20ある政令市のなかでも地味な「神奈川県相模原市」が大化けする可能性

2023年6月9日(金)6時0分 JBpress


1市4町が合併して誕生した人口72万人の「相模原市」

 1956年に移行した大阪、名古屋、京都、横浜、神戸から2011年移行の熊本市まで、日本には政令指定都市(政令市)が全部で20ある。横浜、川崎に次いで2010年に神奈川県3番目(全国19番目)の政令市になったのが相模原市だ。人口は約72万人。失礼な言い方だが、地味で政令市としてのイメージがあまり湧いてこない。

 そんな相模原市が昨年度からメディア向けシティープロモーション活動に力を入れており、プレスツアーやメディア交流会などを開催している。

 今年も6月1日に「相模原の森林と物流から広がる“未来をつなぐ創業・産業を巡るプレスツアー”」が実施されたので筆者も参加してみた。その様子を紹介しながら、相模原市の現状と今後の可能性について探ってみた。

 まずは、現在の相模原市が誕生した経緯を振り返ってみよう。

 2006年に旧相模原市が津久井町、相模湖町と合併、翌年には城山町、藤野町と合併して2007年3月11日に今の相模原市となった。内陸工業都市と周辺の中山間地域が一緒になったわけだ。ということで市の面積約329km2の6割を森林が占め、海抜最高地点は1673m(蛭ケ岳山頂)となっている。

 今回のプレスツアーは、リニア中央新幹線駅の建設が進む橋本駅前からスタートした。

 まず訪れたのは津久井湖に近い緑区にある株式会社「つくい森林設計HALU」(代表取締役・齊藤理沙氏)が管理する山林だ。同社は森林資源の管理運営、木材の生産販売などを手掛けている。2021年創業、平均年齢30代という若い会社だ。


平均年齢30代の若い会社が森を守っている

 本村賢太郎市長の挨拶の後、齊藤さんが国内や相模原における森林管理状況について説明した。

 全国的に山林所有者や林業に携わる人の高齢化が進み、間伐をはじめとする山の手入れが行き届かず、台風や大雨による産地崩壊や土砂崩れなどが頻発。森林の適正管理は社会的にも大きな課題になっているとのことだ。

 そうしたなか、近年はウッドショックに見られるように海外からの輸入が不安定となり、国産材の需要が高まっている。同社は山林所有者から管理委託を受けて管理計画を立て、整備・木材搬出を専門とするスタッフが森林の管理・育成にあたっている。訪れた山林の現場で作業スタッフが実際に木を切り倒す「間伐」作業を披露してくれた。

 切り倒す側の木の表面にチェーンソーの刃を入れ、まずは「受け口」をつくる。その後、反対側から「追い口」という切り込みを入れていく。やがて木は倒れ始めるが、周りが密集していると他の木の幹や枝に引っかかってしまう。そうなると今度はスタッフがロープを架けて引き倒す。

 なかなか大変な作業だが、1本の杉やヒノキを切り倒しても「細い、曲がり、枝が多い」ということでC材に振り分けられると取引値は驚くほど安価(5000円/トン、神奈川県森林組合連合会の資料)だ。それでも管理は欠かせない。

 大学で野生動物学を学んだという齊藤さんが、自らが手掛ける森づくりについて「長い時間をかけて森林を育成管理していくことはやりがいがある仕事。山が未来の価値につながると思います」と語っていたのが印象的だった。


渋谷の「トイレプロジェクト」にも使われた津久井産の木材

 次に向かったのは、地域材を活用したプロジェクトを展開している相模湖近くの一般社団法人「さがみ湖 森・モノづくり研究所/MORIMO」(代表理事・淵上美紀子氏)。

 2015年の創業以来、市内の小学校の学習机の天板を地域材に取り替える「森の机事業」や、個性的な積み木や子ども用椅子などの製造といった事業を行っている。木育事業や小学校での森林環境学習など、市と連携したSDGsの取り組みにも熱心だ。

「もともとは水源を守る活動から始まり、課題意識が水源から水源林を守るということにつながっていき、津久井産の間伐材を活用した天板づくりを行うようになりました。これまで40校に5500枚を提供しています。また、活用するのは間伐材だけでなく、公園や街路樹でナラ枯れ(カシノナガキクイムシによるナラ菌の蔓延による枯死)した材木もあります」(淵上さん)

 短期的なコストだけではなく、SDGsの視点を持った事業展開を行っているという。

 最近ではこんな話題もある。カンヌ映画祭で最優秀男優賞を受賞した役所広司が、受賞作品内で清掃員として渋谷のトイレで働くシーンが話題になった。

 作品の舞台となったのは「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトで、有名建築家らが手掛けた渋谷区内の17の公共トイレだ。このプロジェクトで隈研吾氏がデザインした鍋島松濤公園のトイレに、同法人が保管していた「さがみはら津久井産材」(間伐材とバタ材)が有効利用されている。


地域住民にも開放されている日本最大級の物流拠点

 中山間地域での視察・取材を終え、取材陣一行はバスで市街地に近い中央区の日本最大級の物流拠点へと移動する。相模湖インターチェンジから中央道、圏央道を走行しての長距離移動だ。同じ市内だというのに高速道路を利用するところに相模原市の広さを実感する。

 到着したのは、国内で約170棟の物流施設を開発・運営する日本GLP株式会社の最先端物流施設「GLP ALFALINK相模原」(2023年全棟竣工)だ。物流施設4棟、共用棟1棟で総延床面積は約68万4000m2。日本最大級の施設である。40社が入居し、地域と共生し、豊かな街づくりをというコンセプトで運営されている。

 物流拠点というと閉鎖的なイメージが強かったが、ここは地域住民にも開放されているのが特徴だ。

 広い敷地内は住民の散歩コースとなり、マルチコートはフットサルなどの利用が絶えない。地域住民が参加してのイベントも開催されている。共用棟にあるカフェテリアも利用可能だ。そして、施設内にある託児所に置かれているテーブルや棚など家具類には津久井産の材木が使われている。施設は免震構造を採用し、地震の影響を最大4分の1に軽減するという。

 敷地内にはファミリーマートが営業しているが、店のバックヤードでは飲料の品出しをロボットが行っていた。店員の労力削減に寄与している。また、敷地内ではロボットが芝刈りを行っている光景も。近未来シーンが目の前で繰り広げられているのだ。

 日本GLPが相模原に日本最大級の拠点を構えた背景には、相模原ならではの立地ポテンシャルがある。地盤が強固で揺れにくいうえ、相模川との標高差が49mあり、洪水ハザードリスクが極めて低い。

 さらに、圏央道や東名道とのアクセスが良く、トラックドライバーの連続運転時間の限度である4時間で到達可能なエリアは15都県に及ぶ。同エリア内の人口は約5800万人だから、日本人口全体の46%にあたる。これだけの広域配送が可能となっているのだ。


森の育成からロボット製造まで有機的につながる可能性

 ほぼ1日かけて相模原市内の山間地から最先端物流施設までを視察した。

 今回のツアーには含まれなかったが、相模原はロボット製造の集積地でもあり、さがみはらロボットビジネス協議会の資料には52社が登録されている。戦前の「軍都」が、戦後は内陸型工業都市となり、今はロボット生産拠点の顔も併せ持つようになったのだ。橋本駅前ではリニア中央新幹線の駅建設が進む。

 プレスツアーで視察した自然豊かな山間地と、ロボットが活躍する物流施設では、一見180度違う世界のように思える。しかし、共通しているのは、人々の安全で快適な生活に直結していることだ。

 森林の管理・育成は、地域住民の生命に不可欠な水をもたらす「水源の森」を守る。地域材の活用は人々の暮らしと心を豊かにする。最先端の物流拠点は利用者の生活の利便性を高め、生活レベルの改善をもたらす。そしてロボット製造は作業効率を高める一方で、さまざまなリスクや負担を軽減する。すべてはSDGsに通じる。

 相模原市内にある山林や湖などの自然から生産拠点、物流拠点、そして今後誕生する新たな交通拠点までが有機的につながっていけば、すばらしい未来ビジョンが見えてくる可能性を感じた。今の子どもたちが大人になるころ、相模原を舞台にした壮大な世界が展開しているかもしれない。

筆者:山田 稔

JBpress

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