捜査当局は怒り心頭「海底で骨片発見」新聞各紙の“フライング”報道

7月28日(火)18時0分 文春オンライン

 2002年7月31日に福岡地裁小倉支部で開かれた、松永太と緒方純子を被告とする第2回公判が終わったことで、この事件を取材する記者たちの関心は、捜査本部がこれから誰に対する殺人容疑での再逮捕を行うかということに向けられた。


 そこで有力視されていたのが、監禁被害者の少女・広田清美さん(仮名)の父・広田由紀夫さん(仮名)と、緒方のめい(妹の長女)の緒方花奈ちゃん(仮名)だった。


「海底で骨片発見」殺人容疑の新聞記事


 福岡県警はすでに同年3月15日に由紀夫さんに対する殺人容疑で、また同5月9日から19日まで花奈ちゃんへの殺人容疑で、北九州市小倉北区の『片野マンション』(仮名)を家宅捜索している。そうしたことから、両者のうちどちらかへの殺人容疑で、逮捕状が請求されるのではないかと見られていた。


 メディアによる水面下での攻防が続くなか、状況が大きく動いたのは9月2日から3日にかけてのことだ。まず2日に共同通信が、松永と緒方がめい(花奈ちゃん)殺害で立件へという第一報を配信した。そして翌3日の朝刊で、西日本新聞と毎日新聞(西部本社版)が次のような見出しの記事を出したのである。


〈小倉の少女監禁 殺人容疑 2被告逮捕へ 海底で骨片発見 県警 父か被告のめい?〉(西日本新聞9月3日朝刊)



西日本新聞2002年9月3日朝刊


 これは、捜査本部が由紀夫さん(当時34)と花奈ちゃん(当時10)が殺害されたとの疑惑に関して、松永と緒方を同月中旬にも殺人容疑で再逮捕する方針を固めたとの記事で、〈少女(※筆者注:清美さん)の供述に基づき大分県国東半島沖の海底を捜索、人骨とみられる骨片などを押収しており、こうした間接証拠の積み重ねによって殺人容疑を立件する方針で、「遺体なき殺人事件」は三月七日の監禁事件発覚から半年で大きく動き出す〉(同記事より)とある。この記事では、清美さんの供述を裏付けるため、〈七月下旬から八月上旬にかけて少女が緒方被告とともに乗船したという大分県国東半島にあるフェリーふ頭近くの海底を捜索。捜索は少なくとも三回行われ、海底から人骨とみられる骨片など多数を発見、押収した〉(同)と書かれていた。


次々と各紙が“とばし”記事を報道


〈松永・緒方被告、めい殺害を立件 容疑で再逮捕へ 通電重ね衰弱死〉(毎日新聞〔西部本社版〕9月3日朝刊)


 こちらの記事では、〈18歳少女(※筆者注:清美さん)が2被告に強要されて書いた「平成10年6月7日にめいを殺害した」との内容の念書や、同マンションに女児が監禁されていた様子を写した写真を多数押収しており、少女の証言は具体的で信用できると判断した〉(同記事より)とあり、西日本新聞が〈父か被告のめい?〉としたのに対し、立件される事件は〈めい〉へのものだと特定している。


 なお同紙の同日付夕刊では、西日本新聞朝刊に出た海底捜索について追いかけている。


〈北九州・小倉北区の監禁事件 大分沖海底で骨片?採取 DNA鑑定実施——捜査本部〉(毎日新聞〔西部本社版〕9月3日夕刊)


 同記事では、捜査本部が大分県国東半島沖の海底を捜索し、骨片らしきものなど、100点以上を採取していたことがわかったと、情報が詳細になっていた。


 また、朝日新聞と読売新聞も同日の夕刊で以下の見出しの記事を出している。


〈小倉監禁事件 めい殺害容疑 再逮捕へ福岡県警 海底回収物を分析〉(朝日新聞〔西部本社版〕9月3日夕刊)


 この記事では、清美さんの証言として、殺害された花奈ちゃんの遺体を緒方と切断して、〈容器に入れた上で大分県国見町と山口県徳山市を結ぶフェリーから海上に投棄したと話しているという〉(同記事より)と書いており、〈このフェリーに少女を乗船させた上で実況見分し、遺体投棄海域をほぼ特定。7月下旬〜8月上旬に地元の底引き網漁船などを使って海底を捜索した〉(同)と、かなり踏み込んだ内容である。


〈北九州の少女監禁事件 国東沖海底から骨片 証言と一致、不明の姪?鑑定へ〉(読売新聞〔西部本社版〕9月3日夕刊)


 同記事では〈七月上旬から八月にかけ、竹田津港から山口県・徳山港に向かう「周防灘フェリー」の航路を中心に、数回にわたって海底を捜索した〉(同記事より)と、フェリー会社名を記し、捜査本部が同社から花奈ちゃんが死亡したとされる時期の、乗船切符の任意提出を受けたことに触れられていた。


 なお、これはしばらく後に明らかになることだが、押収された骨片のなかに、広田由紀夫さんや、花奈ちゃんを含む緒方家親族のものと見られるものはなかった。また、フェリー会社から乗船名簿は任意提出をされていたが、緒方と清美さんが乗った時期よりもあとに、台風によってフェリー乗り場もろとも水浸しの被害に遭っており、名簿はボロボロのうえに文字も滲んでいて、判読は難しい状態だったという。


“フライング”報道に、捜査当局は怒り心頭


 前述の“フライング”ともいえる記事が一斉に出たことに、捜査当局は怒り心頭だったようだ。とくに9月4日になって、とある全国紙が西部本社版の朝刊で〈北九州市の監禁事件「不明親族6人は殺害」少女証言、緒方被告ら98年に〉との記事を掲載し、緒方家の親族6人の顔写真を掲載したことに対しては、強く反応した。


 福岡地検の幹部は司法担当記者による取材に、不機嫌な表情で次のように答えている。


「なんなのあれは? 知らないよ。どうするの? 誰が責任取るの? すべて事件になるの? 公判になったらどうするのかね? 骨があったとしても、なんの骨かわからないじゃないか。県警さんもいまごろ大変なんじゃないかな、(情報リークの)犯人探しで」


 こうした紆余曲折を経て、捜査本部が実際に逮捕に動いたのは、立件についての報道が出てから2週間近くを経た9月18日のことだった。


緒方花奈ちゃん(当時小学校5年生相当)を殺害した容疑で逮捕


 逮捕罪名は殺人で、被害者は緒方花奈ちゃん(当時小学校5年生相当)。松永は当日の午後4時17分、緒方は午後5時2分に通常逮捕されている。


 当時、福岡県警が広報した逮捕事実は次の通りだ。


〈被疑者両名は、被害者を殺害することを共謀し、平成10年(1998年)6月7日ごろ、北九州市小倉北区片野×丁目のマンションの一室で、被害者の体に電気コードの電線に金属製クリップを取り付けた道具を取り付けて通電させ、そのころ同所において、感電死させて殺害したものである〉


 この逮捕を受けて、捜査本部が置かれた小倉北署では、午後6時から記者会見が開かれた。そこでは冒頭、逮捕時の弁解録取書の内容について説明され、松永は「否認します」、緒方は「読んでもらったのは嘘です。黙秘します」と答えていたことが明らかになった。


 現時点で動機は不明だが、発生から半年を経ての逮捕の決め手は、少女(清美さん)の供述で、彼女は非常に記憶力が良く、話している内容の信憑性が高いこと。物証はかなり押収しており、証拠品については、被疑者が黙秘しているため、具体的には言えないとのことだった。


 また、花奈ちゃんの遺体が遺棄されたのは事実で、大分県内の海上に投棄されていた。殺人について少女は実行に加担せず、花奈ちゃんが死亡する前後の状況から、少女が確実に目撃していると判断するに至ったという。


花奈ちゃん殺害について福岡県警質の疑応答


 以下、質疑応答の内容については、Q(記者)&A(福岡県警)のかたちで記す(一部抜粋)。


Q「殺害は(平成10年)6月7日の何時頃ですか?」


A「夕方頃と思われます」


Q「死亡の確認はどのように?」


A「いままでの捜査で、生存の可能性がないという裏付けを取った。それこそ全国の学籍名簿などを調べたり、膨大な捜査を積み重ねた結果です」


Q「殺意の認定はどういうことで?」


A「実行行為の前後にそうした言動がありますが、具体的な文言は公判で」


Q「他の親族での再逮捕の可能性は?」


A「まず、今回の被害者が少女の証言としていちばん具体的だった。他の親族については不明確ですが、全容解明を目指します」


Q「他の親族の生存の可能性は?」


A「捜査を継続中なため、断定的には言えません。不確定なことは言えません」


Q「通電の目的は?」


A「殺害するかなり前から通電行為はあり、少女は目撃していますが、原因や理由はわかりません」


Q「犯行現場マンションではいつ誰が同居していましたか?」


A「一時的な同居は概ね平成9年4月から平成10年6月頃まで親族6人でいたようです。そこには花奈ちゃんの両親もいました」


Q「6月7日以降、親族はいなかった?」


A「被疑者と一緒に居たのは認められません」


Q「6人が一緒に居たのはいつまで?」


A「確定できていません」


Q「平成9年4月頃に6人が『片野マンション』(仮名)で同居していたというのは、どのようにしてわかったのですか?」


A「ほとんどが少女の供述です。その他、目撃者もいます」


Q「少女はいつから証言するようになりましたか?」


A「今年6月頃から話し始めています」


Q「遺体の損壊はどこで行われていますか?」


A「損壊の現場については今回の逮捕容疑とは関係ないので言えません」


Q「共謀とした理由は?」


A「どちらも黙秘、否認なので、現段階では言えません。ただ、ふたりとも共同実行しています」


Q「通電以外の暴行は?」


A「不明です」


Q「通電の器具を作ったのは?」


A「作ったのは松永です」


Q「同種のコードが多数押収されていると聞きましたが」


A「特定はまだです」


 これらの質疑応答を経て、同日の会見は終了した。とまれ、これを機にいよいよ捜査本部は、松永と緒方の殺人を追及する段階に入ったのである。


(小野 一光)

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