フランス人はなぜ「傘をささない」のか。日本では当たり前の「ワンコイン傘」「傘ぽん」が普及しない理由
2025年4月29日(火)20時55分 All About
フランスの人々は、雨が降ってもあまり傘をさしません。バッグの中に折り畳み傘を忍ばせることもなく、ぬれたまま歩く人がほとんどです。なぜそのような行動をとるのか、在住者の視点から考察してみました!(写真は筆者撮影)
フランス在住の筆者も、現地で雨が降るたびにそのような光景を目にしています。逆に今ではフランス人のように、傘をささない習慣がすっかり身についてしまいました。周囲のフランス人に質問してみても、「傘は普段から持たない」と、ほぼ全員から同じ答えが返ってきます。
では、どうして彼らは傘をささないのでしょうか。服や髪の毛がぬれることに抵抗はないのでしょうか。その理由を徹底的にリサーチしてみました。
とにかく面倒。日本のようにワンコインで変えず、盗難が多い
フランス人の「傘嫌い」は、老若男女を問わず、どの世代でも共通しています。朝からザーザー降りの日は別として、「夕方から雨の天気予報が出ているから、折り畳み傘を持っていこう」といった準備をする人は、日本人に比べてかなり少ないかもしれません。何人かに「なぜ傘を持たないのか?」と聞いてみたところ、一番多かった答えが「面倒だから」でした。フランス、特にパリの天気予報は外れることが多く、「傘を持って行ったのに結局雨が降らなかった」という経験がよくあるそう。だったら、重くてかさばる傘をわざわざ持ち歩くのはやめよう、となるわけです。ちなみにフランスの折り畳み傘は、日本のコンパクトな傘に比べてやや重い傾向にあります。
さらに理由を探ってみると、「傘をよく盗まれるから」という意見もありました。傘の盗難は珍しいことではないものの、フランスでは残念ながら頻繁に起きることです。日本のようにワンコインで買える傘もないので、毎回盗まれては痛い出費になってしまいます。つまり、フランスの人々はちょっと雨にぬれるくらいなら全然OK。傘を持ち歩いたり盗まれたりする“煩わしさ”を避けるために、あえてぬれるという潔い選択をしているのです。
必ず持っている物は「傘」ではなく「レインウェア」
雨の強さによって傘をさすかどうかを決めるフランス人ですが、中には土砂降りでも傘をささない“強者”が存在しています。「傘嫌い」の1人である、筆者の知り合いの答えは、「フードをかぶるから大丈夫(?)」というものでした。なんでも彼は、人生で1度も傘を持ったことがないそうです。代わりに着用するのは「レインウェア」で、これに付いたフードを傘代わりにしてきたのだとか。話を聞けば、彼の両親や兄弟もフードで雨をしのいでいたとのことです。
こうしたフランス人は意外と多く、傘よりも、レインウェアを必ず持っている人の方がメジャーな印象です。筆者としても、雨が降ったきた際に「傘はないの?」ではなく「フード付いてないの?」と聞かれた経験がありました。
実際、デパートやショッピングセンターでは、傘よりもフード付きプルオーバー、レインウェアの方がラインアップは豊富です。フランスでは傘のバリエーションが少ないと感じていた筆者ですが、そもそも傘への需要自体が少ないのだと今では納得しています。
フランスの店では「傘立て」を見かけない
傘を携帯する習慣が、日本ほど一般的ではないフランス。そうなると、傘に関係するアイテムも自然と少なくなります。例えば、日本でよく見かける「傘立て」。フランスでは、雨や雪が降ったとき、あるいは降りそうなときでも、店舗の前に傘立てが置かれることがほとんどありません。一般家庭や一部の店舗では置くこともありますが、それでも日本よりは極端に少ないイメージ。「傘ぽん」のような便利アイテムは、やはり日本ならではの細やかな気配りの賜物だと感じます。ちなみに近年、フランスの一部の美術館で「傘ぽん」が設置され、話題になっているようです。
というわけで、フランスでは雨の日になると店舗の床がびしょぬれになります。電車の中でも、「人に迷惑がかかるから折りたたみ傘を畳もう」といった配慮をする人があまりいないような……。傘をさす人が少ないことに加え、びしょぬれでも平気なフランスらしさを強く感じた瞬間でした。
「すぐ乾くから大丈夫」は子どもの頃からの習慣
しかし、フランスの乾燥した気候は、「雨にぬれてもすぐ乾くから大丈夫」というフランス人の言い分を、理屈だけでなく実感としても納得させてくれました。傘をささずにぬれたまま帰宅しても、室内の空気がさらに乾燥しているため、服がすぐに乾いてしまうのです。この乾燥した気候も、「傘要らず」の一因になっているのでしょう。大人になってから渡仏した筆者でさえ傘を持たなくなるのですから、子どもの頃から「傘を持っていきなさい」ではなく「フードを被りなさい」と教えられて育ったフランス人にとっては、傘を持たないことの方が自然だと言えます。
そのため傘は「必需品」ではなく、「あっても良いもの」の1つ。こうした感覚は、傘立てが少ないことや、電車内で折りたたみ傘をしまう習慣がないといった、日常生活における価値観の違いにも表れているように感じています。
この記事の筆者:大内 聖子 プロフィール
フランス在住のライター。日本で約10年間美容業界に携わり、インポートランジェリーブティックのバイヤーへ転身。パリ・コレクションへの出張を繰り返し、2018年5月にフランスへ移住。2019年からはフランス語、英語を生かした取材記事を多く手掛け、「パケトラ」「ELEMINIST」「キレイノート」など複数メディアで執筆を行う。
(文:大内 聖子)