夫と神社で…斎藤元彦氏と刑事告発されたメルチュ折田楓社長(33)、週刊文春が捉えていた“騒動後の姿”《兵庫・公選法違反問題の当事者》
2025年5月23日(金)12時0分 文春オンライン
〈 「…あの人誰?」斎藤元彦知事(47)がメルチュ折田楓社長(33)に怪訝な顔でもらした“一言”《兵庫県・公選法違反問題》 〉から続く
兵庫県・斎藤元彦知事(47)らの7項目にわたる疑惑を、西播磨県民局長の男性が告発し、その後死亡した問題。「週刊文春」取材班が、全取材メモと未公開の物証を紐解き、斎藤知事の“正体”に迫った連載『冷血の知事』より、第1回を特別に全文公開する。
昨年11月の兵庫県知事選を巡っては、再選した斎藤知事とPR会社「merchuメルチュ」の折田楓社長(33)が公職選挙法違反(買収、被買収)の容疑で刑事告発された。事態が表面化して以降、雲隠れを続けてきた折田氏だが——。(全2回の2回目/ はじめから読む )

(初出:「週刊文春」2025年2月27日号。年齢、肩書は当時のまま。)
◇◇◇
斎藤元彦と折田楓。2人を急接近させたのは、共通の知人で、事実上の選対本部長として動いていた鈴木裕(仮名)とされる。神戸市の元町商店街にある老舗靴店の四代目で、斎藤の後援会事務所が入る物件のオーナーだ。斎藤が大阪府財政課長だった頃からの付き合いで、初当選した21年の知事選でも選挙運動を手伝っていたという。今回の選挙では陣営の広報担当者とされており、事務局長を自称していた。
折田は、投開票日3日後の昨年11月20日、問題のnoteでこう振り返っている(のちに一部修正)。
〈とある日、株式会社merchuのオフィスに現れたのは、斎藤元彦さん。/それが全ての始まりでした。(略)兵庫県庁での複数の会議に広報PRの有識者として出席しているため、元々斎藤さんとは面識がありましたが、まさか本当に弊社オフィスにお越しくださるとは思っていなかったので、とても嬉しかったです〉
さらに、キャッチコピー考案やメインビジュアル作成についても詳しく綴られていた。
〈コピーは、以前の「躍動する兵庫」から「兵庫の躍動を止めない!」へ。/カラーは、兵庫県旗の色を意識した「兵庫ブルー」をベースとした斎藤さんオリジナルの「さいとうブルー」に一新しました〉
メルチュに「SNS監修」の依頼
noteには、斎藤が西宮市内にあるメルチュの会議室まで出向き、折田らと打ち合わせをしている写真が掲載されている。2人を結び付けた鈴木の姿もまた、この写真に写っていた。
小誌は、その鈴木が、選挙前に斎藤を支援しようと名乗り出た神戸市議に対し、断りの連絡を入れた時のLINEを入手している。
〈昨日の会議内容 Sns監修はメルチュさんにお願いする形になりました〉
このLINEの送信日は、出直し知事選が決まった直後の昨年10月6日。つまり、この日までに、メルチュに「SNS監修」の依頼が行われていたことを裏付ける内容だ。メルチュが選挙運動に深く関与していた疑いを示す重要証拠と言える。
全身全霊で向き合っていた
それだけではない。本件を重く見る有志が、SNS解析や情報公開請求などを駆使し、証拠を総括的にまとめた報告書を捜査当局に提供している。4万字近いその文書は、公約スライドやログイン権限、請求書の記述などを精査したうえで、次のように結論づけていた。
〈折田氏は「特定の団体・個人やものを支援する意図」(折田氏note)はない、つまり業として選挙に従事してきたことを明確にしながらも、淡々と機械的労務を消化するのではなく、選挙運動に「全身全霊で向き合って」(同上)いた〉
折田のnoteや、鈴木が送ったLINE——様々な痕跡からは、メルチュが主体的・裁量的に選挙運動の企画立案を行っていた疑いが強いことが窺えるのだ。
「全く事実ではない。」
では、斎藤の主張はどういうものか。折田の投稿が問題視されると、昨年11月25日、記者団に対して「(業務ではなく)ボランティアとして代表が個人で参加した」と釈明。2日後の27日には、代理人弁護士が記者会見で「事実である部分と事実でない部分」があると反論し、
「広報全般を任せたとかそういう部分については全く事実ではない。盛っておられる」
と切って捨てたのだ。
メルチュのビジネスは継続中
かたや折田はテレビ朝日の取材に対し、「(SNSの仕事を請け負っていた?)『答えないで』と言われています。(弁護士ですか?)『そうですね』」などと答えている。しかし以降、彼女がメディアの前に現れることはなく、頻繁だったSNSの更新も止まった。
刑事告発された折田はこの間、捜査当局による任意の聴取には応じる反面、主体性や裁量性を裏付ける証拠となるスマホなどの提出要請には十分に応じてこなかったという。そこで2月7日、当局は強制捜査に踏み切ることになった。
他方で、メルチュが手掛ける自治体ビジネス自体は継続しているようだ。例えば、今年度末まで「SNS運用支援業務」の契約(約1300万円)が残っている広島県庁の担当者が言う。
「特段業務に支障がなく実施ができています。担当者同士でオンライン会議をしている。家宅捜索後も、現時点では我々が発注した業務は支障なく続いています」
スタッフの気配もなく、取材拒否の張り紙
同じく今年度末まで「SNS活用プロモーション業務」(約807万円)の契約が残っている広島市役所の担当者に尋ねると、
「スマホが押収されたと聞いて心配でしたが、その後も滞りなく順調に、インスタの投稿などの業務を遂行されています。折田さんとも連絡が取れているとは聞いていて、騒動発生直後に連絡した際は『大丈夫です』と言っていました」
ただ、小誌は折に触れ、メルチュの事務所を訪ねてきたものの、ここ3カ月間、扉は閉め切られたまま。リモート作業なのか、スタッフの気配もしない。いつしか、取材拒否の張り紙が張られるようになった。
果たして、彼女は今、どこで何をしているのか。
それは、強制捜査から8日後のことだった。2月15日の昼、雲隠れを続ける折田の姿をついに捉えたのだ。
賽銭箱に大量の小銭を投じて…神社に姿を見せた折田氏
ベージュのコートを纏った折田は夫と共に越木岩神社の境内を歩いていた。黒いバケットハットから覗く髪は、知事選の頃より幾分伸びたようにも見える。
寄付者の名前などが掲げられた奉名板。彼女はそれらをひと通り眺めると、拝殿へと足を運ぶ。しばし順番待ちをした後、夫妻は鞄から封筒のようなものを取り出した。賽銭箱に向けてジャラジャラジャラと大量の小銭を投じていく。5円玉1枚では到底、叶わない願いなのだろうか。
折田は大きな鈴緒を握って鈴を鳴らすと深々とお辞儀をして、柏手を打つ。目を瞑り、実に30秒にわたって祈りを捧げたのだった。神社では鳥のさえずりが聞こえ、静謐な空気が流れていた。
夫の運転する車で移動
その後、巨大な甑岩に向かう遊歩道をしばらく散策して、夫の運転する車で芦屋方面へと姿を消していった。
自身の選挙を懸命にサポートしたことで刑事告発された折田のことを、斎藤自身はどのように受け止めているのか。代理人を通じて見解を尋ねたところ、公職選挙法違反の疑いが強いとする指摘などについては「事案の早期解明を期し、捜査に協力してまいります」とした。また、折田の境遇に対する想いについては回答しなかった。
まるで何事もなかったかのように活動
社会部デスクが今後の見通しを解説する。
「捜査で押収したスマホの解析などを慎重に進めているところです。仮に折田氏を被買収の容疑で立件すれば、必然的に買収側も立件することになる。それが知事本人になるのか、実質的な選対本部長のような役割を担った鈴木氏になるのか、そこは今後の捜査次第でしょう。ただ、鈴木氏が立件されたとしても、連座制が適用される可能性がある。斎藤氏が再び失職することも現実味を帯びてくるのです」
斎藤の公式ホームページは今も、折田がデザインした「さいとうブルー」で彩られ、まるで何事もなかったかのように〈兵庫の躍動を止めない!〉と訴えている。
しかし、その爽やかな色合いとは裏腹の、「冷血の知事」が引き起こした問題は、折田との公職選挙法違反疑惑だけではない。前述したように彼の周りでは、元県議、県民局長、県課長、3人もの人物が自ら命を絶っているのだ——。
(文中敬称略)
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「 週刊文春 電子版 」では、斎藤氏に関する 短期集中連載「冷血の知事」 を掲載中。本記事に続く連載第2回では、「 斎藤元彦の最暗部「4億円パレード補助金」《証拠公文書を全公開、信用金庫2社から重要証言》 」を詳しく報じている。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年2月27日号)