「森友・加計問題」朝日新聞記者はどのようにして“事実”に迫ったのか

7月14日(土)7時0分 文春オンライン


『権力の「背信」 「森友・加計学園問題」スクープの現場』

(朝日新聞取材班 著)


 国会での森友学園と加計学園の追及は、もういい加減にしてほしいと思っている人も多いことでしょう。しかし、森友学園問題の端緒を思い返すと、不可思議なことが連続していたことがわかります。


 きっかけは朝日新聞大阪本社豊中支局にかかってきた一本の電話。豊中市の国有地がある学校法人に売却されたらしいが、「財務省が売却価格を公開していないんです。何かおかしくありませんか」という。


 電話を受けて朝日新聞記者の取材が始まる。「近畿財務局のホームページを見ると、過去三年間の売却案件で金額が非公表になっていたのは森友学園だけで、ほかはすべて公表されていた」。


 となると、どう見ても不自然です。国有地は国民の財産。それを売却するのであれば、売却価格も含め全てをオープンにするのは当然のこと。非公表にしているのには、何かやましいことがあるに違いない。


 こんな常識的な発想から、森友学園問題の取材は始まりました。この原点に立ち返れば、森友問題の真相解明を求めるのは当然のことです。


 財務局は売却価格を公表しようとしませんが、問題の土地の登記情報を見ると、「買戻特約 売買代金一億三四〇〇万円」との記述があります。買戻特約とは、いったん売った土地が本来の目的に使われていなかったことが判明した場合、売った価格とほぼ同額で買い戻しできる契約のこと。この記述で、明らかにされなかった売却価格が判明します。


 ところが、周辺で取材すると、通常なら一〇億円はするだろうという証言が得られます。差額はどうして生まれたのか。時価より安い価格で売却したので金額を公表できなかったのではないか。かくして「森友学園問題」の発覚です。新聞記者が、どのようにして事実に迫っていくか、その内側を描いたのが本書です。


 取材が進むにつれ、森友学園による補助金不正受給の容疑が高まります。いつ大阪地検特捜部が強制捜査に乗り出すか。記者たちは大阪地検の動きを追います。すると、学園が運営する塚本幼稚園の周囲に検察事務官が二人一組で二台の車に分かれて張り込んでいるのを発見。別の日には折り畳み自転車に乗ってグルグル走り回る事務官を目撃。なるほど検察はこうやって関係者の行動確認をしているのかとわかります。まるで推理小説です。


 やがて財務省の決裁文書が書き換えられていた事実を掴み、一面トップで「森友文書 書き換えの疑い」と特ダネで報じます。これには財務省が右往左往。すると「朝日新聞は、記事が誤りではない証拠を示せ」という論調が高まります。財務省ではなく朝日を追及するネット記事が出る始末です。問題は財務省なのに。


 一社だけの特ダネで、他社が追いかけることができない状態を「一人旅」と称します。朝日は特ダネを書いたがゆえの孤独に悩みます。


 そして加計学園問題。こちらも朝日新聞のスクープが大きな流れをつくります。ただし、加計学園に関してはNHKも特ダネを連発。テレビを見ていた朝日のデスクが「ひっくり返りそうになった」という生々しい描写が出てきます。


 その一方、官邸から圧力があったことを証言しようとした前川喜平前文科事務次官を“信頼できない人間”として描く読売。朝日のライバル各社のスタンスの違いが明確に出てきます。報道機関の内幕を描いた作品は、こんなところが面白いのです。




(池上 彰)

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