて、東北の震災が頭にないことは一つもない」と語ったが(朝日新聞デジタル 4月11日)、石原氏の発言を見る限り、必ずしもそうとは言い切れない。「復興五輪」が掛け声だけなら、桜田氏や今村氏をはじめとする閣僚らが被災地の復興に対する関心が薄いのも当たり前だろう。


 安倍首相は第2次内閣発足以降、「閣僚全員が復興相」と言い続けてきたが、本当にその意識は徹底しているのだろうか? 政府関係者の話によれば、安倍首相も3月11日の会見を「一定の節目を越えた」として、2017年から行っていない(時事ドットコム 2017年3月10日)。



(大山 くまお)

文春オンライン

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