製薬企業から医師へ流れる高額の謝礼金

6月15日(金)6時0分 JBpress

顕微鏡をのぞき検体の精子を見る医療従事者(2016年5月25日撮影、資料写真)。(c)AFP/LLUIS GENE〔AFPBB News〕

 医療ガバナンス研究所とワセダクロニクルが中心となり、2016年に製薬企業から支払われた講師謝金について調査を進めている。

 前回の記事においては、製薬企業と医師の関係の透明化を進める動きがグローバルに起きていること、日本はその流れに乗り遅れつつあることを説明した(http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53293)。

 今回は、支払いの具体的な内容について迫ってみたい。まず取り上げるのが、医学系の学会理事に対する支払いである。


日本に129もある医学系の学会

 日本の医学界には実に多様な学会が存在している。現在、その元締めである日本医学会のホームページには、129の学会が登録されている(http://jams.med.or.jp/members-s/)。

 あまり馴染みがない方も多いと思われるが、日本の医学界において学会の役割は大きい。例えば、日本内科学会の会員数は約11万人、日本外科学会の会員数は約4万に及び、前者に至っては全医師の3分の1が所属している。

 日本内科学会の定款(https://www.naika.or.jp/jigyo_top/teikan/teikan_top/)によると、その目的は、「内科学に関する学理及びその応用についての研究発表、知識の交換、会員の生涯学習の奨励並びに会員相互及び内外の関連学会との連携協力を行うことにより、内科学の進歩普及を図り、もってわが国の学術の発展及び国民の健康増進に寄与すること」とある。

 そして、具体的な事業として、以下が挙げられている。

(1)学術講演会,研究会等の開催
(2)学会誌,学術図書等の発行
(3)研究及び調査の実施

(4)研究の奨励及び研究業績の表彰
(5)認定医および認定施設の認定
(6)生涯学習活動の推進

(7)関連学術団体との連絡及び協力
(8)国際的な研究協力の推進
(9)社会に対する内科学の進歩の普及および医療への啓発活動

 各学会の理事は、その方針決定や運営に関わるため、当然、強い発言権・決定権を持つ。製薬会社にとっては、格好の営業先である。

 今回、2016年度に製薬企業から学会理事に支払われた謝礼を調査した。対象としたのは、日本専門医機構において、基本領域と定められた18領域の学会であるである。以下が、そのリストである。


18領域の学会と謝礼金の関係

(A)内科系領域:日本内科学会、日本皮膚科学会、日本病院総合診療医学会、日本小児科学会

(B)外科系領域:日本泌尿器科学会、日本眼科学会、日本整形外科学会、日本外科学会、日本脳神経外科学会、日本形成外科学会、日本耳鼻咽喉科学会、日本産科婦人科学会

(C)その他の領域:日本精神神経学会、日本病理学会、日本リハビリテーション医学会、日本医学放射線学会、日本麻酔科学会、日本臨床検査医学会、日本救急医学会

 その詳細を以下の図にまとめた。

 対象とした407人の理事(監事なども含む)のうち、謝礼を受け取っていたのは356人であり、87%にのぼる。その中央値は約100万円であった。1000万円以上の謝礼を得ている理事も7人いた。

 領域別に評価を行うと、内科系領域の中央値が約160万円と最も多く、外科系領域が約130万円、その他の領域が約50万円と続いた。

 内科領域、外科系領域においては、それぞれ、日本内科学会、日本泌尿器科学会に所属する理事への支払いが多かった。驚くべきことに、受取額トップ10人は両学会のいずれかに所属していた。

 日本内科学会においては22人の理事のうち、95%にあたる21人が謝礼を受け取っており、その中央値は500万円(平均は600万円)を超えた。

 内科においては、抗糖尿病薬や降圧薬といった処方頻度が高い薬剤や、抗関節リウマチ薬など高価な薬剤が処方される。製薬企業の売り込みのモチベーションも高いと推察される。


謝礼金の最大額は1800万円

 なお、最大額の謝礼を受け取っていたのは、アレルギー・膠原病を専門とする田中良哉医師(産業医科大学教授)で、約120回の案件で約1800万円を受け取っていた。

 内訳は、講師謝金約1100万円(約80回)、原稿執筆料約200万円(約10回)、コンサルティング料約500万円(約30回)だった。

 一方、日本泌尿器科学会の理事は21人全員が謝礼を受け取っており、その中央値は約330万円だった。

 泌尿器科が外科系領域でトップと耳にして意外に思う方もいるかもしれないが、多数の高齢男性が患う前立腺肥大は、薬剤管理が基本である。

 現に、約100回の案件で約1300万円という最大額の謝礼を受け取っていた横山修医師(福井大学教授)の専門も前立腺肥大である。内訳は、講師謝金800万円弱(約50回)、原稿執筆料200万円弱(約20回)、コンサルティング料400万円弱(約30回)であった。

 そのほかで謝礼が多かったのは、日本皮膚科学会、日本精神神経学会の理事である。それぞれ、94%(18人中17人)、95%(20人中19人)が謝礼を受け取っており、その中央値は約390万円、約120万円であった。

 皮膚科は皮膚疾患一般、精神科は認知症など、患者のボリュームが多い疾患を抱えていることが背景にありそうだ。

 興味深かったのは、日本整形外科学会の理事への支払いが少なかったことだ。96%(23人中22人)の理事に謝礼が支払われているものの、その中央値は、約150万円であった。

 実は、米国で行われた同様の調査においては、整形外科領域の医師への支払いが、他の領域と比較しても多かった。

 このような違いが生じる最大の原因は、米国の調査、私たちの調査が検討した企業の種別の違いにある。


日本でも情報公開されるべき医療機器メーカーとの関係

 本調査においては、製薬企業のみが含まれているのに対し、米国の調査においては、医療機器メーカーも含まれていた。

 整形外科領域で行われる人工股関節置換術や人工膝関節置換術などにおいて、非常に高価なインプラントが用いられる。そのため、そのような医療機器を販売する会社と、より親密な関係を築いている可能性がある。

 しかし、日本においては医療機器メーカーから医師に支払われた謝礼の開示を定めるガイドラインなどは存在せず、これらの会社から支払われた謝礼の全貌は全く分かっていない。

 医療機器メーカーと医師の関係の透明化についても今後は検討されていく必要があるように感じる。

 以上、簡単ではあるが、学会理事に対する製薬企業からの支払いについてまとめた。

 今後、ガイドライン作成委員会や医学雑誌の編集部に対しての謝礼支払いについても検討したいと考えている。

筆者:尾崎 章彦

JBpress

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