“分断社会”韓国は米朝首脳会談をどう見たか

6月15日(金)7時0分 文春オンライン

 6月12日、“世紀”の米朝首脳会談が突風のごとく終わった。


 トランプ米大統領は会談後、「北朝鮮は非核化に向けて大きく前進した」とツイッターに投稿し、会談の成果を自画自賛したが、米メディアは「単なる政治ショーに終わった」(CNN)などと一斉に批判。


 韓国では、保守系メディアからは、「あきれて荒唐な米朝会談、このまま行けば北は核保有国になる」(朝鮮日報)、「あまりにも低い水準の合意、非核化の道遠し」(中央日報)と批判の声が上がる一方、進歩・革新派系は「金正恩トランプ、平和の行進始める」(京郷新聞)、「70年の敵対越え平和へ」(ハンギョレ)と会談を評価した。



米朝会談を報じる翌日の韓国紙 撮影/著者


韓国の人々は「想定内」?


 そんな二分するメディアとは裏腹に韓国の人々の反応は、「想定内」という淡々としたものが目立った。トランプ大統領の記者会見の様子をソウル駅のテレビで見ていた男性(50代後半、自営業)は、「やっぱり具体的なことは全然、出てこないねえ。抽象的で、これからやるという、全部、未来形だ」、そう言って苦笑しながらも、こんな言葉で結んだ。


「一気に解決するなんてことはできるわけがないんですよ。


 私たちだって同胞とはいえ70年間休戦状態で、異なる社会を歩んできた。少しずつ、自然な展開がいいんです。あれもこれも一気に解決しようとすればどこかで衝突する。もうそんな同じ轍は踏まなくていい」



6月12日に会談が行われたシンガポールの「セントーサ島」は、マレー語で「平和と静寂」を意味するという ©getty


米朝会談に期待した2つのこととは


 韓国で会談前に注目されていたのは大きく2つ。「米朝がCVID(北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)での合意に至るか」と「朝鮮半島の終戦宣言ついて議論されるか」だ。会談の1週間ほど前からは、文在寅大統領が統一地方選挙(13日)の事前投票も済ませ、週末の予定を空白にしてシンガポール入りに備えているという報道がさかんに流れた。



 会談前日、シンガポールには各局のメインキャスターらが飛び、生中継するかのように現地の様子を刻々と伝えていて、それはまるで胸の高鳴りが聞こえてくるような報道ぶりだった。


 トランプ大統領は金正恩労働党委員長とどんな握手を交すのか、相手を制圧するともいわれる奇襲的握手に出るのか、それとも普通の落ち着いた握手になるのか——。会談の途中では1985年に冷戦を解くきっかけとなった旧ソ連の最高指導者、ゴルバチョフとレーガン米大統領が首脳会談で見せたような、議論が激突して互いににらみ合いになるような場面はないか——。いやいや、北朝鮮もCVIDを呑み、これまでにない歴史に残る“トランプモデル”が誕生して、朝鮮半島の終戦宣言が言及されるかもしれない、そして、文在寅大統領も参加する米韓朝会談が実現するのではないか——などなど。


 度が過ぎて駐シンガポールの北朝鮮大使公邸に潜り込んでしまったテレビ記者2人が現地で逮捕され、青瓦台(大統領府)が異例の警告を出すという一幕もあった。



ソウル駅で会談を見守る市民 撮影/著者


「北朝鮮の完全勝利」は本当か


 ところが、ふたを開けてみれば、首脳会談はあっさりと終わり、合意内容にはCVIDの文言も入らない、板門店宣言を確認したぐらいの肩すかし。しかも、トランプ大統領が、安保ではなく経費の面から米韓軍事演習の条件付きの中止や在韓米軍縮小にまで言及して、韓国では「トランプ、文在寅、金正恩体制の中 韓国安保はどこへ行く」(朝鮮日報、6月14日)と憂慮する声も出始めている。


 韓国の中道派の全国紙記者が語る。


「合意内容には皆、肩を落としましたが、合意文には明記されなかった口頭での合意があるのではないかという見方も出ています。


 正直、敗戦国に適用されるCVID合意には現実味がなく、会談の1週間ほど前にも、『米朝は(CVIDまでの)工程の20%くらいしか合意できていない』と政府関係者が漏らしていて、CVID合意の可能性は低いと見られていました。ただ、トランプ大統領は、『過去の米国の大統領が対北政策を誤ってきたのは側近らの話に耳を傾けたからだ、自分はそんなことはない』と話したと伝えられて、結果は最後まで分からないという雰囲気があった。


 オバマ前大統領は『戦略的忍耐』と聞こえはいいが北朝鮮をまったく無視していた。それと比べれば、もちろんトランプ大統領自身の利益もありますが、金正恩委員長と会い、その姿を世界の目に披露させ、北朝鮮の“今”を世界に見せた。70年間、敵対視していた米朝が同席し、これからについて話し合ったということがもっとも重要です。


 米国や日本、そして韓国の一部メディアもトランプ大統領は北朝鮮に譲歩しすぎた、北朝鮮の完全勝利としていますが、そう判断するのはまだ早いでしょう」



親米から反米へ……? 没落する保守派


 韓国の安保を憂慮する声が出る背景には、韓国保守派の没落もある。


 今回の米朝首脳会談にとりわけ厳しい評価を下したのは、皮肉にも「米韓同盟の守護者」を自負していた保守派だ。米国と北朝鮮の接近に警鐘を鳴らし、最近では、親米から、ややもすると反米ともみられる方向へ旋回するような珍現象が起きていた。


 そこへ、会談翌日には文政権を問う統一地方選挙が行われたが、結果は進歩・革新派の与党「共に民主党」の大圧勝となった(広域自治体の知事・市長選17のうち14で与党勝利)。



韓国の地方統一選挙を知らせるソウル市内のキャンペーン 撮影/著者


「理念として保守を支持する人は30%くらいいると言われていますが、今回は真の保守派を標榜していた『自由韓国党』を審判する選挙となりました。そこでの大敗。国会議員の補欠選挙でも保守の牙城が崩れる前代未聞の結果となった。米朝の大きな動きがある中で、韓国の保守がどこまでそこにコミットできるかなど新しい姿を打ち出せず、親米から反米へと無残にも軸がぶれてしまった。保守派の解体、再編は避けられない」(別の記者)


 6月14日、自由韓国党の洪準杓党代表はこう言って代表を辞任した。


「国がまるごとあっち(進歩・革新派)に行ってしまった」


 文大統領一強の様相となってきた。


(※6/15 14:00、最新の情勢を反映するため、末尾の3段落を書き換えました)



(菅野 朋子)

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