日本製品不買、LCC運休……韓国在住記者が見た「対韓輸出規制」のリアル

7月26日(金)11時0分 文春オンライン

 韓国が四面楚歌になっている。


 24日、WTOで日本の輸出規制強化を巡る日韓の論戦が繰り広げられるさなか、中ロ合同の飛行訓練中、ロシアの軍用機が竹島領域(韓国では独島領域)を侵犯したとする韓国側の主張をロシアが否定し、むしろ、韓国がロシア軍用機の飛行航路を妨害したと主張した。そこへ、中国がTHAAD(高高度ミサイル防御)配置問題を再び俎上にあげ、ロシアとの合同訓練は国際法違反ではないと反発。



文在寅・韓国大統領 ©Getty Images


 さらには、この日は米国のボルトン大統領補佐官が「インド太平洋戦略」をひっさげて訪韓もしていたが、日韓の仲裁はしないとつれなく韓国を離れた。


 それから1日も経たない25日未明には、今度は北朝鮮が米韓の合同軍事訓練に反発する格好で、短距離ミサイルと見られる飛翔体を発射。韓国政府は、これを新しい種類の弾道ミサイルだと分析。



 韓国紙(中道派)の記者は一連の動きにこう嘆息する。



「ひとつひとつ解決していくしかないのでしょうが、連日の“事件”でこれほど宿命的な地政学的不利を感じたことはない」


輸出規制に対する、韓国の日本研究者たちの発言は?


 さて、韓国が猛反発している日本による韓国への半導体材料3品目の輸出規制強化について。


 韓国では、先の参議院選挙も、その結果が輸出規制強化の行方を左右するかもしれないから、と翌日の朝刊一面トップで報じるなどこのところ日本関連ニュース一色だった



 それならば、韓国では「反日」というひとつのフレームで熱く語られているだろうと思うかもしれないが、それも昔の話。輸出規制強化についての分析や解決策は百家争鳴の体だ。どんな話が出ているのか、一部、韓国を代表する日本研究者の発言を引いてみよう。


「今回の日本の措置(輸出規制)は(制裁もできるという)シグナルだ」とするのは国民大学の李元徳教授だ。李教授は、徴用工問題の解決は国際司法裁判所(ICJ)で、と主張する「ICJ論者」として知られる。



 進歩系のハンギョレ新聞とのインタビュー(7月17日)では、「韓国も長い間、策を講じなかったことには問題がある」と徴用工問題における韓国政府の対応の非も認めながらも、「(日本の)経済報復は自らの原則に違反する卑劣なこと。過去史問題は日帝の植民地に始まる不幸だ。誰が加害者で誰が被害者というのはどんな状況であっても変わらない」と指摘。


 そして、「今回の措置の核心にあるのは徴用工問題。そのため、この問題に双方が合意できる解決を準備することなくして、よい対応策はない」と徴用工問題の早い解決を促した。


「韓国政府が含まれない措置は、日本が受け入れる可能性は低い」


 日本の政治家にも知己がいることで知られるソウル大学国際大学院の朴喆熙教授はは中央日報への寄稿(7月19日)で、「(韓国では)日本は不法な行為(植民地支配)をした加害者だから、謝罪・反省・補償をしなければ懲らしめてもいい(という見方がある)。(日本の右翼は)韓国をいまだに大国・小国のフレームで見る。過去史への反省を要求すると小国の甘えとして度重なる謝罪要求へ疲労感を訴える」と互いの無理解と誤解、錯覚に葛藤の根があると解説。



「(回答を留保したりして)持続的に対峙する局面を作っていくのは賢明ではない」として、「なにより強制徴用工判決について(韓国)政府は後続の処置を真摯に考慮してみるタイミングになっている。どんな形態であれ、韓国政府が含まれない措置は日本が受け入れる可能性は低い」と1+1+α(日韓企業+韓国政府)の財団の設立を示唆した。


輸出規制は「朝鮮半島平和プロセスから外された日本のアピール」


 そして、今回の輸出規制は複合的で、「(韓国は)実質の脅威よりも強度を強く見ていて、強制労働問題に限定して圧迫されていると解釈しているが、実際はそうではない。日本は軽い制裁から始めていて、そこにはさまざまな意味合いが含まれている」とソウル新聞とのインタビュー(7月18日)で話したのは、ソウル大学日本研究所の南基正教授だ。


 南教授は今回の日本による韓国への輸出規制強化は、「強制労働問題だけでなく、朝鮮半島平和プロセスから外された日本がその存在感を刻印するためのもの」で、「日本を通さずして南北和解はないというメッセージ、今後の南北関係のブレイカー的役割をするという意思表明である」とした。これは、2017年に日本で行われた日米の安保会議「富士山会合」の戦略報告書でも明らかになっていると主張している。


 そして、日本研究者ではないがこんなコラムも。「ああ、そうだよ、私は親日だ」と言ってのけたのはソ・ミン檀国大学医科大学教授だ。進歩系の京郷新聞上の連載コラムで、「この経済戦争で日本よりわれわれがより大きな損害を被るのは確実だ。だから、(韓国)政府は自尊心をちょっとおろして交渉すべき」と歯切れが良かった。



 外交関係者によると、「こうした専門家の意見を吸い上げて、青瓦台でもあらゆるシミュレーションをしてさまざまな解決策が机上に並べてある」といい、「最終的には文在寅大統領の決断」と話していた。


韓国在住記者が見た、日本製品不買運動のリアル


 政治の問題は民間にも及び始めている。当初こそ様子見の雰囲気があった「日本製品の不買運動」はここに来て小売業者から宅配業者まで広がりを見せている。



 ただ、よく売り上げ激減の例に挙げられる日本のビールは、商品そのものは一部のスーパーを除き普通に店頭においてある。コンビニの棚にもアサヒ、キリンがしっかり並んでいた。コンビニ店の店主は、「一部の運動家が騒いではいますけどね。売れるものを売らない店はないでしょう。輸出規制には腹が立ってもそれと商売は別。不買だなんて時代錯誤もいいかげんにしてほしい」とやや困った表情だった。


 また、日本旅行のキャンセルが続いていると報道され、日本行きのLCCも一部運休が報じられている。最近では、「日本に旅行に行っても大丈夫か」と訊かれることも多くなった。実際に、20代の知り合いも大阪行きをキャンセルしたそうで、「そんなことはないと言っても、日本に行ったら嫌な目に遭うのではないかと母が心配するので、今回は旅行先を台湾にかえました」と話していた。


 その一方では、毎年日本の地方を旅行している50代の知り合いは夏の北海道旅行もそのまま予定しているという。ただ、「今回はこっそり行こうかと。インスタグラムにも絶対に写真は載せない。『ボイコット ジャパン』なんて騒ぐ人がいる中で、とやかく言われるのは面倒くさいですから」と苦笑いしていた。



新天皇即位までに特使を派遣?


 日本が韓国を「ホワイト国から外す」ことへの意見公募も24日に締め切られ、韓国では「8月初めにも決定される可能性が高い」(中央日報7月25日)と戦々恐々とした雰囲気だ。韓国の李洛淵国務総理は25日、「事態をこれ以上悪化させずに外交協議を通じて解決策を見出そう」と日本政府に呼びかけた。


 また、長峰安政駐韓日本大使が韓国の国会外交統一委員長に、「10月22日の新天皇の即位儀式(10月22日)のまで特使を日本に派遣すれば韓国も祝賀使節団を送れるのではないか」という趣旨の話をしたと韓国で報道された。これを受けて、「韓国では10月が問題解決の期限とする見方も浮上している」(韓国紙記者)というが、長峰大使は発言自体を否定している。



 いずれにしても、日本の今回の輸出規制強化は、韓国経済を揺さぶった。サムスン電子の李在鎔副会長は日本の発表を受けてすぐに日本に飛んだが、企業であるからには生き抜くためにどんな策でも練りぬくだろう。日本がだめなら、別の国から調達するにしろ、韓国内で国産化するにしろ、時間はかかっても日本離れが進むかもしれない。


8カ月もの間、立場を明らかにしなかった韓国の不可解な対応


 今の日韓関係は「戦後最悪」ともいわれる。日韓関係においてはこれまでも何度も最悪という言葉が使われてきたが、今までとは少し様相が異なっているようにも思う。


 今回の日韓の葛藤は、徴用工問題を巡り韓国が8カ月もの間、立場を明らかにしないという不可解な姿をとったことで韓国の中の日本の存在感の低さが露わになったことから膨らんだ。この葛藤は1965年の日韓基本条約で、曖昧にして、眠らせていた「日本の植民地が合法か否か」を巡る論争が本格的に頭をもたげるような、ターニングポイントになるかもしれない。 


 それにしても、実に久しぶりに韓国で日本が“注目”を浴びた感が。


 日本の思惑がそこにあったとするならば成功したのかもしれないが、なんとも後味の悪いやり方だ。「日本に旅行に行っても大丈夫」などと訊かれるようなことは早く過ぎてほしいのだが。



(菅野 朋子)

文春オンライン

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