意外に豪雨に脆い東京、自治体の危機管理は万全か

6月8日(土)6時0分 JBpress

(舛添 要一:国際政治学者)

 地球温暖化の影響か、5月に猛暑が到来するなど最近の気候変動には驚く。そしてまた、集中豪雨などの災害も増えている。しかも、大都会もその災害から免れているわけではない。

 最近は、記録的な猛暑、記録的な集中豪雨、記録的な長雨など、「記録的」と形容されるような異常気象が続いている。異常気象は一過性のものではなく、今後も続くと考えたほうがよい。猛暑のみならず、豪雨や台風で洪水や高潮の被害もまた常態化するという前提で危機管理を行うべきである。

衝撃的な「江戸川区水害ハザードマップ」

 豪雨災害だけをピックアップしても、2018年6月28日からの雨は、岡山県、広島県、愛媛県に土砂災害や浸水被害をもたらした。2017年には、6月30日から7月10日に大雨が降り、福岡県、大分県を中心とする北部九州に、死者40人、行方不明2人という甚大な被害を出した。2015年9月7日〜11日には、鬼怒川の堤防が決壊し、1万5000棟以上が浸水した。2014年7月30日〜8月20日の豪雨は、広範囲にわたったが、特に広島が大きな被害を受けている。

洪水に見舞われた栃木県小山市で、ゴムボートで住民を避難させる救助隊員ら(2015年9月10年撮影)。(c)AFP/Yoshikazu TSUNO〔AFPBB News〕

 近年の過去の豪雨災害を振り返ってみると、原因は梅雨前線に台風の影響が加わるケースが多いが、台風の発生件数も多くなっているようだ。

 豪雨の時期は夏である。2014年以前を見ても、2012年の九州北部豪雨が7月11〜14日、2011年の台風12号よる豪雨は8月30日〜9月5日、新潟・福島豪雨が7月27日〜30日である。もし、同じような豪雨が2020年に東京圏を襲ったら、オリンピックやパラリンピックはどうなるのか。

 東京は大都市だから大丈夫だと考えるのは間違っている。豪雨に対して、いかに脆弱であるかを如実に示す資料が公開された。

 5月下旬に、江戸川区が「江戸川区水害ハザードマップ」を発表したが、表紙に「ここにいてはダメです」と書かれており、話題になっている。

 この注意勧告の言葉の後に、「洪水のおそれがないその他の地域へ」という言葉も添えられている。自分の住んでいるところから「逃げろ」と言われて江戸川区民にはショックだったようだが、これくらい強く警告しないと避難が遅れ、命を失う危険性があるのである。

 実は、昨年8月22日に、江東、江戸川、葛飾、足立、墨田の江東5区広域推進協議会が、高潮や河川の氾濫による水害について、「江東5区大規模水害広域避難計画」を、ハザードマップとともに発表している。

 今回の江戸川区のハザードマップは、その内容を踏襲して、江戸川区民向けに編集したものである。

オリンピック期間中に集中豪雨がきたら

 この江東5区は荒川と江戸川という二つの大河川の流域にあり、両者が同時に氾濫した場合、最悪のケースで9割以上、つまり250万人の住む地域が水没し、約100万人が住む江戸川区西部と江東区東部などでは2週間以上浸水が続くという。また、浸水の深さが10メートルに達する地域もあるという。

 都知事のとき、私はこの地区を視察し、都の防災計画を立案したが、江戸川区は、東から旧江戸川、新中川、中川、荒川、旧中川と河川が多く、しかもそれら川の水位よりも低い地域が多く、7割がゼロメートル地帯(満潮時の水面より低い土地)である。川の堤防の上に立って周囲を見渡せばよく分かるが、もし堤防が決壊したら町全体を水が襲う様子が容易に想像できる。

台風12号の影響による雨が降る東京都内で傘をさす女性(2018年7月28日撮影)。(c)AFP PHOTO / Martin BUREAU〔AFPBB News〕

 もし、前線を刺激する形で中心気圧930ヘクトパスカル以下の大型台風が直撃すると、荒川流域で3日間の平均雨量の合計が400ミリを超えることになり、その悪夢が現実のものとなる。一つデータを紹介すると、昨年の8月27日に雷雨が東京を襲い、世田谷区で1時間に110ミリの雨が降った。その数字を見ると、3日間で400ミリというのは非現実的な想定ではない。

 怖い仮定だが、来年の夏にそのような豪雨が襲ってきたら、オリンピックどころではなくなる。

 戦後の豪雨の歴史を振り返ると、1947年9月、カスリーン台風によって荒川と利根川が破堤し、金町、柴又、小岩付近が水没した。1900人以上の死者・行方不明者が出ている。1950年8月末のキティ台風でも江東区や江戸川区が浸水被害に遭っている。

 関東地方に降った雨の大半が、利根川⇒江戸川、荒川に流れ込むので、このような大きな被害が起こる。とりわけ江戸川区は江東5区のうちでも最悪の地理的条件の下にあるので、「ここにいてはダメです」と言わざるをえないのである。

 江東5区の広域避難計画によると、台風などで荒川・江戸川の破堤が予想される場合には、72時間(3日)前に5区共同で避難計画の検討に入り、48時間(日)前に広域避難の呼びかけ(自主的広域避難情報)を行い、24時間(1日)前には約250万人を近隣の県に避難させる「広域避難勧告」を出す。それでも避難できなかった人には、9時間前に域内垂直避難指示を出すが、これは、地域の指定避難所(小中学校など)に移動させ、また自宅残留者には上層階に逃げる(垂直避難)ように指示するものである。

 垂直避難をした場合、2週間も水が引かなければ、電気、ガス、水道などのライフライン、また食糧供給が途絶えた状態で生きのびねばならないので、できれば広域避難が望ましい。ただ、全住民の避難先をどうやって確保するかは、東京都の西部のみならず、千葉県、茨城県、埼玉県、神奈川県の協力が不可欠である。

 広域避難をせずに約250万人が垂直避難した場合、ヘリコプターや船で救助できるのは、1日に2万人が限界なので、その困難さが理解できよう。しかも、猛暑である。

豪雨による洪水に見舞われた茨城県常総市で、警察のヘリコプターで救助される人(2015年9月10日撮影)。(c)AFP/KAZUHIRO NOGI〔AFPBB News〕

 江戸時代の水害の歴史について多くの文献に当たって研究したが、河川の流域地帯では、船を常備して備えていたという。たとえば、鈴木理生は、『江戸の川・東京の川』(井上書院、1989年)の中で、「近郊農村の多くは自然堤防上に分布していたこと、縦横にはしる運河の交通になれていたこの地区の人々は、船は現在のマイカーに相当する乗物であり、洪水常襲地帯にはおのずからそれに対応する生活のし方があった」(173〜177p)と記しており、船を洪水対策として使ったことを指摘している。

 私は、都知事のときに、船や運河を防災対策に活用する政策を実行に移したが、江戸時代よりも今の住民のほうが「お上任せ」であり、行政が助けてくれるという甘えがあるのではなかろうか。

千葉方面への避難ルート確保が東京の課題

 都知事を早期に辞職したためにやり残した仕事に、近隣県への避難ルートの確保がある。人々が一斉に避難すると橋や駅に避難者が殺到し、大渋滞、大混乱が生じ、大事故につながる危険性がある。埼玉県との境には川はないので、避難は比較的容易であるが、問題は神奈川県と千葉県に逃げる場合である。

 神奈川県境の多摩川は約2.5キロ間隔で橋があるが、千葉県との境の江戸川や旧江戸川を挟む江戸川区と千葉県市川市・浦安市の間、市川橋と今井橋間は約8キロにわたって橋が無い(江戸川大橋は自動車専用道路なので歩行者は通行できない)。

 そこで、都知事の私は、市川橋と今井橋の間に2本、浦安橋と舞浜大橋の間(約3キロ)に1本、計3本の橋を架けるよう努力した。問題は、千葉県との間の財政負担であるが、森田健作千葉県知事とトップ同士で協議を始めたところで、私が都知事職を辞することになってしまった。

 最近森田知事に会ったが、小池知事になって一切この話は進んでないという。因みに、事務方は、その後も協議を続け、2025年までに事業化したいとしているが、この問題は政治家である知事が動かすしかない。

 国民の命がかかる防災対策の実行にポピュリズムは禁物である。人命が失われてから悔やんでも、何の意味もない。私が『東京防災』と言う冊子を作り、東京の全家庭に配布したのは、そのためである。

 台風が来ないこと、地震が来ないこと、豪雨に見舞われないことを祈ったところで、自然がそれに応じてくれるわけではない。

 2020年五輪の準備の一環として、7月に大型台風が関東を襲い、前線を刺激して豪雨が何日も続き、江東5区が浸水する状況を想定した危機管理のシナリオを書いておかなければならない。

筆者:舛添 要一

JBpress

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