【国難を問う(2)】最悪のシナリオは核保有した統一朝鮮の出現 日本列島は「ダモクレスの剣」を突きつけられるのか? 

10月13日(金)1時3分 産経新聞

15日、金日成主席の誕生105周年慶祝閲兵式で行進する人民軍各部隊=平壌・金日成広場(朝鮮中央通信=朝鮮通信)

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 「日本にとって朝鮮半島は常にダモクレスの剣なんですよ」。政府高官はぽつりとこう漏らした。

 ダモクレスの剣とは、シラクサ王のディオニシオス1世が、廷臣のダモクレスを天井から細い糸で剣をつるした王座に座らせたという古代ギリシャの説話にちなむ。冷戦下の1961年9月、米大統領(当時)のジョン・F・ケネディは、国連総会の演説で核戦争の脅威をダモクレスの剣に例えた。

 日本列島にとって、ユーラシア大陸から突き出る朝鮮半島はしばしばダモクレスの剣となってきた。

 日清戦争や日露戦争は、中国、ロシアの覇権が朝鮮半島に及びそうになったことで勃発した。歴史を遡(さかのぼ)れば、白村江の戦いや元寇も同じ構図だといえる。

 そして今、北朝鮮の核・ミサイルがダモクレスの剣となって日本列島の脇腹を狙っている。その糸はいつ切れてもおかしくない。首相、安倍晋三が衆院解散を「国難突破解散」と呼んだ理由もここにある。

 米軍による軍事行動に端を発する北朝鮮有事がにわかに現実味を帯びているが、それ以上に恐ろしいのは、北朝鮮崩壊後の東アジア情勢なのである。

 政府がもっとも恐れる「最悪のシナリオ」とは何か。それは核保有した統一朝鮮(韓国)の出現だ。

 もし核保有した統一朝鮮が、中国と足並みをそろえて反日・反米傾向を強め、在韓米軍が撤退を余儀なくされるとどうなるか。

 日本の防衛ラインは現在の北緯38度から対馬海峡まで一気に南下してしまう。日本海と東シナ海の制海権は脅かされ、シーレーンの維持すら心もとなくなる。

 日本は、安全保障上の脅威となる国から財政面でも圧迫されることになる。

 日本と韓国は昭和40(1965)年の日韓基本条約により、財産および請求権に関して完全かつ最終的な解決を果たしたが、北朝鮮とは国交を樹立していない。

 平成14(2002)年9月、首相(当時)の小泉純一郎が訪朝し、北朝鮮・朝鮮労働党総書記の金正日と合意した日朝平壌宣言では、国交正常化後に日本が経済協力を実施することが明文化された。その額は1兆円とされる。

 統一朝鮮が、北朝鮮に対する戦後賠償として、これを上回る金額を要求する可能性がある。核を喉元に突きつけられ、領海・領土を脅かされながら、日本はそれに応じるのか−。

 ×  ×  × 

 現在の米中両国の関係をみると、両国が安易に統一朝鮮を認める可能性は少ない。

 中国は米国の同盟国と陸続きの国境線で接することを極度に嫌っており、米国も統一朝鮮の行方に懸念を示しているからだ。米中両国とも、北朝鮮という緩衝材となる国家があった方がありがたいのだ。

 ロシアも北朝鮮の行方に強い関心を持っている。

 ロシアは、西側国境で北大西洋条約機構(NATO)加盟国とにらみ合ってきた。露大統領、ウラジーミル・プーチンが、東側国境にまで米国の息のかかった統一朝鮮が出現することを容認するはずがない。

 北朝鮮はもともと、旧ソ連が傀儡国家として打ち立てたというプライドもある。中朝関係が冷める中、水面下で北朝鮮を支援し続けるのも、プーチンが朝鮮労働党委員長の金正恩による独裁体制の存続を願っているからにほかならない。

 北朝鮮もロシアへの傾斜を強めており、9月下旬には北朝鮮外務省の実力者とされる北米局長、崔善姫がモスクワを訪問し、露巡回大使のブルミストロフと会談した。

 ということは、たとえ北朝鮮が米軍の軍事行動により崩壊したとしても、統一朝鮮はできずに、38度線以北に「ポスト金正恩体制」が出現する可能性は大きい。

 「ポスト金正恩体制」の統治形態について、米中露はそれぞれの思惑で激しい綱引きを始めるだろう。日本が蚊帳の外に置かれたまま、米中露の首脳会談で新たな統治形態が決められてしまったらどうなるか。第二次大戦後の世界の枠組みを英米ソの首脳が密約してしまったヤルタ会談の再来ともいえ、日本にとって朝鮮半島はやはりダモクレスの剣となりかねない。

  ×  ×  × 

 「最悪のシナリオ」はもう一つある。

 米国がギリギリの段階で軍事攻撃を取りやめ、米朝で対話することだ。

 1993年の核危機では、94年6月に米元大統領のジミー・カーターが電撃訪朝して北朝鮮主席の金日成と会談し、これがその後の米朝枠組み合意につながった。日本は蚊帳の外に置かれたまま、資金援助だけを求められた。

 現在も米国内では民主党を中心に対話路線を求める声は少なくない。一部には、「北朝鮮に最小限の核保有ならば容認すべきだ」との声もある。

 米大統領のドナルド・トランプは過去の対話路線を全く評価しておらず、批判を続けているが、土壇場で対話路線に転じる可能性はなお捨て切れない。根っこに自国の利益を最優先させる「米国ファースト」があるからだ。

 米朝対話で、米国が最も脅威に感じる大陸間弾道ミサイル(ICBM)や水爆の放棄などと引き換えに、金正恩体制の存続と支援を約束したらどうなるか。

 場合によっては、自衛のための最小限の核保有を認める可能性もある。さらにノドンなどの短距離弾道ミサイルの保有が黙認されると、日本は今後も北朝鮮の核・ミサイルにおびえ続けることになる。

 首相の安倍晋三とトランプの信頼関係を考えると、米国が日本抜きで対話路線に切り替える可能性は小さい。だが、今回の衆院選で、日米同盟に批判的で、「安保関連法は憲法違反」などと主張する勢力が多数派となったらどうなるか。日米関係は一気に冷え込むに違いない。ダモクレスの剣は国会議事堂の天井にもぶら下がっている。(敬称略、田北真樹子)

産経新聞

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