「最強のロビー団体」民放連が迷走させる放送改革

5月18日(金)6時8分 JBpress

民放連が電波の問題を恐れ、新聞も取り上げないのはなぜか?(写真はイメージ)

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 6月に出る予定の通信・放送改革についての規制改革推進会議の答申について、いろいろな話が飛び交っている。当初は「電波をオークションで割り当てる」という話が出て、民放連(日本民間放送連盟)の会長が記者会見で反対を表明したが、これは民放とは無関係な問題だ。

 次に出てきたのが、「放送局に政治的公平を義務づける放送法4条の規制を撤廃する」という奇妙な話だ。これにも民放連が反対したが、4月の論点整理で規制改革推進会議の大田弘子議長は「議論はまったくしていない」と否定した。中身が分からないまま政治がらみで迷走する改革は、どこへ行くのだろうか。


安倍首相も民放連も誤解している

 電波の問題は最初から政治がらみだった。安倍首相が電波に手をつけたのは、民放の番組でスキャンダルが連日報道される状況を牽制しようとしたものと思われるが、今まで打ち出された規制緩和は、地上波テレビ局にはほとんど関係ない。

 最初に出てきたのは電波オークションと電波利用料だった。オークションはやるべきだが、既存のテレビ局の電波をオークションにかけることはできない。電波利用料はオークションをやらない代わりに徴収しているもので、これを上げても電波の有効利用には役立たない。

 そのあと出てきたのが、放送内容を規制する番組編集準則(放送法4条)を緩和する話だが、これは訓示規定で、実際に放送法を根拠にして電波が止められたケースはない。それを撤廃すると「自民党放送局」や「共産党放送局」をつくれるようになるが、地上波でそんな放送局をつくることは不可能だ。

 安倍首相も民放連も「政治的公平の規制をなくしたら地上波にネット放送が入ってくる」と誤解しているようだが、ニコニコ生放送やAbemaTVなどのネット放送が地上波の放送免許を取ることは不可能だし、その必要もない。

 いま現に放送できているのだから、各県に中継局をつくる必要はない。企業買収も、ライブドアや楽天の事件で分かるように不可能だ。これから放送ビジネスをやるなら、中継器1本で全国に放送できる通信衛星だろうが、地上波局の既得権を脅かすものではない。


政治部記者というロビイスト

 要するに安倍政権の放送改革は、よくも悪くも民放には影響がないのだ。ところが読売新聞は1面から3面までつぶして「放送法4条の改正反対」のキャンペーンを張り、朝日や毎日もこの点は歩調を合わせた。これは民放が新聞社と系列化されているからだ。

 民放の事業規模(年間売り上げ)は、全国の地上波局をすべて合計しても2兆6000億円。NTTグループ(11兆8000億円)の2割程度にすぎない。ところが地デジのネット配信のような通信・放送の利害が対立する問題では、常に放送が勝つ。

 産業としては小さい民放の政治力が強いのは、政治部記者という最強のロビイストを雇っているからだ。彼らは夜回りと称して政治家の自宅に上がり込み、本音ベースで取引できる。これに対して通信業者の渉外担当は役所に「ご説明」するだけで、政治家にはあまり影響力がない。

 また民放は、政治家の地元に対する「宣伝塔」になっている。民放は田中角栄が郵政相だったとき大量に免許がおり、政治家とのつながりが強い。田中角栄は、最盛期には新潟県で30分のテレビ番組を週2本もっていた。今でも地方に行くと、自民党の政治家がレギュラー出演するローカル番組がある。

 民放は自民党の集票基盤の一部で、彼らの電波利権を守る「族議員」がいるため、大きな影響力をもっているのだ。これはかつて農協が自民党の後援会を仕切ったのと似ているが、衰退産業である点も同じだ。安倍政権は農協に距離を置いたように、民放連とも距離を置き始めているのだろう。

 これは政治的には正解である。欧米でもテレビ局の政治力は衰え、グーグルやフェイスブックなどのネット事業者の政治力が強まっている。安倍首相も、楽天やサイバーエージェントなどのネット事業者に軸足を移している。


UHF帯を「区画整理」して5Gに

 民放連が電波の問題を恐れ、新聞もこれを取り上げないのは、UHF帯の電波が余っているためだ。私も規制改革推進会議で説明したが、テレビ局に割り当てられているUHF帯の470〜710メガヘルツ(テレビ40チャンネル)のうち、実際に使われているのは各エリアで最大8チャンネルで、残り32チャンネルが空いている。

 この「ホワイトスペース」を区画整理すれば、約200メガヘルツ空けることができる。民放連は電波が空くとテレビ局が入ってくると思っているようだが、前にも書いたようにこれは誤りである。UHF帯を整理して入ってくるのはネット事業者なのだ。

 アメリカで2017年に600メガヘルツ帯の割り当てを受けた通信事業者Tモバイルは、この帯域で5G(第5世代移動通信システム)を導入する予定だ。EU議会も2017年6月に、700メガヘルツ帯を2020年までに5Gに割り当てる方針を決めた。

 日本では、5Gは3.7ギガヘルツ帯や4.5ギガヘルツ帯などに割り当てられる予定だが、こういう高い周波数は直進性が強く減衰が大きいため、数百メートルしか届かず、携帯電話のような公衆無線には使えない。実証実験が行われているのも、センサーなどの業務用無線だ。

 これに対してUHF帯は、いま携帯電話に使われており、200メガヘルツあれば、携帯電話の帯域は倍増する。5Gなら、今の数十倍のユーザーが収容できる。自動運転などの移動端末には、こっちのほうが向いている。

 電波の再編は、欧米ではテレビの中継局と受像機のチャンネルをすべて変更しないといけないため、政治的に困難だが、日本の地デジではSFN(単一周波数ネットワーク)という技術で、同一エリア内は一波で放送できる。チャンネルはスイッチ一つで変更できる。

 これは南米では(日本メーカーのライセンスで)現に使われており、日本でも規制改革推進会議での総務省の説明によれば、神奈川県では97%がSFNだという。それならあと3%を整理するだけで、既存のテレビ局が立ち退く必要はない。むしろ新たに空いた電波で民放がネット放送をやってもいいのだ。

 こういう技術的な問題は民放連の経営者には分からないので、彼らはロビー活動で電波の区画整理をつぶそうとするだろう。それを説得するには「立ち退き料」を払ってもいいし、ホワイトスペースの一部を優先的に使う権利を与えてもいい。

 UHF帯ホワイトスペースの価値は、ざっと時価2兆円。これを効率的に配分できれば、民放連の既得権なんか大した問題ではない。これを区画整理して5Gに割り当てれば、日本の通信が世界のトップになる可能性もある。

筆者:池田 信夫

JBpress

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