「お月見泥棒」って知ってる? 今も地域に残る風習の“実態”とは

2021年9月21日(火)9時45分 ウェザーニュース

2021/09/21 04:00 ウェザーニュース

2021年は9月21日が「中秋の名月」(太陰太陽暦の8月15日の夜に見える月)となっており、多くの人たちが団子などのお供え物を飾り、煌々(こうこう)と輝く満月の月見を楽しみます。ところで、「十五夜」ともいわれるこの日、全国各地で「お月見泥棒」と呼ばれる風習が行われていることを御存じでしょうか。
お月見泥棒の発祥と歴史について、歳時記×食文化研究所の北野智子さんに伺いました。また、多くのウェザーニュースアプリユーザーの皆さんから寄せられた、各地のお月見泥棒の“実態”についても紹介します。

子どもがお供え物を盗むことを許された!?

「お月見泥棒とは子どもたちがお供え物をこっそりと盗み取ることをいい、中秋の名月の晩に限って許される行為とされています。
発祥や歴史についての正式な史書などは見あたりませんでしたが、古くから十五夜のお供え物は、子どもたちがどの家のものでもこっそり盗んでよし、もらい歩くのもよしとされてきました。さらに、どこの畑に入って芋などを盗ってよし、よその家の柿などを盗るのも自由などという風習が全国各地にみられました。
子どもは月からの使いとみなされ、盗まれた家でも“お供え物が全部なくなる方が縁起がよい/盗られた家は豊作になる”と、むしろ喜んでいたようです。子どもたちにとっても“盗った団子を食べると健康でいられる/供えられた豆腐を食べるとお腹が痛くならない”とする地域もあったようです」(北野さん)
ウェザーニュースでアンケート調査をしてみたところ、今では見られなくなった地域が多いようですが、まだ全国各地で「お月見泥棒」の風習が残っているようです。特に福島県や茨城県、群馬県、愛知県、三重県、和歌山県、宮崎県などから情報が多く寄せられました。

各地のお月見泥棒の“実態”

地域ごとの具体的なお月見泥棒の実例には、どんなものがありますか。
「大阪では竹竿(たけざお)の先に太い針金をつけて、お供え物の団子を突き刺して盗みとります。このとき家の人は見ぬ振りで、小芋の衣被ぎ(きぬかつぎ)や枝豆で一杯やりながら、団子を補充しておきます。お月見泥棒は認められた可愛い盗人(ぬすっと)。懐かしい子どもの遊びでした。
静岡では米粉をこねて平らにし、真ん中をくぼませた『へそ餅』を作り、新藁(しんわら)を束ねて立てた上に載せてお月さまに供えます。すると子どもたちが長い竿の先に鉤(かぎ)をつけて取りに来ますが、大人は見て見ぬふりをします。これは“お月さまがお供えを受け入れてくれたとみなす”からだといわれます。また、この晩だけは勝手に畑のものを盗ってもよいとされたので、『盗人の晩』ともいったそうです」(北野さん)
東京近郊の農村では、先を削った棒で団子を突いて盗り、それを『団子差し』とか『団子突き』といいます。
お月見泥棒は子どもばかりではありません。新潟県朝日村、いまの村上市では青年たちが、アユ掻(か)き針やヤスを用いて他人の畑の豆や柿、ブドウを盗りにまわり、あちこちに宿を定めて盗んだ豆などをつまみに酒を飲みました。“十五夜様が許す”と、豆は藁3本の長さで束ねられるだけの量をとってもよいとされました」(北野さん)

小遣いまでくれる地域も!?

全国のウェザーニュースのユーザーからも、次のような風習が寄せられました。お月見泥棒の呼び名は、地域によってさまざまなようです。
「外灯の点いたお宅の前で“お月見頂戴な”と声掛けして、お菓子や果物、手作りの酒饅頭やお団子を頂いて帰ってきました。外灯の点いていないお宅は用意がない証拠なので寄りません」(神奈川県)
「“十五夜でーす”と言って頂くのはお菓子やミカン、ゆで栗や芋。お惣菜屋さんではコロッケも! 大分の掛け声は“十五夜くれなー”でした」(宮崎県)
「『柿たばり』と呼んでました。昔は柿や栗などが供えており、“たばらしてよー”と言って回りましたが、いまはお菓子です」(三重県)
「『ぼうしぼう』という、おもに農家の風習があります。旧暦8月15日と9月13日の夜に子どもたちが家々を回り、『ぼうじぼ』と呼ばれる藁鉄砲を地に打ちつけながら“大麦あたれ 小麦あたれ 三角畑のソバあたれ”などと唱えて豊作を祈る行事です。訪ねた家の方がお菓子、お団子、煮物などを用意し、お小遣いまでくれます」(栃木県)

お月見泥棒の風習に込められた意味とは

そもそも、お月見の際にお供え物をするのはどんな由来なのでしょうか。
「お月見にお供えするのは、月見団子に里芋、枝豆、栗、柿など秋の収穫物の初物です。名月を愛でるだけでなく農耕行事とも結びつき、収穫に感謝する意味をもっています。月見団子は関東では丸形。関西は子孫繁栄を表す縁起物である里芋をかたどった細長い形で、もともと里芋が供えられてきたことに由来します。このことから、十五夜の月は『芋名月』とも呼ばれます。
自然の恵み、秋の実りは、その家だけで独り占めせず、皆で分かち合おうとする昔の知恵の名残ともされています。お盆の施餓鬼(せがき)にもあるように、自分の家の祖霊だけでなく、より広い意味でのご先祖や精霊を敬う気持ちが、お月見泥棒の風習に込められているようです。
近年、お月見泥棒を『泥棒』という言葉に抵抗があるからかブームに合わせてか、“和風ハロウィン”と呼ぶこともあるようですが、個人的には違和感をおぼえます。この風習に潜む先人の想いを伝承することが、忘れられてはならないと思います」(北野さん)
泥棒という名前とは裏腹に、どことなく風情も感じられる「お月見泥棒」ですが、地域のつながり、3世代が同じ家に住む大家族などの減少がこうした古き良き風習がみられなくなる遠因なのでしょう。
けれども、この風習に込められた先人の想いを考えれば、できるだけ続いてほしい習わしのひとつといえるのではないでしょうか。

参考資料など

『和食文化ブックレット2 ユネスコ無形文化遺産に登録された和食 年中行事としきたり』(和食文化国民会議監修・中村羊一郎著/思文閣出版)、『年中行事事典』(田中宣一・宮田登編/三省堂)、『民俗学辞典』(柳田国男監修/東京堂出版)、『暮らしのならわし十二か月』(白井明大/飛鳥新社)、『日本の「行事」と「食」のしきたり』(新谷尚紀監修/青春出版社)、『年中行事読本』(岡田芳朗・松井吉昭/創元社)、『なにわ大阪 食べものがたり』(上野修三/創元社)

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