知らぬ間に忍び寄る難聴、気づいた時はもう遅い

5月13日(月)6時0分 JBpress

東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科の山岨達也教授(経歴:1983年東京大学医学部医学科卒業。竹田綜合病院、日立総合病院にて研修。亀田総合病院耳鼻科部長を経て1993年に東京大学耳鼻咽喉科講師、1999年に助教授。この間1996年2月~98年5月米ミシガン大学Kresge聴覚研究所に留学。2007年4月教授。2017年医学部副学部長。

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スマートフォンを使って音楽を聴く女性(2013年3月7日撮影、資料写真)。(c)JONATHAN NACKSTRAND / AFP 〔AFPBB News〕

 年末年始などに久しぶりに帰郷してみたら、年老いた両親がどうも耳が遠くなり、テレビを観るボリュームも大きくなっていた——。

 そんな方も多いのではないだろうか。歳だから仕方ないとはいえ、明日は我が身と思うと他人事ではない。

 目が悪くなればメガネで何とかなるけれど、補聴器というのは・・・いや、まだ早いだろう。

 さりとて難聴はなかなか治らないとも聞く。最近では、イヤホンで音楽をずっと聴く若者たちのいわゆる「イヤホン難聴」も深刻だという。

 多くの方がいずれは見舞われるだろう耳の問題。今から打てる手立てはないのだろうか。

 東京大学大学院医学系研究科耳鼻咽喉科の山岨(そば)達也教授(医学部副学部長)にお話をうかがった。(聞き手:川嶋諭、編集:松浦由紀子)


難聴の仕組みと種類

川嶋 人生100年時代と言われる中、耳をケアしておかないと、豊かな老後が送れないのではないかと心配になってきます。

 若者たちが「イヤホン難聴」になるリスクも深刻で、一度失った聴力は、なかなか回復しないと聞きます。

 まず、なぜ歳を取ると耳が遠くなるのか、どうして聴力は回復しないのか、難聴の仕組みから分かりやすく教えていただけませんか。

山岨教授 では、最初に音が伝わる仕組みから説明しましょう。

 音というのは物理的なエネルギー、つまり振動で、音波として耳に到達します。音波で鼓膜が振動し、さらに鼓膜の中にある耳小骨が振動することで、音を内耳の神経組織に伝えます。

 内耳では感覚上皮という板のようなものの上に有毛細胞という神経細胞が並んでいて、音の振動が伝わって神経が興奮していきます。

山岨教授 周りから細胞内にカリウムイオンが入ってきて、細胞の膜の電位が変わる。

 これを「脱分極」と言いますが、それによって有毛細胞の下から神経伝達物質が放出されます。

 その神経の興奮が脳内を通り最終的に大脳に到達し、音として感じることになります。

 人が「これは音だ」と感じるまでには、こういう経路をたどりますから、どこかで障害が生じると、難聴になるわけです。

川嶋 とすると、難聴の原因や種類はたくさんあるわけですね。

山岨教授 大きく分ければ2つです。1つは音が伝わっていく過程の伝音機構に障害が生じたために聞こえにくくなる難聴です。

 例えば耳の穴が耳垢でふさがってしまって音が伝わらなくても難聴になりますし、鼓膜が破れても難聴になります。

 中耳炎で膿がたまっても、音が伝わりにくくなるので、やはり難聴になります。

 しかし、耳垢による難聴は耳垢を取れば治りますし、鼓膜破れによる難聴は鼓膜の破れたところを閉じれば元に戻ります。

 治療できる場合が多いのが、「伝音難聴」です。

 もう1つは、伝わった振動が聞こえの細胞(有毛細胞)を刺激し、その興奮が聴覚神経を伝わり大脳で音として認識されるまでの過程で障害が生じたために音が聞こえにくくなる難聴です。

山岨教授 こちらを「感音難聴」と言いますが、感音難聴の原因の多くが内耳の障害です。一番多いのは感覚細胞の障害で、特に有毛細胞はとても繊細なので、大きな音などで壊れやすい。

 歳を取ると、有毛細胞がダメージを受けてその数が減ったり、聴毛が抜け落ちたりしますので、音を感知しづらくなったり、音の情報をうまく脳に送れなくなったりします。

 歳を取ると耳が遠くなる現象は、感音難聴に分類されます。

 それから、世間でよく知られている感音難聴の事例が、突発性難聴です。同じ感音難聴でも、こうした突発性難聴のように急性のものであれば、治療法がありますが、問題は、徐々に聞こえにくくなっていく方の難聴です。

 例えるなら、ろうそくがズラッと並んでいて、ぽつぽつと消えていき、ふと気づいたら暗くなっていた、という感じです。

 火をつけ直したらいいのだけど、それができない。つまり治療法がないのです。

川嶋 徐々に聞こえにくくなっていくと自覚しにくいかと思いますが、どのような時に難聴を疑うべきでしょうか。

山岨教授 まず、小さな音が聞こえにくくなるのが最初の症状です。大きな音は難聴の人にも聞こえます。

 これをダイナミックレンジと言いますが、難聴の人はこの範囲が狭く、いったん聞こえ始めると一気に大きな音まで聞こえてしまうため、音が割れたり、響いたりします。

 ですから、難聴の人に向かって大きな声で話したらいいかと言うと、実はそうではありません。

 大きな声で話されても何を言っているのか分からないという症状が出ます。これが内耳障害の特徴です。

川嶋 音は聞こえるけど、聞き分けにくいということですか。

山岨教授 一つひとつの周波数を聞き分ける曲線があるとすると、神経がなまってくると曲線がなめらかになり、隣の音との聞き分けが難しくなります。

 例えば、「ブー」という言葉と「プー」という言葉は、口の形がほぼ同じで「b」と「p」の発音の前のほんのわずかなズレで人は音を聞き分けています。

 この「ブー」と「プー」の音をコンピューターで少しずつ変えた音を作りながら検査すると、若い人はほぼ完璧に聞き分けますが、難聴のお年寄りは「ブー」と「プー」のどっちにも聞こえる部分が出てきます。

 難聴のお年寄りは、小さな音が聞こえないだけでなく、聞いた言葉の明瞭度、似た音の聞き分けが悪くなっているというわけです。

 「ひち」「しち」「いち」「ちち」など、会話の中なら文脈で推測できても、単独で言葉を聞くと間違えてしまいます。

 「じゃあ、明日7時に」と約束したのに、1時に来てしまう、などということが、よくあります。

川嶋 では、耳は鍛えられないのでしょうか。

山岨教授 耳は脳と一緒で細胞が増えないので、回復しません。とにかく、細胞を傷めないようにするしかないのです。

 徐々に聞こえにくくなっていく難聴で一番多いのが加齢性難聴と遺伝性難聴で、皆さんがなるのは、圧倒的に加齢性難聴です。

 加齢性難聴の原因の半分弱が遺伝性によると言われていますが、言い換えれると半分以上は環境要因によるということです。

 だから、難聴になりやすい生活を避けることが大事になります。

(つづく)

 次回はどうすれば難聴が予防できるのかについてお伝えする。

筆者:川嶋 諭

JBpress

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