若手官僚が厚労相に「緊急提言」 36歳代表者が込めた思い

8月29日(木)12時21分 J-CASTニュース

厚生労働省の業務や組織改善を求める緊急提言を2019年8月26日、同省の20〜30代の若手職員を中心とするチームが根本匠厚労相に行い、注目を集めた。

提言に込めた思いとは。J-CASTニュースでは28日、チーム代表の人事課・久米隼人課長補佐(36)に話を聞いた。





調査で見えてきた「言葉を失う」意見




チームは4月25日に発足。厚労省の職員約3800人にアンケートを実施したり、省内外の関係者にヒアリングをしたりした。その中で聞こえてきたのが、



「厚生労働省に入省して、生きながら人生の墓場に入ったとずっと思っている」

「家族を犠牲にすれば、仕事はできる」

「毎日の帰宅時間が遅い、業務量をコントロールできない」


など、「厚生労働省の職員として、言葉を失う」(緊急提言より)意見だった。



緊急提言では、具体的内容として、以下の内容を求めている。


(1)生産性の徹底的な向上

(2)意欲と能力を最大限発揮できる人事制度の改革

(3)「暑い・狭い・暗い・汚い」オフィス環境の改善


電話がひっきりなしにかかってきた




チーム代表の久米さんが提言に込めた思いとは、何だろうか。



久米さんは、徳島県出身。子どものころから貧困分野に関心があった。大学受験で上京した2000年代初頭、初めてホームレスを間近で見た。



「徳島では見たことがなかった。概念的には理解していましたが、高校生ながら衝撃を受けました。サラリーマンとして働いていた方がリストラなどをされてつらい状況にあると思った」


つらい苦しみを持つ人たちが世の中にたくさんいるのではと思い、政策をやろうと考えた。選択肢には、経済産業省か厚労省があった。



「(経産省で)新しい雇用や産業を作って、人々が雇用されていく社会をつくるのか。それとも、厚労省に入って寄り添った行政をするのか迷った。最後に決め手になったのは、どちらの視点を向いているかですね。経産省は経済の観点、厚労省は国民1人1人の目線に向き合っているところで、厚労省に決めた」


2006年に入省。最初は、保険局医療課にいた。厚労省は「ものすごく忙しい役所」だと聞いていた通り、とにかく大変で「電話などがひっきりなしに国民の皆さまからかかってきた」と振り返る。



「『あの病院のせいでお母さんが死んだ』や逆に、『この制度のこういうところはどうなっているんだ』とか。細かい照会というんですかね、照会事項がいっぱいあって、とにかくそれで疲弊したのはありましたが、一方で若手にいろんなことをやらせてもらえるような職場です。(上司は)みんな忙しく、上ができる仕事は限られていて、下の方で判断したりできるような仕事が結構あった。それはそれで結構おもしろいなとか思っていました」


久米さんの周りでは、厚労省を辞めた人も数人いる。



「体力がある、へこたれないような人間はこの組織でもやっていけるかもしれない。だけど、『自分のお母さんが病気して看病しなきゃいけない』とか、『子どもを世話しなきゃいけない』とか、『自分に持病が実はあるんだけど、オープンにできていない』みたいな人もいて、(昔は)今よりももっと言いづらかったと思う。そういう人たちがいたら、とてもこの環境では働くことはできないだろうな、と今になって思います」


厚労省職員の幸せは「1番最後」と考えていた過去




かつて久米さんは、「厚労省の職員が幸せになるのは、(国民の中で)1番最後」と考えていた。



「『お前ら税金で食わしてもらって、国民の期待に応えられる行政をやっていないのに、業務がきついとか生意気言うな』という人もいると思う。ぼくはどちらかというと、そういうふうに当時思っていた。『なんでみんな一生懸命働かないんだ』と」


しかし、6年前に子どもが生まれ、考え方に変化が生じる。



「子どもが生まれて妻に仕事をセーブしてもらった。育休をとってもらったのも妻です。妻はキャリア官僚として入っているので、『自分のキャリアを追求したい』との思いを持ちながらも、そういう働き方にせざるをえない。組織の中ではバリバリ働く人たちが出世していく。(妻が)負い目を感じるのを聞いて、いろんな場面でこういう思いをしている人たちがいるんだろうなと思った。職員1人1人がどうやったら活躍できるんだろう。この人たちが働いてつらいなと思う環境じゃいけないと思っている」


今夏から、妻には働いてもらい、保育園のお迎えは久米さんが行く生活をしているという。



「自分の仕事をある程度セーブしなきゃいけないこともあった。そういう人もみんな活躍できるというか、それで評価が変わらないような組織にしていかないといけない」


国会会期中は「毎日深夜労働みたいな状態」



今回、厚労相へ提出された「緊急提言」は3本柱になっている。



1つ目が、「生産性の徹底的な向上のための業務改善」。厚労省職員の負担になっているのは、国会業務だという。国会で開かれる委員会のスケジュールは、1〜2日前に決まる。開催予定が直前まで決まらなければ、質疑する議員からの質問通告が遅くなる。通告が開催前日深夜に及べば、答弁作成業務も深夜になる。



「事前に何を質問されますかと議員の先生にお伺いに行くが、どうしてもタイミングが前日の夕方や夜になる。そうすると、100問や200問の質問を夕方からさばかなきゃいけない。深夜労働や長時間労働になる。国会は会期中、ほぼ毎日開かれていますから、毎日深夜労働みたいな状態です」


提言では、委員会スケジュールを早く合意して共有することや、質問通告の2日前ルールの徹底を求めている。委員会での出入り柔軟化も求めており、担当の答弁後はすぐに帰庁し、別の業務を行える旨にも触れている。






2つ目は、「意欲と能力を最大限発揮できる人事制度」。若手チームが行ったアンケートで、「職員を大事にする職場である」と答えたのは、8パーセントだった。希望外の人事になっても、その部署から離れられない構造に疑問を投げかける。



「例えば医療や福祉もやりたいと思っていたのに、自分は年金だと言われると、ほとんどそういう政策にはタッチできない状況にある」


提言では、「意欲と能力のある優秀な職員の抜擢人事と、縦割り行政を見据えた職種間の人事交流を推し進め、組織のポテンシャル最大化へ」と求めている。



3つ目が、「暑い・狭い・暗い・汚い」オフィス環境の改善。「もう、『拘牢省(こうろうしょう)』とは言わせない。オフィス改革による生産性の向上」などをうたい、徹底的な書類の整理やPDF化などを求めている。



「職員がいきいきと働ける職場じゃないといい政策も打てない」




昨今、厚労省をめぐっては、統計不正問題などの不祥事が相次いだ。緊急提言では、「過酷な労働環境は、さらなる悪循環を引き起こしている」などとした上で、毎月勤労統計調査問題における調査報告で「不十分な人員体制による業務遂行・チェック体制の不備が、事案発生の理由の一つとして掲げられている」と指摘。また、起こりうる不祥事については、「組織全体として、一人当たりの業務量負荷が増し、労働環境がさらに悪化し、ミスが生まれ、チェック体制が不十分となれば、次の不祥事が発生する要因となりうる」と警鐘も鳴らしている。





久米さんは「国民の皆さんが期待してもらっているような行政ができてないだろう」などとした上で、「統計問題や裁量労働制のデータ問題などもあると結局、不祥事対応などで余計に人がそっちに割かれ、ほかの行政ができない状態。なんとかしなきゃいかんということと、人がやめていくような状態をどういうふうに組織として留めるか。気持ちよく働いてもらう、というようにしないと、いい政策ができないだろうと思います」と指摘する。



「職員がいきいきと働ける職場じゃないといい政策も打てない」。久米さんはこう強調する。



「ぼくは、国民に寄り添った行政をしたい。障害や難病を持った方、ホームレスの方や寝たきりの高齢者の方、虐待を受けた子ども......。つらい思いなどをしている状態は、人生誰しもあるかもしれないが、その人たちは特にそういう状態。『つらいこともあったけど、いい人生だったな』、『家族に囲まれていい人生だった』、『この仲間がいてよかった』などと最期に思える人を一人でも増やしたくて、この仕事をしている。その思いを共有してもらうためには、今よりも少し改善されて、まずは省内がよい職場になる。厚労省の人間もある程度そういう立場に立たなきゃ、人のことを考えられないと思います」


「好待遇にしてくれとか、楽したい」という思いは一切ない。「今よりも少し改善されて、少しの時間だけでも政策に当てられるとか、少し自分の家族の時間持てるとか、それでいいんです」。



(J-CASTニュース編集部 田中美知生)

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