「中国系の犯罪グループが…」相次ぐ“証券口座乗っ取り、総額は950億円? 証券各社が繰り出した「責任逃れ」に不満が噴出
2025年5月13日(火)8時0分 文春オンライン
ネット上の証券口座が乗っ取られ、勝手に売買される被害が相次ぎ、5月2日、大手証券会社10社は一部を補償する方針を明らかにした。金融庁によれば、今年2月から4月中旬までに1400件を超える不正な取引が確認され、950億円が売買に費やされたという。
全国紙社会部記者が解説する。
「乗っ取った後に犯人の口座に現金を送金できる銀行口座と違い、証券口座は乗っ取るだけで簡単に利益を得ることはできません。警察当局は海外もからんだ組織犯罪との見方を強めています」

「聞いたこともない中国株が大量に買われており、中国系の犯罪グループが…」
乗っ取られた口座の典型的な取引はこうだ。
まず、ネット証券口座のIDやパスワードが何らかの方法で盗み取られ、不正ログインの末、乗っ取られる。こうして乗っ取られた複数の口座から、あまり人気のない株が一斉に大量に買われる。
「このような手口から、安値の株を短期間に大量に買わせて値上がりさせる株価操縦に使われた疑いが濃くなっています。犯罪グループは、対象の株をあらかじめ安値で買っており、乗っ取り口座が大量に買い注文を入れて株が高値になったところで売却しているのでしょう。聞いたこともない中国株が大量に買われており、中国系の犯罪グループが関与している可能性があります」(同前)
事態を受けて証券会社が中国株の売買に制限をかけた後には、やはり一般取引の少ない日本株が大量に買われるなどしており、証券会社の対策をかいくぐって引き続き相場操縦に使われている疑いがあるという。
「証券業界はネットのセキュリティ対策が甘すぎるのではないか」
「資産運用立国」を掲げ、個人の貯蓄を投資に振り向けようとしてきた政府の金融政策に冷や水を浴びせる状況に、金融庁は神経をとがらせているようだ。
金融関係者が続ける。
「問題なのは証券会社のセキュリティ対策。今回の被害では個別株をほとんど売買していない口座からも中国株が買われており、きちんと対策をしていれば防げた取引が多すぎる。取引をすぐ凍結する銀行と違い、証券業界はネットのセキュリティ対策が甘すぎるのではないか」
顧客側からは犯罪グループだけでなく、証券会社に対する不満が噴出している。
「一部の証券会社は事態発覚後に規約を改定し、『顧客の責任でパスワードなどが漏洩した場合』は証券会社が『責任を負わない』とする条項を追加した。セキュリティ対策の強化より責任逃れを先行させた形です。顧客だけでなく、金融庁も相当いらだっており、金融庁の圧力も今回の一部補償方針に反映されたのではないか」(同前)
金融庁は「顧客本位」の業務運営を証券各社に求めてきたが、その実態は「自分本位」だったようだ。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年5月15日号)