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コンピュータ—を駆使し新時代を切り拓く若き日本人

JBpress8月14日(月)6時10分
画像:千田翔太6段(日本将棋連盟のサイトから)
千田翔太6段(日本将棋連盟のサイトから)

中国・浙江省烏鎮で、人工知能(AI)「アルファ碁」との対局に臨む柯潔氏(2017年5月23日撮影)。(c)AFP〔AFPBB News〕

 AIフロンティア領域の話題です。シンギュラリティということがまことしやかにささやかれます。

 20**年のある日、コンピュータ—が全人類の知性を超える・・・。

 SFとしてはどうか分かりませんが、現実の問題としては、私は極めて冷ややかです。だって、ある種の問題については、とっくに計算機は人間より先に行ってしまっているのですから。

 問題は、そうやって、人類を追い越してしまったコンピュータ—の知能を、人間にとって役立つ「叡智」として取り戻し、取り返し、さらにそこからイノベーションを展開、私たち人類や地球、環境に役立つ力にしていくか、そこが一番重要です。

 身近な例から考えてみましょう。

さながらポケモン勝負
すでに人類を追い越したコンピュータ—将棋

 いささか旧聞に属しますが、5月20日将棋連盟「電王戦」で佐藤天彦名人が将棋ソフトウエア「PONANZA」に完敗、囲碁でも中国の柯潔九段が「alpha go」に破れ、人類の最高峰はコンピュータ—ソフトに囲碁将棋で破れる段階に達しています。

 かつて、コンピュータ—将棋が出てきた当初、大山康晴永世五冠(1923-92)は人間とマシンの対局にアレルギー的な反応を示したと言われますが、大山死して四半世紀、ついにマシンは人間の名人を圧倒してしまった。

 と、これをシンギュラリティの何のと評論しても、大して面白いことは出てきません。逆に、すでに人間を超えてしまった将棋や囲碁のソフト同士を対局させると、何が起こるか?

 そこには前人未踏の凄まじい対戦、フロンティアの先にある棋譜が展開する・・・。そう考えた若い棋士が出てきても不思議ではありません。

 ご存知のとおり 千田翔太6段(1994-)など、現在20代前半よりも若い棋士たちは、すでにマシンが十分に並みの人間より強くなってから物心ついたと言えます。

 彼らは「ポケモン的世代」とも言うことができるかもしれません。

 つまり「僕がゲットしたモンスターと君のと、どっちが強いか、戦わせてみよう」ではないけれど、コンピュータ—将棋同士が戦う「超人戦」を、ごく普通のものとして受け入れる時代に生まれ合わせているわけです。

 少し前に史上最年少でプロ入りした藤井聡太君(2002-)を天才天才と呼号するブームがありましたが、半歩下がれば中学3年生の少年です。

 オリンピックや私たちクラシック音楽の世界などでもあることですが、ティーンで頭角を現しても、その後伸び悩んで普通の人、というのは珍しいことではなく、加藤一二三九段が同様のコメントをしていて、好感を持ちました。

 ほかのひとならいざ知らず、それまで最年少記録を持っていた「神武以来の天才」が、度重なる大山・中原との対局で苦戦に苦戦を重ねながら、現役最高齢、最長勤続年数、通算対局数も敗戦数も最多ながら19世紀から21世紀までの名人と対局し1950年代から2000年代までA級で棋譜を残し続けてきた方が言うと、全くリアリティが違います。

 さて、そんな21世紀生まれの藤井君がどういう勉強法を実践しているのか、もちろん私は知りません。

 しかし、中学3年生の藤井4段からみてすでに明らかに「1世代上」、新卒社会人と重なる千田6段は、コンピュータ—同士の対戦から、かつての将棋の常識を打ち破る、新たな定石や妙手を導き出し、かつそのノウハウを惜しげもなく棋界に公開、将棋自体の水準向上を大事に考えています。

 若いですが、千田6段という人はなかなかいない大器だと思います。

 将棋には様々な「定跡」があります。古来から名人上手が積み上げてきた偉大な遺産という側面がありますが、「これが定跡だから」と漫然と駒組みし、また対戦者も、そういうものだから・・・と漫然と認めるような「常識」が、コンピュータ—にはありません。

 たとえば矢倉という定跡があります。

 お約束どおりにちんたらと先手が矢倉に駒組みしていると、後手のコンピュータ—はお約束無用のとんでもない奇手を連発、意表を突かれた先手がおたおたしていると、あっという間に後手有利の形勢へ・・・。

 といった将棋史を塗り替える新展開が「コンピュータ—の反撃」から生み出されました。

 「対矢倉左美濃急戦」として、いまや棋界では新常識となりつつある新潮流です。

 この流れを先導した第一人者が、若い千田翔太6段、いまだ大学生程度の年齢で、新しいツールを手に、青年たちが歴史を塗り替えている、現在進行形の1つと言えるでしょう。


メゾ・スケールの「知のマイニング」

 もし仮に、「将棋は勝敗しかない」と考えて、多くのメディアはその段階にとどまっている典型ですが、

 「佐藤名人、コンピュータ—に敗れる!」

 程度の議論に終始していたら、その先何一つ面白い展開など生まれません。いわば「マクロな問題」の表層だけを注視して、本質を見ない、つまらない話と思います。

 また逆に、一手一手のミクロな指し筋の検討、これはまあ古典的な勉強法で、ないことではありませんが、それだけでも見えないことがある。

 千田6段のアプローチはそのどちらとも違う、コンピュータ—同士の対戦・・・いわば「超人将棋シミュレーション」から様々な可能性を敷衍、演繹しつつ、戦法にまで高め、従来の人類が分かったつもりになっていた「将棋」という領域を根本的に「ナレッジマイニング」し直している。

 そこに注意するべきだと思うのです。

 日本将棋連盟は平成29年度の升田幸三賞を千田6段に授与しました。

 授賞理由は「(対矢倉左美濃急戦・角換わり腰掛け銀4二玉・6二金・8一飛型)」(の開発・発展)

 千田6段と面識はありませんが、メディアで見る彼の応答から察するに、「これは自分の実力だ」などと慢心したことは決して言わず、「自分より強いコンピュータ—に学んだ」的なコメントをするように思います。

 千田6段の慧眼は大変なものだと思います。彼がやっていることは、仮に物理で考えるなら、理論家が実験のシミュレーションをしているようなもので、人間だったら「あれはコンピュータ—がやってくれたことで」などとは言わず、自分の業績と言うに違いありません。

 そうやって主張していかないと生き残れないような学問政治の状況になっていることに、一抹以上の疑問を持ちますが、実際そうでしょう。

 千田6段は升田幸三賞の賞金を「コンピュータ—将棋のおかげで取れたから」と全額コンピュータ—将棋選手権に寄付したという話を漏れ聞きました。

 彼の仕事は「マクロ」な勝ち負けでもなければ「ミクロ」な一手一手でもない。

 その中間「メゾ」領域にある「定石攻略法」ないし「新たな定石を生み出す貢献」という意味で、まさに「人間を凌駕しつつあるコンピュータ—を活用して、新たな世界を開拓する」最先端の貢献、前回触れた「知の死角」を切り開く、新世代の仕事になっていると思います。

 同様のアプローチは、電子商取引からロボティクス、各種IoTまで広範に存在しえます。千田6段は世代の中でもその最先端を行く1人、末頼もしい若き俊才であるにとどまらず、その所作からにじみ出る、次の時代を背負って立つ器量が、本当にすばらしいと思い、陰ながら応援している次第です。

(つづく)

筆者:伊東 乾

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