岡田光世「トランプのアメリカ」で暮らす人たち セントラルパークの自動車修理工(下)

7月16日(日)14時0分 J-CASTニュース

ニューヨークのセントラルパークの池で遊ぶ親子

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「日本は憲法を改正して、自分の国は自分で守るべきだ」

ニューヨークのセントラルパークで、たまたま同じピクニックテーブルに座った男性(38)は、そう主張した。



「トヨタよりフォードで働きたい」



彼はコロンビア大学で物理学を専攻し、放射線技師として大学の研究所で働いていたが、失業し、今は自動車修理工をしていると言った。


「友達はみんな、トヨタの車を持っているよ。僕の車はフォードだ。決まってるだろ。トヨタは絶対に買わない。できたら、フォードで働きたい。自動車の開発に関わりたいんだ。燃料にアルコールやピーナッツオイルを使うとかね。
トヨタの技術は素晴らしい。羨ましいくらいだ。フォードはトヨタとは競えない。50年後にはもう存在していないかもしれない。でも、トヨタは日本の会社だから、絶対に働かない。日本人というより、国としての日本が嫌いなんだ」。

理由を聞くと、子供の頃、彼をかわいがってくれた高齢の男性について話し始めた。


「その人が、『バターン死の行進』(Bataan Death March)の生存者だった。日本がアジアでどれだけひどいことをしてきたか、聞かされたよ」


 

第2次大戦中、フィリピンのバターン会戦で日本軍に投降したアメリカ軍・フィリピン軍の捕虜約8万人が、炎天下の過酷な状況で捕虜収容所まで歩かされ、多くの死者が出た。


 

捕虜の数が想定をはるかに超えたため、当初計画したようにトラックで移送できず、食糧や水も不足していた。すでに捕虜の多くが飢えやマラリア、赤痢で苦しんでおり、日本兵の暴行や残虐行為などもあって、収容所での死者を含むとその数は3万人ともいわれる。



当時の責任者は戦後、処刑され、岡田克也外相(当時)などが謝罪している。「バターン死の行進」がいかに残虐だったか、これまで何人ものアメリカ人が私に語った。


これに対し、「護衛の日本兵も歩き、多くが死んだ。長距離の徒歩での移動は日本兵にしてみれば常識で、捕虜を殺すつもりはなかった」、「捕虜になるのは恥と日本兵は教え込まれていたため、捕虜に対する人道的な意識に欠けていた」といった声がある。



「日本もイスラム教徒を受け入れたらどうだい?」



私は男性に言った。


「当時、日本人が多くの人を苦しめたことは、本当に申し訳なかったと思う。あなたは過去に日本がしてきたことで、日本が嫌いだと言うけれど、今の日本を見てほしい。戦後の日本はアメリカのように、戦争を起こしたり加担したりしていないわ」

「それは、戦後の占領下で作られた憲法に縛られているからだろう? 日本人にはもともと、戦士の血が流れている」

「日本もひどいことをしてきた。でも、だからといって、あなたは原爆を正当化できるの?」
と私が聞いた。当時10歳だった私の義母は、広島の原爆で両親と兄を一度に失った。


「できる」。即答だった。


「原爆を落とされたくなかったら、真珠湾を攻撃するな」

「原爆は核兵器で、しかも一般市民を殺したのよ」

「君たちはアメリカ人を殺した。負け惜しみを言うな。僕は自分の国が原爆投下したことを、謝る気はない。戦争は地獄だ。戦争は悪の海だ(War is hell. War is an ocean of evil.)」


原爆を正当化するアメリカ人は年々減りつつあるものの、2015年のギャラップ調査によると、今も全体の56%を占める。その割合は、共和党支持者では74%と、民主党支持者の52%を大きく上回っている。


 

2017年7月7日、核兵器禁止条約がニューヨークの国連本部で採択された。しかし、米国など核保有国は、「安全保障環境の現実を明らかに無視している」と強く批判した。
米国の核に守られている日本は、唯一の戦争被爆国でありながら、会議に参加すらしなかった。


 

トランプ大統領はこれまでインタビューなどで、「過激派組織「『イスラム国(IS)」』がアメリカを攻撃してきたら、核兵器使用もあり得る」、「核兵器を持っているなら、なぜ使えないのか」といった発言をしてきた。


セントラルパークで出会った自動車修理工の男性は、トランプ氏を支持している。


「日本はアメリカを非難する前に、自分の国でイスラム教徒を受け入れたらどうだい? イスラム教は政治的な宗教だ。とくにシリアからは、誰もアメリカに入ってきてほしくない」
と淡々と話す。


過激派組織「イスラム国」に対する核兵器使用について、男性はどう思っているのか。


最後まで私が聞けなかったのは、彼の返事を知りたくなかったからかもしれない。



(随時掲載)





++ 岡田光世プロフィール

岡田光世(おかだ みつよ) 作家・エッセイスト

東京都出身。青山学院大卒、ニューヨーク大学大学院修士号取得。日本の大手新聞社のアメリカ現地紙記者を経て、日本と米国を行き来しながら、米国市民の日常と哀歓を描いている。文春文庫のエッセイ「ニューヨークの魔法」シリーズは2007年の第1弾から累計35万部を超え、2016年12月にシリーズ第7弾となる「ニューヨークの魔法の約束」を出版した。著書はほかに「アメリカの 家族」「ニューヨーク日本人教育事情」(ともに岩波新書)などがある。



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