「週刊ポスト」少年Aの今さら実名報道に週刊誌業界から失笑...安易な元犯罪者叩きはジャスティスハイか、権力に屈した反動か

9月14日(月)19時30分 LITERA

少年Aの「実名顔写真」を掲載した「週刊ポスト」(小学館)15年10月2日号

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 神戸連続児童殺傷事件の元少年Aがホームページを開設したことが大きな騒動となっている。このHPの存在は朝日新聞や「週刊文春」(文藝春秋)「週刊新潮」(新潮社)「女性セブン」(小学館)などに元少年Aが手紙とCD-ROMを送付したことで明らかになったが、挑発的とも思える元少年Aの行動に対しメディアはこぞって"更正などしていない"とバッシング報道を展開。


 本サイトでは、先日の記事で、一部週刊誌が元少年Aの実名や素顔、詳しいプロフィールや近況などを暴露する動きがあると報じたが、その危惧が現実になった。本日発売の「週刊ポスト」(小学館)10月2日号で、「少年Aの『実名』と「顔写真」を公開する」と題された記事が掲載されたのだ。


 記事は、Aの手記『絶歌』(太田出版)刊行や、HP開設を激しく非難するものだ。記事では、冒頭から識者のコメントを使い、AのHPについて厳しく批判してみせる。


「おぞましい罪を犯した自らの世界観を世間に知らしめて、社会に影響を与えたいという自己顕示欲だけが伝わってきます」(犯罪心理学者・矢幡洋氏)


 Aの表現を"自己顕示欲"だとし、HPにアップされたイラストやA自身と思われる全裸写真などを紹介し、それらを矢幡氏に分析させる。さらにAが「強く意識した」人物としてHPでも取り上げているパリ人肉殺人事件の佐川一政氏にコメントを求めた上で、実名を掲載する理由についてこう記している。


「Aと佐川氏には決定的な違いがある。佐川氏は実名と素顔を公表しての活動だったが、Aは匿名を守ったままだ」


 さらに手記の出版や朝日新聞などマスコミへの手紙の送付、HP開設など「自発的に情報発信を行っている」こと、また「被害者遺族の神経をかき乱し、大きく傷つけている」「少年法に守られた18年前とは違う」などを論拠に実名と顔写真を公表したのだ。ご丁寧にも人権派弁護士としてマスコミにも登場する紀藤正樹弁護士の解説付きで、だ。


「元少年Aはすでに成人です。しかもカレは自分の犯行を本にして出版しており、少年法61条に定められている"罪を推知する情報"を自ら公開している。だが、匿名のままではAが発信する情報に正確性や透明性は担保されず、国民は検証も論評もできない。それはおかしな話です。今回のケースは少年法61条の想定外であり、保護対象に入らないと考えます」(紀藤正樹弁護士、「週刊ポスト」より)


 しかし、犯罪を犯したのはあくまでAが14歳のときであって、今は6年の矯正教育に保護観察期間も終えて、犯罪者ではない。とくにHPについては、奇妙な作品群を発表しただけで、事件そのものには触れているわけではない。実名報道をする論拠としてはかなり無理があるだろう。


 ただ、そういった問題より、今回、意外だったのは、実名を掲載した週刊誌が「週刊ポスト」だったことだ。これまで少年犯罪に関して実名や顔写真を掲載して物議を醸してきたのはもっぱら「週刊新潮」「週刊文春」であり、「週刊ポスト」はこれまで少年犯罪について実名や顔写真を晒して報じたことはなかった。


 それがなぜ──。一説には、今回の実名報道は今年7月、編集長に返り咲いた「週刊ポスト」の飯田昌宏編集長のツルの一声で断行されたのだという。


「HPの存在を知るや、飯田さんは異常に興奮して、『こんなヤツをのさばらせちゃいけない!』と激怒。編集部に『Aの身元を徹底的に晒せ』と大号令をかけたようです」(小学館関係者)


 だが、飯田編集長といえば、もともと「死ぬまでセックス」シリーズなどのナンパ路線で知られる一方、批判精神は乏しく、権力にはからっきし弱いという評判の編集者ではなかったか。


 そもそも、同氏がわずか1年で復帰することになったのも、その「権力にたてつかない」姿勢が評価されてのことだった。


 実は、飯田編集長が返り咲く前、三井直也氏が編集長を務めていたときの「週刊ポスト」は反安倍政権の姿勢を鮮明にし、菅義偉官房長官の日本歯科医師連盟からの迂回献金問題や、高市早苗総務相の大臣秘書官をつとめる実弟が関わった「高市講演会企業の不透明融資」問題など、政権閣僚のスキャンダル記事を次々とスクープしていた。


 ところが、こうした「週刊ポスト」の報道に激怒した官邸は、様々な方法で「ポスト」に圧力を加え続ける。安倍首相と懇意の幻冬舎・見城徹社長を通した「ポスト」発行人の森万紀子氏への執拗な抗議、マスコミ人脈を使った小学館上層部や幹部編集者への個別のプレッシャー。さらに、スキャンダルを暴かれた高市早苗サイドは、三井編集長、森発行人らを民事の名誉毀損訴訟だけでなく、刑事でも告訴。菅官房長官も訴訟の構えを見せた。


 こうした安倍政権、官邸の圧力に震え上がった小学館は三井編集長が就任1年だったにもかかわらず更迭を決定、その後釜に前編集長だった飯田昌宏氏を出戻らせるという仰天人事を行ったのだ。


 実際、飯田編集長が返り咲いた後の「ポスト」からは、すっかり安倍政権批判は鳴りを潜め、当たり障りのない記事ばかりが掲載されるようになってしまっている。それがなぜ、今回、こんな記事を掲載したのか。


「いや、だからこそ、ですよ」と言うのは、飯田氏を昔から知る週刊誌関係者だ。


「権力には弱腰の飯田編集長ですが、抗議したり訴えてこない相手には、かさにかかって責め立てる傾向があります。嫌韓ブームのときもそれに乗っかって、ひどい嫌韓記事を連発していましたからね。今回も同じで、元少年A問題は多少過激にやっても、読者からも社会からも批判を浴びることはありません。もちろん官邸からもね(笑)。逆に嫌中嫌韓路線を支持する読者やネトウヨからは、大喝采さえ浴びるかもしれないし、実際、既にネットでは実名報道に関し「人権侵害がなんだ、社会正義だぞ」などと支持する書き込みもある。女性蔑視のエロ路線もそうですが、権力には媚び、力のない人間のことは徹底的に叩くということなのでしょう。今回の実名報道にしても、たいした覚悟があるわけじゃない。部数も低迷しているから少しでも話題になって部数が伸びれば程度の認識なのです」(週刊誌関係者)


 そういえば、今回の実名報道も「彼はもはや「過去の人」ではない。現在進行形の事件の主役である——」「少年Aの実名と顔写真を公開する」などと大々的に広告を打っていた割には、そうたいしたものでもなかった。


 というのも、「ポスト」が報道したAの実名と顔写真は既に、事件直後に「FOCUS」(新潮社/2001年休刊)や「週刊新潮」が掲載したものにすぎなかったからだ。これらは、ネットでも広く出回っており、「ポスト」はそれをまんま載っけただけで、事前に囁かれていたAの「詳しいプロフィール」も「近況」も何も書いていなかった。


「同じ小学館発行の『女性セブン』の8月6日号では都内で生活するAと思われる人物のアパートを特定し、そこに住む男性を直撃しているんです。そのため「ポスト」にはこの際、隠し撮りしたAと思われる人物の近影なども掲載されるのではと言われていたんですが、結局「セブン」報道の真偽すら「ポスト」では報じられることはなかった。おそらく、飯田さんのことですから、ぎりぎりのところで、日弁連などに抗議されるのを恐れて、引っ込めてしまったんでしょう」(同前)


 結果的には、飯田編集長の弱腰のおかげで著しい人権侵害は避けられたわけが、しかし、多くの人間が簡単にアクセスできる情報をわざわざ大上段にふりかざして掲載した「ポスト」のやり口には、週刊誌関係者の間からも失笑の声が漏れている。


 たしかに、実名報道の是非とは別のところで、このスカスカのセンセーショナリズムは余りに恥ずかしい。


 覚悟も取材力もなく、権力に対してはまったく批判ができないくせに、叩ける相手を見つけたときはもっともらしい"正義"をふりかざして糾弾する。これでは、「ジャスティスハイ」丸出しの2ちゃんねらーたちとそう違いはないではないか。46年の歴史をもつ「週刊ポスト」ももう先は長くないかもしれない。
(伊勢崎馨) 


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