また起きた凶悪な「闇サイト」事件とリテラシー教育

6月15日(金)6時10分 JBpress

韓国ソウルで、オンラインゲーム「リーグ・オブ・レジェンド」で対戦する女性たち(2018年4月13日作成)。(c)Yelim Lee / AFPTV / AFP〔AFPBB News〕

 このところ「九九」の話題など、簡単な数理にトピックスを選んでお話をしていますが、その端緒は高等学校の「情報科目」の大学入試への採用にありました。

 意味が希薄である可能性が高く、やめた方がよい、というのが私の論点です。と言っても、通用しないことはあらかじめ分かってもいます。

 まず第一に、学習指導要領の縦割りによって「プログラミング」その他、実際にシステムを組んでいくうえで、本当に意味のある数理の話題などは情報科目で取り上げるのに限界がある。

 逆に、情報科目で本当に教えるべき内容は、大学入試などで問うてもほとんど意味がありません。最近の不幸な報道から、具体例でお話しましょう。

 静岡県警は6月10日、同県藤枝市の山中から、若い女性の遺体が発見された事実を発表しました(https://www.asahi.com/articles/ASL6B0FL5L69UTPB00B.html)。

 捜査の結果、この遺体は5月26日から行方が分からなくなっていた、県内の看護師Uさん(享年29)と判明。

 この被害者は、浜松市内のフィットネスクラブの駐車場で、複数の男に車で連れ去られる模様を防犯カメラが捉えており(http://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2018061202000094.html)、遺体発見後の6月11日、40代の男が本件に関して名古屋市内の警察に自首しました。

 次いで、東京都内で共犯とみられる20代の男が身柄を拘束され、本稿を執筆している13日現在、第3の共犯者が存在するとの報道があります。

 逮捕された40代と20代、2人の男には事前に面識がなく、また被害者ともやはり面識はなく、事件当日初めて会ったとの供述しているようです。

 容疑者2人は被害者が連れ去られた現場で、もう1人の男と話している状況が、やはり防犯カメラに映っており、警察は第3の男の行方を追っているという・・・。

 みなさんは5月26日の土曜日夕方、どのように過ごしていましたか?

 私の場合、電子メールで確認してみると社会学の上野千鶴子さんとやり取りをしており、またJBpressの「誕生日攻撃」の原稿を送信したのがこの土曜日であったようです。

 穏やかな週末の午後、買い物に出かけ、いつも使っているフィットネスクラブに寄って、さて帰ろう、と車に乗り込もうとした瞬間を、悪意の集団が狙っていて、いきなり自分の車に押し込まれた。

 自身の持っている車のキーで犯人が自家用車を運転して拉致、という手口も凄まじいものだと思います。

 しかしそれ以上に、このような方法で人をさらう犯罪を事前に全く面識のない複数の個人が、ネット上で知り合い、いきなり犯行に及ぶ経緯こそ、重視する必要があると思います。


通称「闇サイト」情報ネットワークは犯罪者の往来

 昨年の秋口に発覚した、神奈川県座間市で起きた連続殺人事件も「自殺サイト」で、見ず知らずの被害者(9人にも及ぶ!)と犯人が知り合い、短期間に信じられない数、最悪の犯行が続きました。

 この場合は、犯人と被害者が直接ネット上で出会って、事件に繋がってしまったわけですが、先ほどの看護師さんが遭遇した事件では、被害者はネットとは全く関係していませんでした。

 いつものように、リアルの世界で普通に生活していたところに、ネット上から凶悪犯罪の網がかけられていて、あろうことか自分自身の車を<凶器>に、拉致監禁、最悪の結末という、あってはならない犯罪が起きている。

 ネット上の世界を「バーチャル」仮想的な環境と呼びますが、このように「リアル」の世界と「バーチャル」が複雑に入り組んだ状況を「オーグメンテッド」拡張的な情報環境と呼んでいます。

 「オーグメンテッド・リアリティ」拡張現実感などという言葉は、メディアに上る多くのケースでは<さらに便利になる新しい技術と社会>といった、人工的にバラ色に染め上げられた、やや嘘くさい修飾が施されています。

 しかし、現実に起きていることははるかに複雑、かつ、悪質な犯罪なども枚挙の暇がありません。

 「闇サイト」については、今回の静岡の事件後、関連して報道されていると思いますが、2007年に「闇サイト殺人事件」が発生、今回の事件も、その模倣犯の可能性が指摘されています。

 2007年の事件は「闇の職業安定所」なるインターネット上のサイトで出会ったのは、いずれも消費者金融に数十万から数千万円の借金を抱えた、犯罪傾向の進んだ男3人でした。

 3人は、愛知県名古屋市内で、全く面識のない通行人の会社員女性(享年31)を金銭目的で襲い、愛知県内で殺害、岐阜県の山中に死体遺棄したという、あり得ない事件でしたが、11年を経て今回、同様の事件が発生しています。

 犯人3人は、1人が1971年生まれで犯行時36歳、執行猶予付き判決前科をもつ暴力団員で2015年に死刑執行済。

 「闇サイト殺人事件」2人目の犯人は1975年生まれで1998年、愛知県碧南市のパチンコ店に押し入り店長夫婦を殺害、現金6万円を奪って逃走していた未解決事件の犯人が、闇サイトを利用して他の加害者たちと知り合い、犯行に及んだというもので、犯行時は31歳。

 「闇サイト殺人事件」で無期懲役が確定して収監されていた刑務所内で、23歳のときに起こしていた碧南市の事件が割れ、こちらの事件で現在死刑判決を受け、最高裁の判断待ちという最低最悪の状態。

 ほかにも複数の連続強盗殺傷事件でも起訴されているという、救いようのない累犯傾向の進んだ人間も、私たちと同じネットワーク環境で、普通のサイトも、犯罪サイトもブラウズしている、そういう事実を冷静に認識するべきでしょう。

 「闇サイト」3人目の犯人は1966年生まれで犯行時40歳、妻と4人の子供がありましたが、借金で生活破綻、闇サイトの詐欺事件で前科一犯、犯行直前には住む家がなく、車で生活しながら闇サイトで収入を得ていた。

 暴力団員、過去に殺人事件を起こしながら逃亡中の犯人、借金で首が回らず即金になるなら何でもする状態の人間・・・。

 こんな人たちも普通にトラフィックですれ違っているのが、どの程度親に考えがあって与えているのかわかりませんが、スマートホンで子供たちが毎日アクセスしているネット環境の現実です。

 こうしたものから身を守る、生命線のような情報リテラシーこそ、一番重要な、学齢にあるあらゆる青少年に教育すべき重要なポイントだと私は考えます。

 数理のない「プログラミング能力」云々ではなく、最低限のまともな教育としての情報リテラシーを教える必要がある。

 まず危険に近づかないこと、また犯罪を犯そうとしても、これだけ情報化が進んだ中で逃げ切ることなどまず不可能である現実などを、犯罪傾向が進んだ青少年にも、より徹底して教え込むことが、本当の意味での「防犯」になるはずです。

無計画な「計画犯罪」
6万2000円で命が奪われていいのか?

 私がこの事件をよく覚えているのは、2007年8月、夏休みの終わりに、刑法の團藤重光先生と新書「反骨のコツ」を書いていた最中に、この事件が

計画され
実行され
発覚し

 何たることか、と思ったことに拠ります。

 2007年8月24日は金曜日で、この日「闇サイト」で出会った犯人たちは謀議して、同日23時過ぎに名古屋で被害者を拉致。

 明けて25日早朝に殺害、深夜に車を飛ばして岐阜の山中に死体を放置したのち、次の犯行などを相談しつついったん解散。

 この中で、怖くなってきた40歳の犯人が、減刑を目論んで同日午後1時過ぎに警察に自首して発覚したというもので、12時間前にはまだ被害者は元気だった。

 40代の犯人が、怖くなってきて自首というのは、11年を経た今回の浜松での事件と極めて並行的であるのに、今さらながらため息が出る思いです。

 何も学習していないのか、はたまた11年前の経緯を知って、自首すれば死刑にならないとでも思ったのか・・・。いずれにしても、ろくでもない現実と言うほかありません。

 11年前は、このような事件の全体を、ちょうど私は、お元気だった團藤重光先生の軽井沢の別荘をお訪ねし、「反骨のコツ」の原稿を最終的にアップする段階で知りました。

 1999年から大学で情報部署に属し、情報リテラシー教育に携わって9年目に入っていた私には、闇サイトの存在もさりながら、次々と報道される犯人たちのプロフィールというか、個人的に最も記憶に残ったのは、すべての犯人が私より年少、若い人たちだった事実でした。

 自分より後にこの世に生まれてきた連中が、1995年のインターネット民生公開の直後から存在した「闇サイト」の類をコンスタントに利用し、「ネット・コネクション」に十分に慣れた犯罪者として、こんな事件を起こしている。

 自分が大学の教壇に立って情報教育を教え始めてからの9年は、犯罪成長の9年でもあったのか・・・。

 中東のテロリストによる残酷犯罪動画が、ブロードバンド化しつつあったネットワークにアップロードされ、それを巡る情報倫理などのテーマに当時も私の研究室では取り組んでいました。

 技術の先端よりはるか手前、文字だけのやり取りがネットで始まった直後から、犯罪サイトは延々続いており、すでに四半世紀に及ばんとする蓄積すらできてしまっている。

 現在小中学校、あるいは高等学校に在学する、あらゆる児童生徒にとっては、彼・彼女がこの世に生まれた瞬間からすでに「闇サイト」が存在し、犯罪ノウハウが悪質化し続けている。

 そういう現実をきちんと教え、身を守ること、あるいは犯罪に手を染めさせないことの方が、どれだけ教育上、重要かつ喫緊であるか。いくら強調してもし過ぎることはないと思います。

 20年前の「2チャンネル」ネット落書きであればインターネットは匿名メディアという主張も一定の範囲で成立し たかもしれません。

 私は当時も今も変わらず、大学の情報公開ガイドラインでは、一貫して、実名発信原則、リアルな社会と同じ責任意識をもって、情報ネットワークにコミットする重要性を教えてきました。

 いまや、システムのトレーサビリティは飛躍的に向上し、ネットないしスマホやラインなどでやり取りした内容は、ほぼすべて警察など捜査当局がログを押さえ、個人の特定率も極めて高くなっています。

 「インターネットは匿名の文化」と主張される便所の落書き的愉快犯の自己正当化は、すでに通用する話ではありません。

 11年前、「闇サイト殺人事件」で犯人が手にしたのは、6万2000円程度の現金と、ウソの暗証番号を聞き出したカード2枚だけだったそうです。

 お金ならあげるから自由にしてほしいという被害者に対して、顔を見られた、と残酷な犯行に及んだ犯人たちは、遺体を山中に放置して逃げ去る程度に刹那的、衝動的、頭は何も働いていない「無計画な計画犯罪」で、こんな被害にあってはたまったものではありません。

 国の基本は人、人材育成にあり、人材育成の根幹は教育にあります。その教育がこの20年ほど、これほど空洞化するとは、正直申して大学着任直後の1999年には想像もしていませんでした。

 できること、目の前の一つひとつから、実の詰まった、中身のある、また物事の正邪や人のあるべき人倫などを自ら考えさせる、まともな教育に戻して行かねばと心から思います。

筆者:伊東 乾

JBpress

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