「平和条約の締結という歴史的使命がある」 ロシア東方経済フォーラム 安倍首相演説全文

9月5日(木)18時33分 産経新聞

 安倍晋三首相は5日午後(現地時間同)ロシア極東ウラジオストクで開催された東方経済フォーラム全体会合で演説し、「平和条約の締結という歴史的使命がある。未来を生きる人々を、これ以上、もう待たせてはならない」と述べた。安倍晋三首相の演説の全文は以下の通り。

      ◇

 プーチン大統領、お招きに感謝いたします。本年もここウラジオストクでご一緒できて、喜ばしく存じます。(司会者の)ブリリョフさん、今年もまたご一緒でき、うれしく思います。そして壇上においでの指導者の皆さん。お一人、お一人、どなたも私自身よく存じ上げ、心から尊敬申し上げている方ばかりです。

 (インドの)ナレンドラ・モディ首相、(マレーシアの)マハティール首相、そして、(モンゴルの)バトトルガ大統領。プーチン大統領を含め、私たち5人そろうのがウラジオストクだという、そのこと自体に私は感興を覚えます。壇上の皆さまはいかがでしょうか。

 見えてくるのは、雄渾(ゆうこん)な一筆書きの連結です。北極海から日本海、南シナ海を経てインド洋へとつながる、滔々(とうとう)たる水の流れです。力強い波濤(はとう)です。いま声を大にして申します。皆さん、未来はここにある。ここにこそ、私たち皆の無限の可能性があるのです。

 私は本年も、未来と可能性をお話しに、未来と可能性だけをお話ししにやってまいりました。さてお集まりの皆さま、今から引用するのは、皆さまよくご存じの四行詩です。

……

 ロシアは、頭ではわからない/並の尺度では測れない

 何しろいろいろ、特別ゆえ/ただ信じる。それがロシアとの付き合い方だ

……

 さてこの有名な詩の「ロシア」を「日本」に置き換えていただきたいと思います。日本を「ただ信じる」のだとして、何をどう信じればよいでしょうか。それについて3つ、申し上げます。

 日本とは第1に、「ヴァンガード(先駆)」です。

 高齢化のような、皆さんがいずれ直面する問題に、世界で誰より先に取り組まざるを得ないからです。

 第2に、第1の延長で、日本は「ソリューション」です。皆さんが抱える問題に対し、いろんな解が日本にはあります。

 第3に、日本は「パートナー」です。皆さんが、信を置ける国。ひとたび約束を結ぶと、子々孫々、守って日本は堅固不抜です。

 プーチン大統領、ウラジーミル、会場の皆さんは、今回の私たちの会談が27回目だったことを、ご存じないかもしれません。そこは、よく知っていただく必要がありますね。皆さんにはぜひ、プーチン大統領と私は、幾度も幾度も、食事をともにしたので、皆さんが言う「塩1プード(重量の単位で約16キロ)分、一緒に食べた」仲なんだと、ご理解いただく必要があります。

 それでこそ、なるほどと合点いただけることがあるからです。「12の国家プロジェクト」についてであります。

 プーチン大統領が懸命に進めている数々の事業です。これを、私はじめ日本政府はよく知っています。よく調べたからです。調べたのはなぜかというと、日本はロシアと何の分野で、どう協力するのが最も効果的か考えたかったからでした。

 プーチン大統領と私は会うたび言うのですが、両国関係には無限の可能性があります。その可能性を開花させ、日本とロシアの関係を未来へ推し進めるには、どんな事業が望ましいかと、そこに私たちは目を向けたわけであります。

 スライドをごらんいただきたいと思います。

 向かって左側がロシアが進める12のプロジェクト。右側が現在進行中、日露協力の8項目。保健や人口、住宅・都市、環境の向上、中小企業や、労働生産性、雇用のサポート。左側、ロシアのそうした項目と、右側、日本が進める協力のあれこれが赤い糸でつながるところをじっくりごらんください。

 日露の協力8項目は、ロシアの国家的課題にとって、1つのソリューションとなることを望んで選んだものでした。

 ご覧いただくのは、その中間報告です。2分と40秒。短い映像です。

(※ビデオが流れる)

 このビデオのプロデューサーは私です。いかがでしたでしょうか。皆さんには何が面白かったでしょう。私が好きなのは、あの、つえを借りずにスタスタ歩けるようになった女性です。日本人の歩行速度を調べた調査によると、日本の、いまの75歳は、10年ほど前の65歳と、同じ速度で歩いているのだそうです。つまり日本の高齢者は、10年で10歳、若返ったことになります。

 日本の協力が、ロシアのおじいちゃん、おばあちゃんたちを、一人でも多くスタスタ歩けるようにできるのを想像しますと、私の顔は思わずほころぶわけであります。日本はそういう、明るい未来、尽きせぬ可能性を、ロシアの市井を生きる人々にお見せしたい。私たちは、いつもそう願っています。

 もう少し、大きな話をします。

 最初は、巨大な廃棄物処理場の話です。ゴミ処理を近代化する必要は、年次教書でプーチン大統領が強調された項目の1つでした。皆さま、日本の日立造船のグループ企業がこの7月、モスクワ近郊のゴミ焼却プラントを受注しました。

 処理容量は日量最大7600トンです。毎日7600トンものゴミを燃やすと同時に150万人分の電力を生み出せます。というと、モスクワ市の電力需要の1割以上がゴミを焼くことで賄える計算です。

 次は、日本の自動車会社についてであります。各社がお国への関心を高めています。トヨタは、サンクトペテルブルク工場への追加投資として、2028年までに200億ルーブル使います。併せて、いわゆる「トヨタ・ウエイ」を広く伝えようと、サプライヤーの製造ラインを改善し、工場現場で働く人たちの技能を高めています。

 日本を代表するトラック・メーカーの日野自動車は、モスクワ郊外で工場を建設中です。中・小型のトラックを年産2000 台規模で生産する計画です。

 プーチン大統領と私が昨年見学に行ったここウラジオストクにある「マツダ・ソラーズ」の工場は、今年6月、エンジンの生産を始めました。年産5万基だそうでして、マツダの世界戦略にとって重要な工場です。

 そして、最も胸躍るお話。北極圏のLNG(液化天然ガス)、砕氷LNGタンカー、カムチャツカ半島での積み替えを経てアジア各国へという躍動的な発展です。

 昨年お話したときは、まだ計画段階でした。いまや日本企業が設計や建設に加わったヤマルのLNG設備は、3系列みな生産、輸出を始め、ついに6月、日本向けが初出荷にこぎつけました。日本の海運大手、商船三井は砕氷LNG船を3隻そろえ、ヤマルLNGの輸出に力を注いでいます。それから「アルクティクLNG2」事業です。

 年産2000万トン規模の巨大LNGプロジェクトに、去る6月、三井物産とJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)の出資が決まりました。日本は一大ステークホルダー(利害関係者)になり、やがてここから取れるLNGの買い手となるでしょう。

 カムチャツカを超えると、氷との戦いが無用になります。そこで普通のタンカーに積み替える。これが実現すれば、一筆書きの雄渾な連結の実現です。自由で開かれたインド・太平洋と、ロシアが開発を進める北極海。人類史上初めて、2つの海域が1つになって、偉大な物流の大道が誕生します。

 見てまいりましたような実例はほんの一部です。この3年、日露の協力が生んだ民間プロジェクトは、合計200件をゆうに上回ります。

 (ロシアの詩人の)フョードル・チュッチェフではありませんが、日本に対する接し方はただ1つ。「信」を置いていただくことだと繰り返したいと思います。

 「信」は、人と人の間で生まれ、人と人をつなぎます。過去1年は、日露関係史上空前の文化交流を続けました。

 この勢いをお互いの国中に広げよう。今年6月、プーチン大統領と私はそう決めました。2020年から21年を、「日露地域交流年」とします。地域と地域、例えば姉妹都市同士の交流に両国政府は取り組みます。

 ところでウラジオストクに来たいという人が、日本で増えています。私が毎年来ていることも、少しは役立ったかもしれません。ともあれ日本からの観光客、特に女性が増えたので、日本の2大航空会社がどちらも東京と当地を結ぶ直行便の運航を始めます。

 8項目の協力プランに関わるロシアの企業や研究機関に働く人には、今月から最長5年の数次ビザをお出しします。ロシアの大学生には、どんどん日本に来ていただけるよう、簡単にビザが取れるようにします。

 お集まりの皆さん、日本では新しい天皇陛下がご即位になり、時代の呼び名が改まりました。新しい時代の幕開けを告げる大きなイベントが、今月20日に始まる、ラグビーのワールドカップです。なんとその第一戦こそは日本対ロシア。

 私はもちろん日本の勝利を信じています。すみません、ウラジーミル。でもロシア選手のみなさんにも、がんばってもらいたい。日本以外の相手にでしたら、すべて勝ってもらって結構です。

 来年になると、東京が開くオリンピックとパラリンピックが待っています。日本に、未来を託すべきは今。私は皆さまに、そう訴えたい。日本とロシア、一緒に未来をつくるのは、今、であります。

 日本人とロシア人は、労働の喜びを分かち合い、若者同士は屈託のない笑いを共にする中で、歴史上初めて、夢を一緒に見る力を、そしてその習慣を、はぐくみあっているではありませんか。

 ウラジーミル。君とぼくは、同じ未来を見ている。行きましょう、ウラジーミル。ロシアの若人のために。日本の未来を担う人々のために。戦いが終わって来年で75年です。冷戦の終焉(しゅうえん)からでも30年。私たちは1956年に、二度と互いに戦わず、相互に敵とみなさず、平和愛好、善隣の原則に立って関係を築いていくことを固く約束しました。

 そして今、私たちは、貿易・経済、対外政策、文化・スポーツといったあらゆる分野での相互発展を同じ方向へと向かわせるべく、歩みを加速させています。

 北方四島での共同経済活動、人と人との交流も、かつてないまでに進みました。日露の新しい協力関係は、われわれ二人の努力によって、着実にその姿を見せつつあります。

 そしてその先に、平和条約の締結という歴史的使命がある。未来を生きる人々を、これ以上、もう待たせてはならない。ゴールまで、ウラジーミル、二人の力で、駆けて、駆け、駆け抜けようではありませんか。歴史に対する責任を互いに果たしましょう。平和条約を結び、両国国民がもつ無限の可能性を一気に解き放ちましょう。

 そのほとんど次の刹那、日本とロシアの連結は、地域を変える。世界を大きく変え始めるでしょう。

 会場の皆さん、ロシアのすべての皆さま、日本が皆さまの未来に加える新しい、そして大きな可能性に想像の翼をはためかせてください。歴史を一緒に作りましょう。未来をともに切り開こうではありませんか。

 ありがとうございました。スパシーバ。

産経新聞

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