「心底失望した」伊藤忠元会長・丹羽宇一郎(80)が、政府の「働き方改革」を徹底批判!

5月24日(金)6時0分 文春オンライン

 4月1日より働き方改革関連法が順次施行されて約1ヶ月半。1947年に労働基準法が制定されてから70年ぶりとなる大改革で、長時間労働の是正や同一労働・同一賃金の実現が謳われている。


 これに対し「心底、失望させられました」と異を唱えるのが、丹羽宇一郎氏(80)だ。「人は仕事で磨かれる」をモットーに、伊藤忠商事会長、中国大使を歴任した丹羽氏が指摘する、政府の「働き方改革」の問題点とは——。



丹羽宇一郎氏


誰のために作ったのかわからない


丹羽 「仕事とは、すなわち人生そのもの——私は半世紀以上、この信念でやってきました。そしてそれは今も間違った考えだとは思っていません。仕事は何よりも人に生きる喜びをもたらしてくれる。働き方改革は、それが法律に反映されていないのです。誰のために作ったのかわからないような法律ばかりが並んでいる。


 これからの50年、100年は、AIの進化やロボット技術の発展によって仕事のあり方そのものが大きく変化するでしょう。その中で人口減少社会に突入している日本は、一人ひとりの生産性を高めていかなければなりません。過労死の防止など、長時間労働に伴う問題を解決することは大切ですが、働きやすい環境を作って労働者の意欲を高めることが喫緊の課題なのです。


 働き方改革は仕事のあり方、ひいては国民の人生を決定付けるほど重要なのに、それを理解した上で作られた法律だとはとても思えません」


 改革の目玉となっているのが、残業時間の上限規制と年次有給休暇の取得義務だ。今回、初めて法律に明記され、違反した場合には企業名の公表や刑事罰が科せられる可能性もある。


丹羽 「『上限を超えた残業はダメです』と、マルとペケを付けて一律処理することによって労働者が働きやすくなるとは、到底思えません。


 私はなにも『残業時間なんて気にせず、いくらでも働かせればいい』と言いたいわけではありません。規制がなければ労働者に対して長時間労働を強いるブラック経営者がいることは事実。弱い立場にいる人が安心して働けるルール作りの重要性は言うまでもありません。


 ただ、もっと働きたいという意欲を持つ人に対して、十把一絡げの規制を設けてしまっては、いたずらに勤労意欲を奪うことになりかねない」



これを残業と呼ぶのかどうか


 丹羽氏の若手時代は、残業時間の上限を気にすることなく、自ら納得のいくまで仕事に取り組むことができたという。


丹羽 「入社7年目にニューヨークに赴任し、日本のほかにドイツやオランダなどヨーロッパ各国に大豆を輸出する仕事をしていました。当時の駐在員は、机の中にウイスキーを忍ばせていたものです。深夜になってアメリカ人の社員が帰って日本人だけになると、おもむろにウイスキーを取り出す。オフィスには氷もなにもありません。ストレートでグイッと飲みながら、『明日はヨーロッパにこの数字を出して交渉しようや』と打ち合わせをするのです。これを残業と呼ぶのかどうか。決まった給料で残業代は無かったし、計算のしようもありませんでした。ただそこには思う存分働ける環境がありました」



過労死を防ぐのは「上司のケア」


 働き方改革の必要性が盛んに叫ばれるようになった背景にあるのが、電通やNHKで起こった過労自殺や過労死の事件である。


丹羽 「特定の企業に起こった過労死という問題を、長時間労働に原因を求めてルール作りをしてしまうと道を誤る。というのも過労死の原因には、往々にして上司と部下の関係があるからです。つまり、過労死を防ぐために最も重要なのは、直属の上司によるケア。


 一人だけ夜遅くまで残業する部下がいたら、上司が『君、大丈夫か?』と気遣ってあげないといけない。『大丈夫です』と言われても、どう見ても無理をしているようであれば、『いや、それにしても顔色が悪いから今日は帰りなさい』と言ってあげることが大事です。


『○時間以上は残業禁止』と法律で線引きをするより、上司が個人の体調や働き方を見守ってマネジメントする方がよほど過労死の防止につながると思います」



 丹羽氏は、 「文藝春秋」6月号 に寄稿した「『働き方改革』が日本をダメにする」で、働き方改革関連法の問題点を指摘。日本人の「働き方」改善のための具体的提言もおこなっている。


「仕事をマイナス面ばかりから考えるのは間違いです。仕事は何よりも人に生きる喜びをもたらしてくれる」——丹羽氏からのメッセージである。



(「文藝春秋」編集部/文藝春秋 2019年6月号)

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