『ミヤネ屋』でフェイク “文在寅攻撃の急先鋒” 武藤正敏・元韓国大使の正体! 徴用工企業の顧問を務め司法介入疑惑でも名前が

9月19日(木)6時58分 LITERA

『ミヤネ屋』でフェイクを語る武藤氏

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 連日、飽きもせずに韓国バッシングを展開しているテレビのワイドショー。「国と国との約束をやぶる韓国はけしからん」「関係悪化の諸悪の根源は文在寅による反日政策」なる大合唱を繰り広げているが、そんなコメンテーターのなかでも特に目立っているのが、元韓国大使の武藤正敏氏だ。『韓国人に生まれなくてよかった』(悟空出版)なるヘイトスピーチ同然のタイトルの本を著書にもつ武藤氏だが、メディアでは「元韓国大使」の肩書をひっさげ、さも「韓国をよく知る専門家」として振舞っている。


 しかし、そんな武藤氏の言説をよく聞いてみると、ところどころに胡散な臭いがプンプンしてくるのだ。


 武藤氏の特徴は、「文大統領の支持層はみんな過激派」「韓国は裁判官でも相当左がかった人が多い」などと自信満々に決めつけて、安倍政権の問題点や日本の戦争責任は一切ネグりながら、文在寅政権は「反日」で「トンデモ」だとひたすら喧伝するというもの。しかし、「文在寅が悪い」を強調しようとするあまり、そのなかには明らかな“フェイク”が紛れ込んでいる。


 たとえば、9月12日放送の『情報ライブ ミヤネ屋』での発言。番組では、韓国政府の法相に就任早々「検察改革」の旗印を掲げる曺国(チョ・グク)氏と検察当局との“対立”を特集したのだが、そのなかで、韓国国民が文政権の検察改革を支持する背景として、大ヒットした2017年公開の韓国映画『1987、ある闘いの真実』の話題が出た。この作品は、当時、全斗煥(チョン・ドゥファン)軍事政権の1987年に起きた、警察の拷問による罪なき学生の死亡と国家ぐるみの隠蔽、この事件をきっかけに盛り上がっていった韓国民主化運動の実話をもとに映画化したもので、民主化運動出身の文大統領も強い感銘を受けたことで知られる。


 番組では、MCの宮根誠司が映画『1987』に関連して「民主化運動をしてきた人たちは反権力みたいなところって、やっぱり身に沁みてるように思うのですが」と、中継先の武藤氏に話を振る。すると、武藤氏は「あると思います」と前置いてから、こんな“解説”を始めたのである。


「この映画が公開されたのは2017年の12月27日ギリギリですよね。おそらくね、今の政権になってからこれを作ったんだろうと思います。だから検察改革に対する国民の支持を得るためのね、かなり政治的な意図があってできた映画で。さらに今はないような過去のですね、そういう民主化闘争を題材にしてやるっていうのは、なかなか巧妙ですよね」


 ようするに武藤氏は、映画『1987』が、文大統領が検察改革の世論を喚起するためにつくらせた“プロパガンダ映画”であるかのように語ったのだ。実際、スタジオでは、この武藤氏の発言を受けて、出演者が「え〜!そこも〜!」と大げさに驚いてみせていた。


 ところが、これ、完全に事実無根のフェイクなのだ。


 そもそも『1987』の製作がスタートしたのは、文政権誕生後ではない。監督のチャン・ジュナン氏がインタビューで語るところによれば、「一番最初にオファーを受けた時はパク・クネ政権下だったのですが、脚本作業は秘密裏に進めました」という(ウェブサイト「映画ログプラス」2018年9月8日)。


 製作を秘密裏に進めざるを得なかったのは、当時の朴槿恵政権による弾圧を回避するためだ。「朝日GLOBEプラス」(2019年8月9日)のインタビューによると、〈チャン監督が今作を撮ろうと考えたのは、その朴槿恵の任期中の2015年冬〉であり、〈当時は朴槿恵の一連の疑惑もまだ明るみになっておらず、退陣を求めて大勢の人々が立ち上がった2016年10月からの「ろうそく集会」で韓国社会の雰囲気が大きく変わる以前〉。朴政権は「政府の政策に協力的ではない文化人」をブラックリストに掲載するなど、スキャンダルを隠すための弾圧姿勢を強めていた。チャン監督はこう語っている。


「朴槿恵政権は、まるで独裁体制時代に戻ったかのように文化業界を弾圧、政権に都合のいいことしか言わせようとしなくなり、歯がゆく感じていた。今作の製作を始めた頃は、ろうそく集会が起きるなどまったく想像もできない状況だったが、政権からどんな不利益を被ることになっても、勇気を出して映画にしたかった」


●徴用工訴訟の当事者・三菱重工の顧問、朴槿恵政権の最高裁への圧力でも名前が


 つまり、チャン監督は朴槿恵の保守政権が市民を弾圧する風潮に1980年代の軍事政権を重ね合わせ、それに抗うために『1987』を製作したのだ。その製作過程で朴槿恵が逮捕され、2017年5月の大統領選を経て、市民の圧倒的支持を受けた文在寅のリベラル派政権が誕生する。スケジュールから考えてもクランクインが同年4月で公開が年末。“文政権でつくられた”というのは、まったくの嘘だ。


 それを武藤氏は、「今の政権になってからこれを作ったんだろう」「検察改革に対する国民の支持を得るための政治的な意図があってできた」などと、テレビでデマをぶちまけたのである。明らかに文政権を貶めるための、意図的なフェイクだろう。


 だが、武藤氏の文在寅攻撃にはこうしたフェイク拡散だけでなく、もっと大きな問題がある。それは、いま、文在寅政権下で追及されている朴槿恵政権時代の疑惑に、武藤氏自身が関わっていたという問題だ。


 徴用工判決を厳しく指弾し、「文在寅大統領がやらせた判決である」と攻撃を行ってきた武藤氏だが、韓国大使を務めたあと、外務省を辞め、2013年1月から2017年末まで、徴用工訴訟の被告である三菱重工業の「顧問」に就いていた。


 この事実はすでに報道され、「当事者企業の顧問だった人物が客観的なふりをしてテレビで論評するのはおかしい」との批判の声が上がっているが、武藤氏はたまたま、当事者企業の顧問だけだっただけではない。


 韓国では、今年2月、朴槿恵政権時の最高裁長官だった梁承泰(ヤン・スンテ)氏が徴用工訴訟の確定判決を故意に先送りしたとされる疑惑や、司法行政に批判的な判事を選別したとされる「ブラックリスト」作成、裏金づくりなどで起訴されている。


 ところが、その梁承泰(ヤン・スンテ)長官の公訴状に、三菱重工顧問だった武藤氏の朴槿恵政権への働きかけが記述されているのだという。ハンギョレ新聞の報道によると、武藤氏は三菱重工顧問になって早々の2013年1月28日、当時の朴槿恵大統領候補の側近中の側近である尹炳世(ユン・ビョンセ)氏(のちに朴政権で外交部長官=外相に就任)と面会し、〈「最高裁の判決を変更し、請求棄却で終わらせてほしい」と要請した〉という(2019年2月18日付)。また、同紙は〈検察はこの場で2人が「政治的解決」を通じて、最高裁の2012年の判決の結論を請求棄却で終わらせる対策を議論したものと見ている〉とも報じている(2019年7月22日)。


 報道にある「最高裁の判決」というのは、2012年5月、韓国最高裁が元徴用工の人々が新日鉄と三菱重工を訴えた訴訟の上告審について、原告敗訴の原審判決を破棄し、高裁に差し戻す決定を下したもの。韓国最高裁が「1965年の日韓請求権協定で個人の請求権は消滅していない」と初めて判断した判決でもある。つまり報道が事実であれば、武藤氏は被告である三菱重工の顧問として、確定判決でこの2012年の最高裁判断を覆すために、朴政権で外相となる人物と秘密裏に協議していたことになる。


 しかも、武藤氏が協議していた相手の尹(ユン)外相にも、徴用工訴訟を巡る司法介入の疑惑がかけられている。韓国検察は今年2月、朴政権時代に大法院長(最高裁長官)を務めた梁承泰(ヤン・スンテ)氏に対し、政権の意向で日本企業の賠償を命じる確定判決を遅らせた等の職権濫用の容疑で起訴したが、尹元外相はこの司法介入に関与した重大な疑惑がもたれ事情聴取を受けているのだ。


●徴用工問題との関係を伏せ「韓国問題の専門家」として出演させるワイドショーの責任


 もちろん、公訴状に名前があったといって、実際に武藤氏が徴用工への賠償を命じる判決を遅らせようとした一連の司法介入事件に影響を与えたかどうかはわからない。しかし、武藤氏と三菱重工という徴用工加害企業の関わりがたんに肩書き上の話ではなく、武藤氏がその企業が徴用工問題で賠償判決を受ける事態を回避するために動き、朴槿恵政権の関係者と接触を持っていた可能性は非常に高い。


 しかし、だとしたら、問題なのは、武藤氏がいま、メディアで語っている言論にも、恣意的な意図があると考えざるを得ないことだ。武藤氏は元政府関係者とは思えない露骨なトーンで「徴用工判決は文在寅が出させた」などと攻撃をしているが、判決後の文在寅大統領や政権の対応を見ていると、むしろそれまで朴槿恵政権がかけてきたような司法への圧力をやめただけにすぎない。それをここまで無理やり「文在寅のせい」とわめきたてるというのは、顧問を務めてきた企業の利益を損ない、自分が朴槿恵政権に行ってきた働きかけを覆されてしまった恨みが背景にあるからではないか。また、武藤氏は文政権の進める司法改革についても「親分である盧武鉉を自殺に追い込まれた私怨やトラウマによるもの」「文政権は検察や裁判所を独裁支配しようとしている」などと厳しい調子で批判していたが、裁判所や検察をもっとコントロールしようとしていたのは朴槿恵政権なのだ。ようするに、武藤氏はコントロールのリモコンを韓国右派に引き戻したいだけなのではないか。そう勘ぐられても仕方がないだろう。


 ところが、武藤氏は自分の徴用工問題との関わりを一切ネグり、あたかも客観的な専門家のような体で、嫌韓とないまぜに“すべては文在寅大統領のせい”とする攻撃を繰り返している。武藤氏を重宝しているワイドショーも同様だ。武藤氏のことを「元駐韓大使」と紹介するだけで、徴用工判決をめぐって韓国側要人と面会したと韓国紙に報じられていることはおろか、「三菱重工の元顧問」という肩書すら、一切、触れようとしないのである。


 そして、いまでは、この武藤氏の語っているフェイクも含んだ発言がまるで客観的事実のように流通し、MCや他の出演者も、その情報をおうむ返しのように口にするようになってしまった。


 いや、問題は武藤氏発の情報だけではない。いま、日本のワイドショーがしたり顔で解説している文在寅政権攻撃には、韓国の民主化運動を弾圧した朴正煕軍事政権を源流とする右派勢力発の恣意的な情報も数多く含まれているのだ。そして、ワイドショーはこれらの情報をもとに、朴槿恵時代の強権政治や司法、メディアへの圧力をネグり、あたかも文在寅政権が独裁政治を行い、司法やメディアに圧力をかけているかのごとき恣意的な情報を垂れ流している。


 その意味で言えば、日本の嫌韓報道は、日本国民の韓国への差別感情と敵対感情を煽っているだけではない。韓国の民主主義を後退させる行為にも加担しているのである。
(編集部)


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