石破茂&小泉進次郎で総裁選の潮目は変わるか

6月9日(土)7時0分 文春オンライン

「私とプーチン大統領は全力を込めて日ロ関係を動かすと決意している。今変えないで、いつ変えるのか。2人で動かさないで他の誰が動かすのか」


 5月25日、首相の安倍晋三はサンクトペテルブルクで開かれた国際経済フォーラムの講演で、壇上のプーチンに北方領土問題の解決と平和条約締結を呼びかけた。


 だがプーチンは、直後の海外通信社との会見で、将来の平和条約締結に言及はしたものの、北方領土問題には踏み込まず、翌26日の通算21回目となる安倍、プーチン会談でも進展はなかった。


拉致問題も心許ない状況が続く


 安倍自身もめぼしい成果が得られないことは承知の上だった。側近の首相補佐官・長谷川栄一が5月上旬にロシア入りし、ロシア側の感触を探ったが「厳しい」と報告せざるを得なかった。外交筋からも「領土交渉の進展は困難だ」との情報がもたらされていた。とはいえ、領土問題解決は安倍の金看板の一つ。安倍は「なんとか形を作れるように」と指示。急遽、長谷川は外務審議官・森健良と共に安倍に先立ち訪ロ、元島民による空路墓参の7月実施、ウニの養殖などを想定した共同経済活動の事業化に向けた作業を加速させる合意にこぎ着けるのがやっとだった。共同経済活動の前提となる両国の法的立場を害さない「特別な制度」の協議も、実質的には進んでいない。


 安倍外交の最大の旗印である拉致問題も心許ない状況が続く。


 6月12日に予定されていた米国大統領・トランプと朝鮮労働党委員長・金正恩との米朝首脳会談開催の成否は予断を許さない。韓国、中国を含む関係各国の駆け引きが激化する中、今に至るまで日本の存在感は乏しい。5月上旬に官邸から外務省に「報道関係者から『蚊帳の外』と言われても、反応するな」との指示が下されたのも、焦りの裏返しに他ならない。安倍自身、「テンポが早過ぎる」と周囲に漏らすなど戸惑いを隠せなかった。



米朝首脳会談を間近に控えるトランプ米国大統領 ©文藝春秋


 安倍の「トランプ頼り」の路線にも不安が残る。6月7日にホワイトハウスで改めてトランプとの連携を確認したい考えだが、政府・与党内からは「米国が北朝鮮と(拉致問題を抜きにした)安易な妥協をするのではないか」との懸念もくすぶる。「米国第一主義」を掲げるトランプは、11月に中間選挙も控え、成果が是が非でも欲しい。


「総理は『ごめんなさい。忘れてました』と言えばいい」


 得意の外交で翻弄され続け、内政でも森友、加計学園問題で依然逆風が吹き荒れる。


 官邸に衝撃を与えたのは、愛媛県が5月21日、参院予算委員会に提出した加計学園の獣医学部新設を巡る新たな文書だ。文書には、安倍が2015年2月25日に加計学園理事長の加計孝太郎から獣医学部新設の説明を受け、「そういう新しい獣医大学の考えはいいね」と応じたことが記されていた。「どういうことだ!」。安倍は愛媛県知事の中村時広に怒り心頭に発したが、周囲が「中村を刺激すると、これ以上何がでてくるか分かりません」となだめる一幕もあった。


 安倍は新設計画を知ったのは17年1月20日との答弁を繰り返してきた。15年2月の「いいね」発言が事実なら、すべてが覆り、嘘の国会答弁を繰り返した安倍の責任は免れない。


 自民党幹事長の二階俊博が「総理は『ごめんなさい。忘れてました』と言えばいい。それしかない」と漏らすなど、これまでの答弁の撤回を促す声すら与党内からは上がった。



「とっくの昔にルビコン川を渡っている」


 文書の信憑性に注目が集まる中、5月26日午後、報道各社に一枚のFAXが加計学園から送られてきた。そこには、計画の停滞を危惧した担当者が活路を見いだすために「実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、誤った情報を与えた」と記されていた。


 加計学園が安倍に助け船を出した格好だが、立憲民主党代表・枝野幸男が「常識的にあり得ないようなむちゃな言い訳を始めた」と述べるなど野党は一斉に反発。仮に事実だとしても「でっち上げを行政に報告したことになる。大学の設置認可そのものに関わり」(共産党書記局長・小池晃)かねない諸刃の剣だ。


 安倍は28日の参院予算委員会で、文書を「そもそも伝聞の伝聞」と指摘し、加計との面会を改めて否定。「虚偽」の説明をした学園に抗議しないのかを問われ「抗議する理由がない」とした。官邸筋は「とっくの昔にルビコン川を渡っている。このまま押し通すしかない」と言い聞かせるが、公明党幹部は「曇りガラスのようにいつまでも晴れないままだ」と嘆息する。


 森友学園問題も収束する気配はない。財務省が23日、国有地取引に関する交渉記録を公表。問題発覚後に理財局職員が記録を廃棄していたことも明かした。決裁文書改ざんに続く不祥事に副総理兼財務相・麻生太郎の責任を問う声が与党内から上がった。



 急先鋒は公明党だ。幹事長・井上義久が「政治家として、どう責任とるかが一つの課題だ」と言及。ただこれは公明支持者向けのメッセージの意味合いが強い。愛媛県文書の信憑性を巡り代表・山口那津男が「また聞きのまた聞き」だとした発言に対して「擁護するのか」とクレームの電話が党本部に相次いだのだ。だがここで表だって安倍を批判すれば「安倍降ろし」の引き金を引きかねない。そこで前財務事務次官のセクハラ問題で軽視ともとれる発言を繰り返し、特に女性支持者から批判が強い麻生に厳しい姿勢を見せることで、ガス抜きを図ろうとしたわけだ。事前に「責任論」を持ち出すことは二階に伝達済みで、巧妙に「辞任論」にまでは踏み込んでいない。


日大アメフト部で「注目がそれた」


 ただ麻生責任論の口火を切ったことに変わりはない。自民党内からも「誰かがけじめを取らなければいけない。麻生交代もあり得る」(閣僚経験者)との声が漏れ始めた。麻生が閣僚報酬の自主返納などでお茶を濁せば、批判が高まるのは避けられそうもない。



 政権の不祥事が続く中、世間の耳目を集めたのは日本大学アメリカンフットボール部の悪質な反則行為だ。反則を指示したとされる監督(当時)の内田正人ら指導陣が選手に責任を押しつけるような姿勢に終始したことで問題が泥沼化。自民党幹部は「注目がそれた」と胸をなでおろし、安倍も周囲に「NHKも報道ステーションもトップニュースは日大だったね」と上機嫌で切り出し、「ところで内田監督と僕が似てるって、どういうこと?」と問いかける場面もあった。口ごもった周辺になり代わったわけではないが、共産党委員長・志位和夫が24日の記者会見で「(指導陣は)選手に責任を転嫁していた。安倍政権も現場に責任転嫁する」と語っている。



石破への「対抗馬を出そうか」


 日大アメフト問題が政権へのアシストになったのか否か。その一つの答えが示されるのが、6月10日投開票の新潟県知事選だ。自公両党が支持する前海上保安庁次長の花角英世と五野党一会派の統一候補、元新潟県議の池田千賀子による事実上の一騎打ち。勝敗は今後の政権運営や9月の自民党総裁選にも影響を与える。来春の統一地方選、夏の参院選の試金石でもある。


 ただ、24日の告示日直前まで自公の間はぎくしゃくし続けた。5月上旬、自民党新潟県連幹事長の柄沢正三が最近の国政選挙での公明党の支援が不十分だと不満を示したのに対し、公明党の支持母体・創価学会の副会長で信越方面の実力者、金子重郎らが反発し、自主投票の方向となった。約9万とされる公明票の帰趨は勝敗を左右しかねない。慌てた自民党は二階ら幹部が柄沢を叱り、菅も学会本部の選挙担当副会長・佐藤浩に「助けてほしい。地元にはちゃんと言っておきます」と支援を依頼し、何とか与党の足並みをそろえた。


 ようやく与党が総力戦をスタートしようとする中、23日には原発ゼロを訴える元首相・小泉純一郎が新潟県魚沼市で講演。「選挙の時がきたら、原発推進論者などは絶対に当選させない」と強調した。講演後、池田について「よく頑張っている」とエールを送り、握手するシーンもマスコミに撮らせた。これが思わぬ副作用を呼ぶ。自民党の選挙戦の切り札、筆頭副幹事長の小泉進次郎が「親子対決などと面白おかしく取り上げられる」と応援演説に難色を示し出したのだ。自民党幹部は「彼は知事選に負け、安倍政権が弱体化すればいいと思っているのではないか」と疑心暗鬼だ。



 党内では知事選と並行して総裁選を見据えた神経戦が繰り広げられている。12年の総裁選で石破に投票したと明言する進次郎が、本音では「安倍嫌い」なのは永田町の常識だ。石破は「日本の将来を背負う人だ。安倍さん以降小泉さんまでの間をどうつないでいくかを真剣に考えなければいけない」と公言し秋波を送る。報道各社の次期総裁にふさわしい人物を問う世論調査で、安倍を上回る石破と進次郎が組めば潮目が変わる可能性もある。


 石破のシナリオが手に取るようにわかるだけに、安倍の胸中も穏やかではない。5月10日の柳瀬の参考人招致の際に石破が野次を飛ばしていたと聞きつけた安倍は「維新でもいいから対抗馬を出そうか」と激怒した。石破は加計学園の面会否定のコメントを巡っても「国民のモヤモヤした思いを払拭することに寄与するならば、(加計孝太郎理事長の国会招致を)すべきだ」と反撃の狼煙をあげる。


首相経験者らの動きにも細かく目を配る



 安倍は総理・総裁の強みを生かし、総裁選への布石に余念がない。今後、夏にかけて各都道府県で開かれる自民党県連大会に向けたビデオメッセージを収録。26日には総裁選出馬の意欲を隠さない総務相・野田聖子のお膝元・岐阜県連大会でもメッセージを流した。前日に野田が県連に問い合わせるまで秘密にしておく念の入れようだった。


 官邸は、現職ばかりでなく、総裁選の障壁となりそうな首相経験者らの動きにも細かく目を配る。小泉純一郎の発言を取り寄せて細かくチェックするだけでなく、公文書管理への思い入れが強く、安倍政権の在り方に批判的な元首相・福田康夫や、康夫の長男で防衛政務官の福田達夫の動向チェックも怠らない。達夫は安倍の出身派閥に属しているが、進次郎と行動を共にすることも多いからだ。


 野党は「安倍政権への審判」と位置づけ、国会での攻勢を知事選につなげる戦略だ。会期末まで3週間以上残す中で、経済再生担当相・茂木敏充、厚労相・加藤勝信の不信任決議案、衆院厚労委員長・高鳥修一の解任決議案などを連発するのも「与党の強行姿勢を浮き彫りにする」(野党幹部)狙いからだ。


 27日には六党派の国対委員長が揃って池田の応援に駆けつけた。他方、花角陣営は、原発、国政の争点化を避け、党派色を薄めた「県民党」を掲げて戦いを繰り広げる。これとよく似た構図が、麻生政権下の09年7月の静岡県知事選だった。自民、公明党の推薦候補は政党色を抑え党幹部の応援も控えたのに対し、民主、社民、国民新党の推薦候補・川勝平太は民主党幹部が前面に出て支援。小差で川勝が勝利して自民党内では麻生への批判が高まり、一週間後の東京都議選にも敗北、その後の政権交代につながった。


 今安倍は、周囲にも極力、知事選への関心を示さないようにしている。安倍の思いを察した菅は、知事選の結果が政権運営へ与える影響は「全くない」と予防線を張る。だが敗北すれば「安倍首相では来年の選挙は戦えない」と求心力が低下するのは避けられない。


 新生竹下派の領袖となったキーマン・総務会長の竹下亘は「総裁選で、間違いなく安倍さんが引き続きなるかというと『はい、その通りです』とはなかなか返事をしかねる」と喝破する。既に自民党内では安倍への不満の芽が吹き出しつつある。


(文中敬称略)



(赤坂 太郎)

文春オンライン

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