過去に直視を避けてきた現実 欧州リベラリズムの末期症状

5月12日(日)6時0分 ダイヤモンドオンライン


 現在、安倍晋三首相の主導により「出入国管理法(出入国管理及び難民認定法)」の改正が進む。外国人が就労する際の新たな在留資格に「特定技能」というカテゴリーが追加される。今後5年間で、最大34万人を受け入れるという。


 この法案の中身や是非については、日本のメディアではあまり話題にならなかったが、急激な移民の受け入れを進める政策は、日本社会にどのような変化をもたらすのか。そのような疑問に、一つの悲劇的なシナリオを示してくれるのが、今回紹介する本書だ。


 著者は、英国の保守系政治雑誌である「ザ・スペクテーター」誌の若い記者兼編集者であり、原著は世界各国でベストセラーになっている。本書の特色は3点ある。


 まず一つ目が、欧州大陸全域で極端な移民受け入れ政策を進めるリベラル派の政治家や知識人たちの「闇」が手に取るように分かることである。本書には、「多文化主義」を掲げたドイツのメルケル首相や、大量の移民を受け入れた英国のブレア元首相など、その実例が次々に出てくる。欧州には「地獄への道には善意が敷き詰められている」という格言があるが、欧州の人々のあまり深く考えない「善意」によって、いかに現実が歪(ゆが)められているかを痛感する。


 二つ目は、欧州人が抱える罪悪感を率直に描いた点だ。中国からの大量移民により、政治が影響を受けていることを告発した『サイレント・インベイジョン』という本が豪州(オーストラリア)で爆発的に売れた。著者のクライヴ・ハミルトンは、豪州人は「人種差別主義」と呼ばれることを極端に嫌う傾向があると指摘する。彼はこれを「外国人嫌い恐怖症(ゼノフォビア・フォビア)」とうまく名付けている。


 それは、本書に出てくる多くの欧州の知識人たちが持つ帝国主義の遺産による罪悪感と、その過剰にリベラルな行動に表れている。


 三つ目は、あらためて「人間の本質とは何なのか」という哲学的な問題を考えざるを得ないところである。例えば、前半に出てくる地中海で遭難する難民たちへの長期的対策を考えない「その場しのぎ」の対応や、テロリズムの歴史を操作することにより正当化してしまうプロセス、さらに克服したはずの反ユダヤ主義がイスラム系移民によって復活する話などを読むと、やはり人間とは「不完全な存在」であることを確信する。


 そのセンセーショナルな書名や内容から、欧州の多くの知識人と同じように、本書の議論から目を背けようとする読者も一定数はいるだろう。ただし、評論家の中野剛志氏の解説にある警告とともに、今の日本でこそ、私たちが読んで考えるべき価値のある本だ。


(選・評/IGIJ(国際地政学研究所)上席研究員 奥山真司)

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