物議の「商品券」問題をこじらせるもの…バレていない人がバレた人を叩く「賭け麻雀」と同じ精神構造

2025年4月19日(土)21時50分 All About

物議をかもしている石破茂首相の「商品券」問題。これまでクリーンな印象の石破首相に対する失望も相まって、内閣支持率は下落の一途をたどっています。そもそも商品券とは何か、法律に抵触しないのでしょうか。※サムネイル写真:つのだよしお/アフロ

石破茂首相が衆議院議員1期生に1人当たり10万円の「商品券」を配布した問題が尾を引いています。物価高騰で苦しむ中、国民の批判は集中。これまで清廉なイメージだった石破さんに対する失望も相まって内閣支持率は下落の一途をたどっています。そもそも石破さんが配布した商品券とは何だったのでしょうか。法律には抵触しないのでしょうか。

ねぎらいで配った10万円分の商品券で人気下落の石破首相

2025年3月、石破首相が当選1回の衆議院議員を総理大臣公邸に招いて食事会を開催しましたが、それに先立ち、出席議員の事務所に1人当たり10万円分の商品券を配布していたことが明らかになりました。
問題発覚後、配布の目的について石破さんは、先の衆院選で自民党が苦戦したことに対する議員本人と家族へのねぎらいのためと述べました。
石破さんはこれまで自民党内で安倍派をはじめとした主流派とは一線を画し、クリーンな印象で支持されてきただけに、国民の間にも失望感が広がり、本人も「自分を見失っていた」と反省の弁を述べました。
以下、テーマ別に問題点を整理します。

道義的問題

まずは道義的問題から。
現在の日本は極端な円安に加え、物価が高騰し、庶民の生活は困窮を極めています。しかも米価格が例年の2倍を超えるほどに上がり、政府が備蓄米を放出しなくてはならない事態に至っています。
そんな中だけに、クリーンなイメージのある石破さんがカネで新人議員の歓心を買おうとしたことに国民は落胆し、反発しました。

法的問題

次が法的問題です。
今回の行為は「政治資金規正法21条の2第1項」に違反する恐れが指摘されています。これは「政治家個人の政治活動に関する寄附の禁止」を定めたものですが、実はこの法律に用いられている用語の解釈が事態を複雑にしています。
その用語とは「政治活動」という文言です。
一口に政治活動と言われても私たち一般人にはピンと来ませんが、政治家ならその意味を正確に理解しているかといえば、意外にもそうではありません。なぜなら、政治活動とは何なのかが法律で定義されていないからです。
政治家が話している時点で政治活動だと言う人もいれば、選挙に関係しなければ政治活動ではないと言う人もいます。さらに、選挙に関する話であっても相手が選挙区の人でなければ政治活動ではないと言う人もいます。
このように、「政治活動」の意味が明確に定義されていないため、思う、思わないレベルの、どうとでも解釈できる余地が生まれ、違法性を判断しにくくさせているのです。

歴代首相の慣習(自民党の体質)

問題の発覚後、石破さんは、(自民党内で)自分はケチだと言われてきたのを気にしていたと言っていますが、裏を返せば、彼以外の派閥の領袖などボス的議員が、人心掌握のためにいかにお金を使っていたかがうかがい知れる発言と言えます。※()内は筆者注。
そして石破さんの発言を裏付けるかのように、歴代の首相が新人議員に金品の提供をするのが半ば慣習となっていたことが明らかとなりました。しかも商品券などという中途半端なものではなく、実弾(=現金)が配られていたという証言も飛び出しました。田中角栄さんが実権を握っていた時代は紙袋で現金を堂々と手渡していたといいますから、さもありなんです。

資金の出所

石破さんは、商品券の購入費用について、自らのポケットマネーと述べていますが、領収書がないことから、本当にそうなのか疑いが持たれています。
庶民の感覚として、計150万円も使ったのに領収書をもらわないのはおかしいと思いがちですが、仮にもらったとして、果たしてその領収書を使えるでしょうか?
 
答えはおそらくNOです。
商品券150万円分の領収書を出せば、渡した相手や目的を説明しなくてはならず、まさに政治資金規正法に話が及びかねません。そんな危険極まりない領収書など出すわけにはいかないから、もらわなかった、という理屈も成り立ちます。
ではポケットマネーでないとしたらどうなのか? それで浮上するのが「官房機密費説」です。

官房機密費から出した疑い

「官房機密費」とはどんなお金でしょうか?
政府の公式見解では「情報収集、調査に必要な経費」で、その使途は「国の機密保持上、使い道を明らかにしない」とされています。国家間の機密にも関連して用いられるといわれ、過去にイラクで日本人人質事件が起きた際、身代金を官房機密費から支払ったのではないかとうわさされたこともありました。
ここから商品券代を出すことも可能ですが、確かめようはありません。

「逃げ得」を助長する政治の「ザル法」

ここまでいくつかの視点から見てきましたが、今回の問題がどの程度悪いのか判然としません。中でも法律(政治資金規正法)の無力さが目立ちます。判断基準となる文言の定義をしていないことによる「法律の空洞化」と言ってもいいかもしれません。
実はこれは日本の政治関連の法律に共通する問題です。詳細は別の機会に譲りますが、「公職選挙法」においても判断基準があいまいで、同じことをしたのに起訴される人とされない人がいるなど、「ザル法」と揶揄(やゆ)されることもあります。
判断の決め手となる基準が明確に定められていないのですから、法律として欠陥があるように思えますし、法適用の平等性の点でも問題と言えます。

バレていない人がバレた人を叩く……「賭け麻雀」と同じ精神構造

もう1つ、今回の問題をややこしくしているものがあります。それは「バレていない人がバレた人を叩く精神構造」です。
意外に思うかもしれませんが、それは「賭け麻雀」と問題の質が似ています。
2021年、黒川弘務元東京高等検察庁検事長が賭け麻雀をしたとして略式起訴される事件がありました。各メディアがこぞって批判する中、その件を扱っていたワイドショーで、あるコメンテーターが出演者を見回し、「この中でお金を賭けずに麻雀している人はいますか?」と質問し、スタジオが凍り付いたことがありました。
今回、商品券の件が発覚した当初、旧安倍派を中心に石破批判が湧き起こりましたが、歴代首相も同じことをしていたことが明るみに出た途端、批判は一気にトーンダウンしました。自分も賭け麻雀をしていたのがバレたのと同じだからです。
生活が困窮している国民からすれば、10万円分の商品券は羨ましい話です。くれると言われればもらう人もいるでしょう。ただそれが公の立場となると話は別です。だからこそ、政治関連の法律はあいまいな点をなくし、定義を明確にすることが必要です。
今回の件は、よりにもよってクリーンで知られる石破さんがカネがらみで問題になったという点で、なおさらその必要性を感じさせた出来事と言えます。

松井 政就プロフィール

作家。国会議員のスピーチライター。政治、文化芸術、スポーツ、エンタテインメント分野の記者、事業プランナーとしても活躍。
(文:松井 政就(社会ニュースガイド))

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