桜の満開までの“ダラダラ咲き”、地球温暖化が進むとどうなる?
2025年4月28日(月)5時10分 ウェザーニュース

2025/04/28 05:06 ウェザーニュース
今年の桜前線は北海道を北上中で、函館や札幌などでも見頃を迎えます。
地球温暖化による気温上昇の影響で、温暖地以外では、近年は桜の開花が早まる傾向にあり、「満開の桜が咲く校庭で入学式の記念写真を撮った」という、関東地方以南でよく聞かれた思い出話も、もはや過去のものとなりつつあります。
温暖化の影響は開花の早まり以外にも、これまでに見られなかった変化を桜に与えているようです。その顕著な例として、特に南九州など温暖な地域で、開花が遅くなり、また開花から満開までの期間が長く“ダラダラ”と咲く、という現象が報告されています。
開花から満開までの期間が温暖化によって長くなる理由や、今後どれほど長くなってしまうのかなどについて、元福岡市科学館館長の伊藤久徳・九州大学名誉教授に解説して頂きました。
満開まで長い“ダラダラ咲き”になる理由
温暖化が進むと、なぜ桜の開花が遅くなり、開花から満開までの期間が長くなるのでしょうか。
「一般的に桜は開花前年の夏ごろに花芽(かが)が作られ、それが秋から冬にかけて、成長しないようにいったん休眠します。その後、桜の花芽が再び成長するためには、0〜10℃前後の低温が何度も(毎時気温で1300回)記録されて起こる『休眠打破(きゅうみんだは)』が必要です」(伊藤先生)

「まず、南九州など温暖な地域で、開花が遅くなった理由は簡単に説明できます。休眠打破が十分に進まずに、休眠が打破される日が遅くなり、その影響で開花も遅くなるからです」(伊藤先生)
開花から満開までの期間が長くなるのは、なぜでしょうか。
「桜の開花や満開までの期間は、(1)休眠が打破される日、(2)そこからの成長のスピードによって決まります。
これらが1本の木の花芽の中で違いがなければ、すべての花芽がいっせいに開花するので、開花(5・6輪の花が咲く)から満開までの期間に大きな差はなくなります。
逆に、木の中で花芽の位置の違いなどによって休眠が打破される日と、そこからの成長のスピードが大きく違う場合は、開花から満開までが長くなります」(伊藤先生)
どうしてそのような違いが生まれるのでしょうか?
「気温による影響が大きいです。特に『休眠が打破される日』は微妙な気温の違いによって変わってきます。
たとえば、温度の低い0℃以上9℃以下なら休眠打破される温度差に影響はありませんが、9℃と10℃の差は、休眠打破の日時に違いを生み出します。
つまり、冬の気温が高い日が多くなると、1本の木の中でも花芽の個体差による成長の違いが大きくなり、開花後にダラダラ咲く原因となります。そういう桜の木は、早く咲いた花が散り、遅く咲いた花が残るので、全体が一斉に咲きそろうような『通常の咲き方』が見られなくなってしまいます」(伊藤先生)
こうした“ダラダラ咲き”は温暖な地域ほど顕著だと言います。
「北日本では、開花から満開までの期間が短く、各年で大きな変化は見られません。これは温暖化が進んでいても、冬に10℃を超えることは多くなく、常に十分に気温が低いので、1本の木の中で花芽の位置によらず、どれもほぼ同じ時期に休眠打破が起こるからです。したがって花もほぼ一斉に咲くのです。
一方で近年の暖かい地域では、平年でさえ休眠打破がうまく進むかどうか“ギリギリ”の高い気温になっています。つまり、1本の木の中でも花芽によって休眠打破の日がかなり異なることが起こりうるということです。
花芽の個体差によって休眠打破の日が違うと、その後の成長のスピードが同じでも開花の日が異なってくるということになり、花はバラバラと咲き、開花から満開までの期間が長くなるのです」(伊藤先生)
“ダラダラ咲き”が顕著な鹿児島、50年でどれくらい変わった?
こうした暖地での“ダラダラ咲き”は、地球温暖化が進んだことで、近年さらに顕著な傾向が見られます。
以下のグラフは、“ダラダラ咲き”がもっとも顕著な地域の一つである鹿児島と、福島のここ50年の開花から満開までの傾向をまとめたものです。

1976年の開花から満開までの日数は、鹿児島が7日間で福島が3日間と、大きな違いは見られませんでした。ところが1990年代に入ると、鹿児島が7〜12日間と長くなったのに対して、福島は一部を除くと今年に至るまでおおむね4日間以下で推移しています。
近年の鹿児島はさらに長くなる傾向で、2020年の18日間を最長として、開花から満開まで10日間以上という“ダラダラ咲き”が、もはや定番といえる状態になってしまいました。

「鹿児島のここ50年間の1〜3月の平均気温の推移は、多少の年変異こそあるものの、明らかな上昇傾向が見て取れます。気温の上昇が休眠打破の危機的な状況を招いていると言えるでしょう」(伊藤先生)

「福島も同じように気温が上昇していますが“ダラダラ咲き”の傾向が見られないのは、温暖化してもまだ休眠打破に十分な寒さがあるためと考えられます」(伊藤先生)
このまま温暖化が進めば桜が開花しない、満開にならない可能性も
伊藤先生は九州大学大学院教授(気象学)だった16年前、地球温暖化が進むと桜の開花日がどう変化するのか、ある温暖化シナリオのもとで、「2100年の桜開花状況」をコンピュータ上で再現しています。

※2082〜2100年の平均(九州大学地球惑星科学科の資料をもとに作成)
「2082〜2100年の19年間の平均した開花予想日が、1982〜2000年の平均とどれだけ変化するかをシミュレーションしました。それによると、東北地方で開花が今より2〜3週間早まる一方、九州など温暖な地域は逆に1〜2週間遅くなりました。つまり、4月になると南東北から九州北部がいっせいに開花することになるのです。
開花日が変動するだけでなく、サクラが開花しない、開花してもダラダラと咲いて満開にならない地域も確認できました。具体的には鹿児島県西部や種子島では全く開花せず、九州南部、四国南西部、長崎県や静岡県の一部は開花しても満開にならないという結果でした。
2100年を想定したシミュレーション結果ですが、この傾向は近年すでに顕著に現れ始めています。それほど急速に地球温暖化が進んでいるということです。桜の開花が『過去この頃だったから、今年の予想ではこの日になる』などという経験則は、温暖化が進めばまったく通用しなくなります。
温暖化は桜だけでなく、人間にも厳しい環境を与えます。これまでにはない暑さや豪雨が起きて、すでに大きな被害をもたらしています。そのような事態を防ぐためにも、何としても温暖化を抑える必要があります」(伊藤先生)
ウェザーニュースでは、気象情報会社の立場から地球温暖化対策に取り組むとともに、さまざまな情報をわかりやすく解説し、皆さんと一緒に地球の未来を考えていきます。
写真:ウェザーリポート(ウェザーニュースアプリからの投稿)