コンビニ配送ドライバーの給料事情!営業職から転職した50代男性のリアル「正直とても厳しいですが…」
2024年9月29日(日)21時15分 All About
いつでもどこでも必要なものを購入できるコンビニへ途切れることなく商品供給を担うのは、夜間に走る配送ドライバー。物流の2024年問題が社会課題となる中、コンビニ配送ドライバーの給与事情と仕事のリアルについて物流ライターの蜂巣稔が取材しました。
一方、私たちの便利な生活を支えるコンビニの配送でも課題が。いつでもどこでも必要なものを購入できる、もはや生活のインフラともいえるコンビニへ途切れることなく商品供給を担うのは、夜間に走る配送ドライバーです。
物流の2024年問題が社会課題となる中、コンビニの配送ドライバーの給与事情と仕事のリアルについて取材しました。
ノルマが厳しい営業職→コンビニ配送のドライバーへ
お話を伺ったのは山本さん(仮名)、50代の男性です。山本さんの自宅は関東地方の郊外にあり、妻と子ども2人の4人家族。上のお子さんは社会人になりましたが、下のお子さんはまだ大学生だそう。あと数年は私立大学の学費が必要だそうです。約20年前に新築した一戸建て住宅のローンもまだまだ残っています。
山本さんは同じ県内の勤務先に、片道約1時間をかけてスクーターで通勤しています。まずはお仕事の内容を伺いました。
「コンビニの店舗に商品を配送しています。大学を卒業後、何度か転職をして今の会社に正社員として採用されました。前職はまったく別の業界の営業職でしたが、ノルマがきつく、心も体もボロボロになりました。
なかなか売り上げを伸ばすことができず、おまけに給与は歩合制だったので、家族を養うにはとても苦しかったですね。子どもたちの学費もかかり、いつも収入のことが気がかりでした。
今の会社ではノルマに追われることがなく、月の給与額が決まっているので、前職よりも安定しています。50代になり体力的にきつくなってきましたが、配送ドライバーとして毎日ハンドルを握っています」
そんな山本さんに、一日のスケジュールと仕事の内容についてお聞きしました。
「お昼の0時ごろに出勤し、配送が終わって配送センターに戻るのが夜中の1時ごろです。それから帰宅します。家に着くのは真夜中の2時ごろ。街も家も寝静まっていますね。一眠りするとすぐに出勤時間が来てしまいます。
運転するのは4トンのドライ(常温)の中型トラックです。お弁当や冷凍食品を運ぶ冷蔵・冷凍トラックもありますが、私は常温輸送の担当です」
配送する商品は清涼飲料水やビールなどの飲料、お菓子やインスタントラーメン、雑貨など。一番重いのは飲料だとか。500mlのペットボトル飲料は1ケース24本入り、1箱当たり12kgを超えます。今では600ml入りの商品もあるので、1ケース当たり15kgを超えることも増えたそうです。
一日に1店舗当たり約40ケースを、5〜6店舗へ合計約200ケースを配送しているといいます。
続いて、山本さんに配送の流れについても伺いました。
「配送は一日に2回転します。1回転目で5店舗分の商品を積み込み、配送センターを出発します。5店舗分の配送には約5時間かかります。これが完了したら、配送センターに戻ります。
休憩を取った後、再び5店舗分の商品を積み込み、2回転目の配送に出発します。こちらも5時間ほどかけて店舗への配送を行い、配送センターに戻るのが夜中1時ごろですね。
私の担当エリアは店舗間の距離があるので、移動時間がかかります。同じ地域に複数店舗が集中している都内とは、配送時間が異なるかもしれません」
大きな負担は荷物の積み降ろし
配送する商品は、トラックの荷室に直接積み込みます。店舗で荷降ろしをするときは台車に載せてから納品するそうです。これを1回転で5店舗分、コンビニ各店舗のバックヤードに商品を納めます。スーパーなどで見かけるカゴ車(車輪がついた背の高い金属製のカゴ。商品を積んだまま運べる)があれば、荷降ろしの負担と作業時間が減るのですが、なぜ使わないのでしょうか。筆者の疑問に山本さんは次のように答えてくれました。
「私が担当する配送では、カゴ車は使われていません。カゴ車を使う場合は、トラックに『テールゲートリフター』と呼ばれる昇降機が必要になるんです。
これはトラックの後部についている、鉄板が上下するエレベーターのような機械です。この機械を使うと、商品をカゴ車に入れたまま積み降ろしができます。
一方で、テールゲートリフター付きのトラックは、1台当たりで配送できる重量が減ってしまいます。テールゲートリフター自体の重量があること、空荷の状態でも30kg〜40kgあるカゴ車を何台も使うことで、トラックに積める荷物の積載量が減ってしまうのです」
どうやら一筋縄ではいかない事情がありそうです。山本さんは、さらに詳しく説明してくれました。
「トラックは、橋などを安全に走行できるように、法律で車両の『総重量』が決められています。総重量とは、トラック本体やドライバー、積載する荷物などすべての合計重量を定めたもので、これを超えることはできません。
積み降ろしが楽になる昇降機やカゴ車などの重量が増えると、その代わりに運べる荷物の重量が減ってしまう。ドライバーの負担軽減と引き換えに運べる量が減ってしまうのです」
配送の現場では「どれだけ多く運べるか」と「ドライバーの積み降ろしの負担をいかに減らせるか」の綱引きが発生していました。効率アップと利益追求が必要な企業側と、物流の担い手との間には相反する課題がありそうです。
ドライバーへの大きな負担と長い拘束時間は、物流の2024年問題でも大きな課題となっています。担い手不足が深刻化し、ドライバーの負担軽減を求められる中、納品先の荷主側の事情もありました。山本さんは続けます。
「仮にカゴ車が使えたとしても、コンビニの店舗にカゴ車の置き場所があるとは限りません。バックヤードは狭く、カゴ車の場合は商品を荷降ろしするコンビニ店員さんの作業が必要になるのです。なので、こちらの都合だけでやり方を変えるのは難しいです」
リアルな給与事情
一方、こうした仕事に対する給与面についてはどうなのでしょうか。単刀直入に山本さんにお聞きしました。「月の手取りは約30万円です。年収は額面では440万円ほどですが、控除後の年収は310万円くらい。ボーナスは約15万円。前職の営業職では歩合給だったので収入が不安定でした。
今ではそうした心配はありませんが、住宅ローンの返済を抱えつつ、子どもを大学まで進学させるのは、コンビニ配送の収入では正直とても厳しいですね。
夫婦で働いていても、本当にカツカツな状況です。うちはなんとか大学に行かせていますが、結構周りは厳しいんじゃないでしょうか。私がいる会社は副業NGなので、収入を増やすことにも限界があるんです。労働量と収入は見合っていないと思いますね」
深夜まで長時間拘束されながら、私たちの生活を支えてくれる配送ドライバーの給与事情は極めて厳しい状況でした。個人の収入の課題もさることながら、業界には労働量と人材不足の相関もありました。山本さんは次のように話してくれました。
「コンビニ配送の仕事はたくさんあるのですが、なにしろ人が集まりません。慢性的に“ドライバー不足”で、新たな採用もますます厳しくなっています。その中でも、人が集まる仕事と、人が足りない仕事に偏りが生じているのです。同じ時給であれば、負担の少ない仕事が選ばれがち。
例えば、同じコンビニの配送でも、カゴ車を使って積み降ろしする方が、私のようなバラ積みよりも負担が少ないです。
そのため、カゴ車の配送にドライバーが流れてしまう。カゴ車を使えば、女性のドライバーでも体力的に対応でき、1件当たりの積み降ろしも30分程度と、短時間で完了します。
一方、バラ積みは人手による積み降ろしによって拘束時間も長くなり、ドライバーの負担が大きい。なので、たとえ配送件数が多くても、負担が少ないカゴ車を使うような仕事が選ばれます。
“コンビニ配送に限って”ですが、ドライバーの選択基準が、負担が少ない仕事にシフトしているのを感じます。収入が低い課題はありつつも、人材確保の面では労働量の問題が大きいと思います」
少子高齢化と人口減少によって、ドライバーの高齢化が進んでいます。さらに若年層の成り手も減少し、担い手不足が深刻になる中、物流の現場では労働量の軽減を求めるリアルがありました。
自分が選んだ仕事に対する矜持
山本さんはどのような気持ちを持って今の仕事と向き合っているのでしょうか。「今の仕事を選択したのは自分です。なので、お客さまには満足してもらえるように頑張っていきたいと思っています。配送先のコンビニの店長さんやアルバイトの人に名前を覚えてもらえるとうれしいですね。名前を覚えてもらえるのは信頼の証しではないでしょうか。
たまたま別のドライバーの代打で配送したときに配送先のコンビニの店長から言われてうれしかったことがあるんです。『昨晩、納品してくれたのは山本さんだよね。いつも、分かりやすく納品してくれるから……。並べ方で分かるよ』と。お客さまに感謝してもらえると自分に自信が持てるんですよ。
あと、“あいさつ”が大事ですね。時には返事がないアルバイトの人もいるけれど、相手はどうあれ、自分から続けています。あいさつから信頼関係を積み上げていくと、仕事をしやすい環境ができていくと実感しています。
確かに、給与面や働く環境面では厳しいところもありますが、それに腐らず、小さな信頼を積み上げていくようにしていますね。信頼関係ができると、お互いさまの気持ちが生まれて、クレームも少なくなるんですよ」
いつでも必要なものを購入できるコンビニ。その存在が当たり前となり、私たちの生活にはなくてはならないものとなりました。一方で、人が寝静まった夜中も配送を続けるドライバーは、厳しい環境ながらも人知れず矜持を持ってハンドルを握っていました。
【この記事の筆者:蜂巣 稔】
物流ライター。外資系コンピューター会社で金融機関・シンクタンク向けの営業、輸出入、国内物流を担当。その後2002年から日本コカ・コーラにて供給計画、在庫適正化、物流オペレーションの最適化などSCM業務に18年以上従事。2021年に独立。実務経験を生かしライターとしてさまざまなメディアで活躍中。物流、ビジネス全般、DXやAIなどテクノロジー領域が中心。通関士試験合格、グリーンロジスティクス管理士。
(文:蜂巣 稔)