女性が性差別についてSNSに書き込んだだけで品物送りつけ被害、脅迫、レイプ予告

7月29日(水)7時0分 文春オンライン

 ネット上のハラスメントや攻撃にはいくつかのパターンや共通点がある。中でも、近年、性差別や性被害、ジェンダーにまつわる発信をする女性に対するハラスメントが横行している。


 具体的な被害の実態はどこまで深刻なのか。『 足をどかしてくれませんか。 メディアは女たちの声を届けているか 』(2019年12月24日発売、亜紀書房)より、『Business Insider Japan』の記者らが取材したケースを紹介する。


◆ ◆ ◆


頻発する品物の送りつけ被害


 2019年2月。ネット上の嫌がらせから注文していない品物の送りつけ被害にあったという女性政治家や女性弁護士たちが記者会見を開いた。会見に参加した7人に共通していたのは、発言者が女性であったこと。そして性差別や性被害、ジェンダーにまつわる発言がきっかけだったのではないか、ということだ。



©iStock.com


 例えば、弁護士の太田啓子さんはその会見でこう発言している。


「品物の送りつけ被害に遭ったのは、性差別や性暴力について発言したり、メディアに出たりするようになった頃から。憲法について考える『憲法カフェ』などの取り組みをやっていた時にはこうした被害はありませんでした。


 Twitterでも改憲や政権批判をするより、ジェンダーについて投稿するほうが多くのバッシングがきます。女性が性差別について物を言うと、やっぱり嫌な思いをするんだろうなと」


 これは私(浜田)自身も経験がある。


 これまで執拗にTwitterで絡まれたときは、財務省元事務次官のセクハラやフォトジャーナリストの広河隆一氏の性暴力について言及したときだった。特に広河氏の際には、彼が「リベラル」を標榜していただけにタチが悪い、政治的にはリベラルでもジェンダーの問題に関しては「別」と思っている男性は多い、という趣旨のことを書いたところ、それこそ「右」からも「左」からも攻撃された。


 私自身、そういう言動が始まった途端、Twitterを全く見ないようにしてやり過ごすが、知人たちからは「大丈夫か」と心配されたから、よほどひどいことも書いてあったのだろう。私が朝日新聞にいたことから「アカヒ」と言われていると教えてくれた人もいた。


 ネット上のハラスメントや攻撃にはいくつかのパターンや共通点がある。そしてこうした問題が放置される原因や救済措置へのハードルが非常に高い現実が、取材や自分たちの経験を通じて見えてきた。深刻なのは、一度ネット上でのハラスメント、暴力の対象になってしまえば、それから逃れる術が非常に限られており、精神的にも日常生活も大きなダメージを受けてしまうということだ。


 具体的な被害の実態はどこまで深刻なのか。いくつかのケースから見てみよう。


Case1 女性政治家


 北九州市議の村上さとこさんは、2018年4月に元文部科学事務次官・前川喜平さんらの講演会で司会を務めたのをきっかけに、Twitterで「中核派」だというデマを流され、漫画『ゴルゴ13』の主人公がピストルを構えた画像とともに「さとさと、消したほうがいい」と脅迫されるなど、攻撃を受け続けてきた。


 被害はネットに止まらず、抗議の電話が事務所や北九州市議会事務局にかかるようになり、「チョン女死ね、お前とお前の家族をのろってやる」と赤字で書かれたハガキ、死を願うような言葉と合わせて香典袋が入った封書も届いた。封筒には海軍旗の画像と安倍晋三首相の写真が貼られ、「アベノミクスナンバー1」と書かれていたという。


 さらに悪質だったのは、注文していないブラジャーや健康食品などが何度も事務所に着払いで送りつけられたことだ。村上さんは2018年6月に「さとさと、消したほうがいい」というTweetなどを「脅迫」、下着などの送りつけを「偽計業務妨害」の疑いで刑事告訴した。


 送りつけに関しては、前出の弁護士の太田啓子さんらと会見を開いて以降、被害にはあっていなという。SNSでの攻撃も当時のような大規模のものはなく、落ち着いてきたそうだ。


 しかし、刑事告訴後の進展はないという。


「消したほうがいい」とTweetしたのは匿名アカウントだ。投稿者を特定するためには、Twitter社に発信者情報を開示請求する必要がある。弁護士などが裁判所を通じて行うケースが多いが、村上さんのように刑事告訴した場合は、警察がその後の捜査を担当する。村上さんは言う。


「警察に尋ねても捜査の進展については教えてもらえません。情報開示請求の手続きはしたと聞きましたが。SNS上の被害は軽く見られているのではないかと思ってしまいます」(村上さん)


 SNSでの脅迫も商品の送りつけも誰によるものなのか分からないまま、村上さんは新たな恐怖にさらされている。


 2019年3月、村上さんの自宅ポストに一通の手紙が投函された。事務所の住所が書かれ、「もうそこには住んでいないんですか」と、行動を監視していることを伝えるような言葉が記されていたという。


 村上さんはネットでの攻撃や商品の送りつけ被害を受け、安全を確保するために自宅から別の場所に身を隠したばかりだった。その住所は事務所のスタッフにも伝えていない。警察に被害届けを出して防犯カメラを確認したところ、男性が手紙を投函する様子が映っていたそうだが、まだ投函者は見つかっていないという。


「手紙を見た瞬間、凍りつきました。Twitterから始まった嫌がらせは、鳴り止まない電話、商品の送りつけ、そして自宅の監視にまで悪化しました。SNSを発端に行動を起こす人は、私たちの想像をはるかに超える執拗さだと知って欲しいです。


 例えばデマ情報を削除するなど、ネットでの人権侵害に対処する法律を整備できるのは国会ですが、肝心の議員はネットで被害にあったことがないような高齢の男性が多く、政治課題として認識されていないのです」(村上さん)


Case2 弁護士


 国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長で、性暴力やAV出演強要問題などに積極的に取り組んできた弁護士の伊藤和子さんは、自身もたびたびSNSで攻撃されてきた。女性の権利について投稿すると、非常に強い抵抗があるという。


「児童ポルノやAV強要問題などは特にそうですね。男性がこれまで楽しんできた文化を取り上げようとしているように見えるんでしょう。反応をみると、女性を性的に消費したり、差別や暴力の対象にしてきたりしたことに対する内省がないと感じます。激しいバッシングにあうことでSNSの投稿を控えるようになる女性も多く、とても悔しいです」(伊藤さん)


 伊藤さんは2017年に経済評論家の池田信夫氏にTwitterやブログでデマを流されたとして、名誉毀損で提訴。東京高裁は池田氏に計約114万円の損害賠償の支払いを命じた。


「訴訟する前はネット上での名誉毀損を争う裁判は『どうせ負ける』『負けたときのダメージが大きい』という世間のイメージが強く、周囲にも心配されました。


 でもこうして勝ちましたし、勝訴後はネットでの攻撃はトーンダウンしたので、抑止力にもなるんだと思います。同じような悩みを抱えた女性がいたら、裁判を勧めたいです」(伊藤さん)


 しかし、相手が匿名の場合はハードルが高い。伊藤さんは2018年に繰り返しデマを流し誹謗中傷していた匿名のTwitterアカウントに対し、発信者情報開示請求の仮処分申請を裁判所に申し立てた。仮処分が認められた場合は、IPアドレスというコンピュータに割り当てられた識別番号が開示され、それを元に日本のプロバイダに名前や住所を開示するよう訴えるのだ。


 とはいえ、結局、IPアドレスは分かったもののその先に進めず、個人は特定できなかったという。


Case3 社会活動家


 同じようにTwitterでデマを流された仁藤夢乃さんも、匿名のアカウントによって大きな被害を被った1人だ。


 最初は元同級生と名乗る匿名のアカウントがきっかけだった。学生時代に仁藤さんにいじめられたという内容のTweetを執拗に繰り返し、それに呼応して仁藤さんを責めるTweetが溢れた。それらのつぶやきは約80ものまとめサイトに掲載されたほか、ウェブメディアの記事やYouTubeの動画としてアップされた。


「明らかなデマです。#MeTooのハッシュタグをつけて拡散され、『匿名の告発を推進してきたくせに』などと揶揄されたのもショックでした」


 仁藤さんには身に覚えのないことだったが、攻撃はSNSにとどまらなかった。


 仁藤さんが代表を務める、暴力や性被害にあった女子中高生をサポートする一般社団法人「Colabo(コラボ)」の問い合わせフォームには、「いじめの説明責任をとれ」「そんな奴が社会活動するな」という意見が大量に届き、仁藤さんの講演会の主催者やColaboに助成金を出している団体には、妨害の電話がかかってきた。


 同様の嫌がらせは、Colaboの活動を始めた当初から続いてきたという。女子高生に性的サービスをさせる「JKビジネス」の問題を訴えれば、「売春するのは朝鮮人だけだ」「日本を辱めるために嘘をついている」「お前も在日だ」。児童ポルノに反対すれば、「男性差別主義者だ」「自分はホスト通いして男を買っているくせに」。そんな脅迫や差別、根拠のない誹謗中傷が大量にTwitterや団体のHPに寄せられた。


 特にひどかったのは、2016年に性売買の当事者になった女子中高生の声を伝える「私たちは『買われた』展」を企画したときだ。1日で300件の誹謗中傷が届き、殺害予告やレイプ予告も複数あった。


 仁藤さんは少女たちの貧困や性被害の実態を伝えようと数多くの講演を行っているが、今は1人では会場に行けない状況だという。


 オンライン上のバッシングに共通するのは、声を上げる女性たちに対する暴力的な攻撃ということだ。長い時間をかけて少しずつ女性たちは自ら権利を獲得してきたが、その動きに対する反動、バックラッシュが顔の見えないオンラインという場で起きている。女性たちが声を上げる内容は女性、子どもに関するものが多い。


 電車で「子育て応援車両」を導入する活動をしている平本沙織さんも、その1人だ。平本さんは公共交通機関での子どもの安全な移動を求める団体「子どもの安全な移動を考えるパートナーズ」の発起人。自身が電車を使って子どもを保育園に連れて行く際に、電車で受けた冷たい反応を変えたいと団体を立ち上げた。


 しかし、団体の活動を始めた当初から、ネット上で平本さんに対する誹謗中傷が相次いだ、という。


「満員電車にベビーカーで乗るなんて非常識だ」


「子どもを危険にさらしている」


「電車に乗らず保育園に通える場所に引っ越せ」


 この問題が根深いのは、この中には同じ親、という立場の人も少なくなかったことだ。平本さんと同じような体験した親たちから、「自分も我慢したのに」という反応があったそうだ。


オンラインハラスメントの対策はあるのか


 オンライン上の嫌がらせ、暴力にあってしまったらどうすればいいのだろうか。私たちはこうした悪意に個人としてどう対応すればいいのだろうか。


 攻撃は主に匿名でアカウントが持てるTwitter上で行われることが多い。しかもRT(リツイート)と言われる機能によって、無責任で暴力的な誹謗中傷は無限に拡散していく。


 前出の仁藤さんはTwitter社に報告して攻撃してきたアカウントを凍結してもらったこともあったが、執拗に攻撃する人は複数いて、“いたちごっこ”のような状況が続いている。


 さらに問われるべきはTwitterなどプラットフォームの責任だ。


 仁藤さんはTwitter社に対して同級生を名乗っていた匿名アカウントの発信者情報開示請求を行ったが、Twitter社は「情報を一切保有していないことが判明した」「したがって、本件申立ては直ちに却下されるべきである」と回答。仁藤さんの弁護士らがIPアドレスの保存期間や情報を保有していない理由について尋ねたが、明らかにしていないという。東京地裁での弁論期日もTwitter社側は欠席し、請求は却下された。


 特にオンラインハラスメントの被害が多いTwitterでは、Tweetの削除や、仁藤さんのように被害を受けたアカウントの発信者情報を開示する仮処分申請を裁判所に申し立てることができる。


 だが前にも書いたように、仮処分が認められても、開示されるのはIPアドレスだけ。個人の特定には日本のプロバイダに対して開示を求めなくてはならない。通常、IPアドレスの保存期間は3〜6カ月と言われる。その期間内に二つの裁判をする必要があるため、スピードが勝負となる。


 さらなる高いハードルは、これらはすべてTwitterのアメリカ本社相手、だということだ。アメリカから資格証明書(商業登記簿)を取り寄せ、書類を翻訳しなければならない。仁藤さんの代理人を務める神原元弁護士によると、資格証明書とその翻訳で約6万円、申し立て書の翻訳で5〜10万円、弁護士費用などを含めると、一つのアカウントを特定するために約50万円はかかるそうだ。


 本人の作業としては、Tweetをスクリーンショットに撮り、URLを保存しなければならないが、自身への誹謗中傷を改めて見なければならないため、精神的な負担はかなりのものだ。


「今、東京地裁の保全係が扱う仮処分申請の大半はSNS関係の裁判だと言われています。それくらい被害は深刻ですが、一方で、泣き寝入りしない人も増えてきたということです。ただ、高額な費用や何度も裁判をしなくてはならないなど民事訴訟は被害者の負担が大き過ぎる。


 女性やマイノリティが狙われているのは明らか。悪質な投稿には罰金や懲役などの刑事罰を課し、警察が犯人を捜査できるよう法整備すべきです。ネット上のモニタリングや差別的な投稿を削除できる仕組みも整えていく必要があります」(神原さん)


 すでにドイツにはSNSなどの運営企業に対して、ヘイトなどの違法な書き込みを放置した場合、最大5000万ユーロ(約67億5000万円)の罰金を科すことができる法律がある。Twitter社によると、2016年に日本の法的機関などから1709件の情報開示請求があり、そのうち約62%は何らかの情報が開示されている(『透明性に関するレポート』より)。


一度ネットに書き込まれた情報は「デジタルタトゥー」


 同社の『執行機関/捜査機関向けガイドライン』には、「請求された情報の範囲が広すぎる場合は絞り込んだり、捜査の内容が不明確な場合には背景の説明を求めたり、さまざまな理由で請求を差し戻すことがあります」と記されている。これ以外にどんな場合に請求を差し戻すか筆者(竹下)が問い合わせたところ、「個別の事案に関しては回答していません」(同社広報部)とのことだった。


 仁藤さんの弁護士でもあり、オンライン上の被害にも詳しい神原弁護士はこう話す。


「仁藤さんの裁判では、匿名アカウントの発信者情報を開示させるために迅速に対応したにもかかわらず、Twitter社は東京地裁にも出頭しなかった。これでは被害者の救済も名誉回復もできません。IPアドレスの保存期間も含めて法整備が必要です」


 仁藤さんも仮処分申請が却下されたことを受けてこう話す。


「こんな展開になるとは思っていなかったので、驚きました。Tweetは事実じゃないと証明したいのに、その手段すら絶たれたということですよね。匿名の悪意にこれからどう対抗していけばいいんでしょうか……」


 前出のケースで取り上げた弁護士の伊藤和子さんもTwitter社に対して発信者情報の開示請求を行っている。


「発信者情報開示請求の手続き自体が非常に複雑で、最終的にたどれない場合もあるのは問題だと思います。SNSなどのプラットフォームは最後まで個人が紐付けされるようなシステムにすべきで、企業がそれをしないのであれば、プラットフォームの責任者が罪に問われるような法整備が必要ではないでしょうか」(伊藤さん)


「デジタルタトゥー」と言われるように、一度ネットに書き込まれた情報は、まとめサイトや掲示板などさまざまな方法で拡散され、全てを消すのはむずかしい。


 伊藤さんが取り組んでいるAV出演強要問題は、総務省が啓発したり相談窓口を設けたりするなど、国が対応することで改善してきた。現在は、プラットフォームに出演を強要された作品の削除を要請すると多くが対応するそうだ。


「やはり国が法をつくったり方針を示したりすべきです。政府もAV強要問題や児童ポルノ、リベンジポルノの問題には取り組むようになりましたが、もっと女性の人権全般に対象を広げて欲しいです」(伊藤さん)


 Twitter社とのやりとり一つとっても、個人で戦うには精神的にも時間的・金銭的にも非常に負担は大きい。だから深刻な被害を受けても泣き寝入りをせざるを得なかったり、もっと言えば、自ら発信することもやめてしまったり……。そうなれば攻撃側の思うツボだ。


 先の女性たちのように記者会見という形で被害が収まったケースもある。声を上げること、戦う姿勢を示すこと。苦しくてもやはり女性たち自身が行動を起こすこと。本来は法制度などももっと整えるべきだが、そのためにも声を上げる、そして声を上げた女性たちを支援する仕組みが必要だろう。


※Twitterの引用箇所などで一部不適切な表現が含まれていますが、被害の深刻さを伝えるためにあえてそのまま掲載しました。


(浜田 敬子,竹下 郁子)

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