大阪市長が「ばかばかしい『反万博ビジネス』」と…SNS時代で可視化された大阪・関西万博の「狙いやからくり」とは
2025年4月29日(火)7時0分 文春オンライン
大阪・関西万博が開幕して2週間が過ぎた。X(旧ツイッター)ではどう伝えられているのか? 朝日新聞が万博開幕から1週間のXを分析したところ、ポジティブな投稿は17.1%、ネガティブな投稿は53.4%だったという(残りは中立)。

具体的な内容は、「入場に関する不満やパビリオン予約の要不要などの実用的な情報が拡散された。開催への批判や安全面での懸念が根強い現状も浮かび上がった」とある。
驚いた大阪市長のポスト
分析結果について万博協会の副事務総長は「運営改善の指摘はあるが、ポジティブな発信が増えてきている。『行って楽しかった』という投稿が伸びていくよう、やるべきことをやっていきたい」。
そう、運営側はポジティブ発信が増えるように日々改善していけばいい。一方で税金が投入される巨大イベントなのだから課題の指摘や論評とも向き合うのは当然だ。しかし、大阪市長の次のポストには驚いた。
横山 英幸 (大阪市長)
〈ネガキャン対策も進めますが、ごく一部のばかばかしい「反万博ビジネス」「反対ありき」の政治家や一部メディアの声は必要以上に相手にしなくていいとも思ってます。
楽しみ頂いてる方々、来場頂いた方々や関係者は皆、前向きです。
ここまでの課題や不安のお声を解消するため全力で取り組みます。〉
午前9:03 ・ 2025年4月17日
市長のいう「反万博ビジネス」ってなんだろう? 会場の夢洲では万博後にカジノ開業が控えている(IR)。そう考えると「反万博ビジネス」とはオンラインカジノのことだろうか。たしかに商売敵に思える。
しかし文脈からすると「反万博ビジネス」はどうやら万博の問題や課題を指摘する人やメディアを指すらしい。この考え方は凄い。近年、批判や批評を「悪口」と言って話をすり替える手法があるが、さらにパワーアップして批判や指摘を「ビジネス」と言い始めたのである。万博運営側の態度で問われているのはこういうところなんだと思う。そういえばしんぶん赤旗への取材拒否発覚もあった。
「不安を煽る投稿が相次いだ」
念のために書いておくとSNSには悪意だけとか不正確な投稿もある。次の記事を見てほしい。
『大屋根リング「ゆがんでいる」…万博めぐりSNSでデマや不正確な情報、実際は梁も斜めになるよう設計』(読売新聞オンライン)
大屋根リングの木材の梁(はり)がゆがんでいるという、不安を煽る投稿が相次いだ。しかし設計どおりなのだ。夢洲は埋め立て地のため沈下しないよう地盤を固めているが、それでも沈下した場合に建物に影響が出ないように設計していた。
ただ、この記事の読みどころは最後だった。ソーシャルメディア論の教授が「注目度が高いイベントにもかかわらず、万博協会側の公式な発信が少ないことが、真偽が定かでない情報の拡散につながっている」と指摘しているのだ。
特に安全性にかかわる話は不信感にもつながるので「協会にはより丁寧な説明が求められる」と。実は冒頭で紹介した朝日のX分析記事でも「来場者に必要な情報提供が不十分だ」と識者が述べていた。不安や不満の反応が多いのは運営側にも問題があるのではというわけだ。
万博協会の情報公開が問われたのは今に始まったことではない。昨年3月に夢洲では工事中にメタンガスの爆発事故が起きた。その際も情報公開の少なさが問われていた。それなのに指摘や批判を「反万博ビジネス」と言ってしまうのは驚くべき態度だ。
そもそも入場や交通アクセスの不満、メタンガスの不安、防災と安全対策などが問われているのは「夢洲」が埋め立てられた人工島という点に帰結する。当初、府の候補地案は6か所あったが夢洲は入っていなかった。万博誘致を担った松井一郎・前大阪知事は開幕2か月前のインタビューで次のように語っている(読売新聞)。
「ベイエリアの発展は、大阪の成長には絶対に必要だ。だから夢洲を入れるよう、菅さんにお願いした」。菅さんとは当時の菅義偉官房長官のこと。ただ、万博は半年間の開催だからそれだけでは不十分だと思い、だから(カジノを含む)IRだ。(略)そうしないと夢洲の価値は上げられない」
カジノが密接に関係していた。湾岸開発を時系列でおさらいすると昭和末に策定されたテクノポート大阪計画があった。
その中には五輪招致もあり、大阪は2008年の招致に動いた。しかしIOC総会で北京に惨敗。そして今度はカジノ誘致構想だ。カジノ開業が遅れて万博が先になったが「万博とIRをテコに、湾岸開発を一気に前進させるという、地域政党・大阪維新の会の方針が背景にあった」(朝日新聞)のである。
狙いやからくりが可視化されるSNS時代
松井前知事は万博の成功条件を問われて「巨額の経済効果があると試算されている」ことを挙げている。万博の成功を経済効果としてしまったらどうなるか? 最近のニュースだと「来場者数」のカウントだ。23日に100万人を突破したが、読売新聞はやや皮肉っぽく伝えた。
『大阪・関西万博の来場者100万人…うち16万人超はスタッフや報道機関・万博協会職員ら』(4月23日)
万博協会は、来場者数にAD証(関係者パス)で入場した関係者を含めて発表していると書く。最後の一文はこれだ。
「読売新聞は、AD証入場者を差し引いた一般来場者数を記事にしている」
どこか呆れてないか? もしくは「万博協会に言われるまま報道しているメディアもあるんですけどね」という皮肉にも読める。
関係者数を入れてまで発表するのは万博の成功を「巨額の経済効果」としてしまった以上、流行っている感を必要以上に出していくしかないのか? でも、そんな狙いやからくりが可視化されるのもSNS時代の特徴だ。「関係者数を入れた来場者数」と「実際の観客数」が並行して報道される奇妙な現象は今後も続くのだろう。
さて、万博が開幕したら「始まったのだから悪く言うな」「批判はやめよう」的な言説もSNSでよく見る。さらにこのあとは次の“機運醸成“も待ち受けているはずだ。
「メガイベントというのは(略)どんな形であれ、終わってしまえば、なんとなく「やってよかった」という空気ができ、それに乗じて関係者は「大成功だった(私の手柄だ)」と言い募る」(『大阪・関西万博「失敗」の本質』ちくま新書)
東京五輪もそうだった。「成功」の基準がないからいくらでも恣意的に語られてしまう。そうなる前にプロセスに対しての批評や考察があって当然だろう。それを「反万博ビジネス」と呼ぶなら、本来の「万博ビジネス」に焦りが出ている証拠ではないだろうか。
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(プチ鹿島)