初夏から梅雨に咲く“透明の花”「サンカヨウ」とは

2023年6月20日(火)5時10分 ウェザーニュース

2023/06/20 05:00 ウェザーニュース

初夏から梅雨どきにかけてを代表する花といえば、まずアジサイが挙げられますが、最近、雨水などの水分を含むと花びらが透明に見えるという、「サンカヨウ(山荷葉)」に注目が集まっています。
サンカヨウの美しく幻想的な花姿の写真は、多くの人がSNSにアップしたり、ウェザーニュースへもユーザーから多数寄せられたりもしています。
なぜ花びらが透明になるのか、サンカヨウという植物の特徴と不思議さについて、日本花の会研究員の小山徹さんに解説していただきました。

スケルトンフラワー」の別名も

この時季はアジサイが、気象庁が桜同様に開花日を発表するなど、おなじみの存在になっています。けれど、サンカヨウは「知らない、見たこともない」という人も少なくありません。
「まず、サンカヨウという植物について説明しましょう。
学名は『Diphylleia grayi』といい、ギリシャ語のdis(2つの)+ phyllon(葉)の合成語と、アメリカ人植物分類学者エイサ・グレイの名にちなんでいます。
メギ科サンカヨウ属の多年草で、和名は山荷葉。荷葉とはハス(蓮)の葉の意味ですので、“山に生えるハスに似た葉の植物”が由来でしょうか。
透明な花びらから『ガラス花』『スケルトンフラワー』の別名もあります。サンカヨウは知らなくとも、スケルトンフラワーは聞いたことがあるという人は多いかもしれません。
サンカヨウの花が咲く時期は地域にもよりますが、5〜7月頃。そのうちの1週間ほどとされています」(小山さん)

高山植物の一種で高温多湿の環境に弱い

サンカヨウはアジサイのように、比較的容易に出合える植物なのでしょうか。
「サンカヨウは高山植物の一種で、街なかなどに植栽されているものではありません。自生のサンカヨウは世界的にも珍しい存在で、日本の本州中部から北海道にかけてと、ロシアのサハリン(樺太)にも分布しています。
尾瀬ヶ原(福島・群馬・新潟県、標高約1400m)や志賀高原(長野県、約1300〜2300m)のような標高が高く、涼しい山地から亜高山帯(1600〜2400m)にかけて自生しているので、寒さには強いけれども高温多湿の環境には弱いという特徴があります。
草丈は30〜70cmほど。花径は約2cm。6枚の花弁(花びら)をもつ小さな白い花を、数輪固まって咲かせます。切れ込みのある大きな葉と小さな葉を広げ、花は小さな葉に咲きます。
花が終わってまもない花後(はなご)のときに、濃い青紫色のブルーベリーに似た実をつけます。実は甘く、食用にされることもあります。
サンカヨウの花ことばは、『親愛の情』『幸せ』『清楚な人』です」(小山さん)

なぜ透明になるのか?

小さな白い花を咲かせるサンカヨウ

サンカヨウは雨に濡れると白い花が透明になるといい、不思議な雰囲気の写真をSNSなどでよく目にします。
「実はサンカヨウは、ただ濡れるだけでは透明化はしません。開花時に、長時間にわたって自然降雨などが続き、低温高湿状態になったときに“花びらが透けることがある”というのが実際の状況です。
雨の降る日にサンカヨウの花を見つけても、花は透明にならず白いままというケースも少なくありません。サンカヨウの花びらは衝撃に弱く、雨が激しすぎればすぐに落ちてしまいます。
開花する1週間と長雨の時期がちょうど一致することなども含め、さまざまな自然条件がそろったときでないと、透明なサンカヨウに出合うことは難しいといえます」(小山さん)
それでは自然条件がそろったとき、サンカヨウの白い花はなぜ、透明に変わるのでしょうか。
「実はサンカヨウに限らず、白く見える花は白色の色素をもっておらず、実際の花びらは透明なのです。ところが、この透明な花びらの細胞にはたくさんの小さな空気の泡が含まれています。この泡が光を乱反射するため、普段人間の目には白い花に見えるのです。
雨が降るとその水分が花の細胞の中に入り込み、光の乱反射が起きにくい状態になって、サンカヨウの花びらは本来の透明な状態に見えるようになります。
身近な例では、透明な石けん水を泡立てると白く見えたりします。また、透明なラップを丸めると白く見えますが、水に入れると透明に戻るのも同じ原理です。
ですからサンカヨウに限らず、条件がそろえば白い花は透明に見えることがあるのです」(小山さん)

開花まで3〜4年、自家栽培もできる?

サンカヨウを自分で栽培することは可能なのでしょうか。
「不可能ではありませんし、種子や苗も販売されてはいますが、サンカヨウが自生しているような冷涼な気候ではないところでの栽培は、簡単ではないことを大前提として考えておいてください。
そのうえで、直射日光の当たらない、風通しのよい場所で育ててください。サンカヨウはもともと山野の樹木の下に自生しているために、環境の変化に弱く、日に当たりすぎると枯れてしまうことがあります。また、暑さに弱いので注意してください」(小山さん)
具体的にはどのように育てればいいのでしょうか。
「サンカヨウは6〜9月が種まきの適期です。浅鉢に小粒の赤玉土など種まき用の土を入れ、種をまいて薄く土を被せます。発芽するまでの約1年間、土が乾かないよう水やりをして室内で管理する必要があります。
うまく発芽して本葉が1枚生えたら、生育のよいものをそれぞれ育苗ポットに植え替え、2枚ほどになったら鉢や地面に植え替えます。生育期である4〜9月になったら、大きめの鉢か地面に植え付けます。地植えは樹木の下など、半日陰〜日陰になる場所を選んでください。
サンカヨウは花を咲かせるまで3〜4年かかるので、気長に育てましょう」(小山さん)
透明化しない状態でも、サンカヨウはうっとうしい梅雨の時期に見られる、希少な白花の可憐な山草です。この時期にしか見られない自然がつくりだす造形を楽しんでほしいと、小山さんは言います。
たとえば長野県の公式観光サイトにはサンカヨウの見どころとして、志賀高原のほか、栂池自然園(小谷[おたり]村)、野沢温泉スキー場(野沢温泉村)が紹介されているなど、ホームページにスポット案内を掲載している自治体・博物館などもあります。
3〜4年後を楽しみに、根気よくサンカヨウの自家栽培に挑んでみてはいかがでしょうか。

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